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You can't make omelet without breaking eggs.

 満身創痍の『抵抗派』三人だったが、重く傷ついた体を引きずり、明宅へと着いた時にもう一つの―、

 もう一つの絶望が、三人を待ち望んでいた。

 ただ三人は、そこに立っているしかなかった。そして、見下ろすしかない。

 力を失った者の体を。

「・・・明・・・さん」

 明の体は冷たくなっていた。心臓は動いておらず、顔色は蒼白しており、それはまるで―いや、死体そのものだった。

「・・・なんで・・・なんで明・・・さん・・・」

 悠太は崩れ落ちた。心が黒に染まっていくのが分かる。

 直人は明の脈を確認すると、ため息をついた。

「駄目だな・・・死んでる」

「誰がこんなこと―」

「もう見当はついているだろ」

 直人は悠太に目を向けた。

 義明も、大体の見当がついていた。しかし、その見当は、三人が最も考えたくないものだった。

「ま・・・まさか」

 悠太はその答えを探り当て、絶望した。


 ―野中高亮。


「あいつが・・・あいつが殺したということか・・・」

 信じたくなかった。彼は同級生だ。悠太は彼の笑顔を今まで見てきて、共に喜び、戦いあった仲だったのを覚えている。

 直人は明の遺体に近づき、その冷たい首もとに触れた。

「・・・見たところ、骨が折れている・・・こんなことができるのは・・・」

「野中だけ?」

 あぁ、と直人は答える。外傷がないのだから、死因は首の骨の骨折としか考えられない。―それができるのは、『影』の能力を持つ、高亮だけだ。彼は、人の影の形を変えることができる。

「・・・信じられない。明さんは、野中の母親だろ」

 義明はイスに座りながら、冷えた紅茶カップへ目を向けた。まだ紅茶が残っている。

「その母親を殺したなんてな・・・アイツ、何があった」

 直人は紅茶のカップを掴み、中を覗き込んだ。

「待てよ、アイツがやったとは限らないだろ?」

 悠太が主張するが、義明は首を振る。

「残念だが、高亮が戦いに参加しなかったのなら、そちらのほうがつじつまが合う」

「・・・そんな」

 直人は紅茶のカップを置くと、ため息をついた。

「・・・どうしようか」

 明の冷たくなった体は、若干輝きを放っているように見えた。それは『光』の能力者が成せる奇跡なのか、それとも三人の視神経に損傷があるのか。

「・・・このままにしておこう。警察が来るのは厄介だ」

 直人は言い放って明の体を抱き上げ、ソファの上に乗せた。

「ゴメン、明さん。我慢してくれ」

 どうせあと少しで世界は終わるんだからな、と付け足し、そのまま出口のドアまで歩み寄る。

「新海、どこへ行くんだ?」

「他の部屋を使わせてもらおう・・・俺らにも休息が必要だ」

 そう言って直人はゾンビのように歩き、別室へと向かっていった。

 義明と悠太はお互いを見合わせた。

「俺たちも・・・寝るか」

「そうだな」

 この日三人は、極度の疲労によって、瞬時に寝ることができた。

 



 Ω



 焚き火を浴びる四人の前に、それは突然現れた。

 四人は驚きもしなかった。それが何であれ、脅威になるはずがないからだ。―この場には、世界最強が二人も存在する。

「何の用だ・・・スキアー」

 スキアーは笑みを浮かべ、焚き火のそばにしゃがみ込んだ。

「・・・役目を果たしてきた。これからは、自分の生きたいように生きる」

 スキアーは顔を上げ、その場にいる全員を見渡した。

 『火』の能力者、新海政貴。『剛』の能力者、川口翔馬。『地』の能力者、中込宏太。そして―、

「お前が、『空間』能力者か?随分・・・小さいな」

 アンノは肩を上げて首をすくめた。

「悪かったね。ちなみに、俺は『時間』の元素も継承している」

「あぁ、そうかい・・・すまないが、お前に頼みがある」

 スキアーはアンノの小さな顔に顔を寄せた。別に『時間』の能力を継承していること事態には、驚く必要もない。

「・・・お前は能力が吸収できるはずだ」

「あぁ」

「それなら・・・一つ頼みがある」

 アンノは高亮の目をのぞきこむと、笑みを浮かべた。高亮の瞳の奥に、純粋な『影』が渦巻いているからだ。―純粋な『影』。なんという皮肉だろうか。

「なんだい?」

「今日・・・『光』の元素を吸収しなかったか?」

 アンノは下を向き、しばらく考え込み、やがて顔を上げた。

「・・・毎日いろんな元素を吸収しているからね・・・はい、分かった・・・吸収したよ。確かにね」

「そうか・・・なら、俺にその能力をくれ。吸収できるなら、与えることもできるはずだ」

「えぇ・・・結構『光』って重要なポジなんだよねぇ・・・」

 アンノはかなり落ち着いていたが、その声色は嫌がっている。

「頼む。俺にその元素をくれ・・・頼む」

「でもなぁ・・・なんで君のような小さな元素者にそんなものを・・・」

「頼む!」

 唐突に叫び、―そして、土下座する。

「そいつが・・・欲しいんだ・・・そばに置きたいんだ・・・あいつは・・・あいつは・・・」

 声も震えてきたので、アンノは仕方なく高亮の頭の上に手を乗せた。

「・・・わかったよ。どうせ君が死ねば、また俺に還元されるし」

 高亮はようやく頭を上げた。その表情は、恍惚としていた。







 三人の体がようやく通常へと戻ったのは、戦いから二週間後だった。それまでは満足に動くことも出来ず、炊事や便など大変なものであった。戦いなどとんでもない。よくぞ帰宅できたと三人は密かに思っていた。それでも病院に通わず、睡眠だけで全ての傷を感知させたのは、やはり元素の力の恩恵だとしか考えられない。

「・・・おはよう」

 悠太は眠い目をこすり、リビングに入った。リビングにあった明の死体は、別室の倉庫に収納してある。

 明の死体はなぜか腐敗せず、死亡から十五日経った今でも、全く変わらない。死後硬直も見られない。

「おはよう~って、お前今日歩けてるじゃんねぇか!」

 義明がツッコむと、悠太はグッと親指を出した。

「あぁ。完治したらしい。あとは、お前らだな」

 さすが四大元素の一つだ。直人と義明は未だに満足に歩行できない。三、四歩でへばってしまう。

 悠太は点灯するテレビ画面へ目を向けた。

「・・・やっぱり今日もか」

「あぁ・・・ひでぇもんだ」

 義明は紅茶をすすりながら、悲しげにつぶやいた。

「終末は近い、ってことだな」

「明の言う『アナザー』まで、残り五日だぞ・・・どうするんだ」

 『アナザー』。それは、終末を引き起こす『ビック・バン』のことだ。生命の大爆発によって、もう一つの世界の『怪物』が流れ込み、世界は終末を迎える。

「それについては・・・考えがある」

 悠太はイスに座り、二人の顔を見た。

「決戦は・・・崩壊当日にしようかと思う」

「俺もそれは考えていた」

 直人は賛同した。無論、義明も。

 世界終末発動阻止の条件。それは、『アナザー』の阻止である。

 明の話だと、『アナザー』は発動の前に、大きなエネルギー体が現れるらしい。『光の降り注いだ日』と同様に。そのエネルギー体を破壊することが、勝利の条件である。

「だから・・・決行は当日しかない。―新海やアンノと戦う必要があるけど―」

「多勢に無勢だな。・・・数も力も違いすぎる」

 まさに絶望的な状況だった。

三対四(恐らく五になる可能性もある)・・・勝ち目があるように思えない。

「悠太・・・俺たち・・・」

 義明が言いかけたのを、悠太は阻止した。

「いや、言うな。・・・俺がどうにかする」

 それが虚勢なのは、二人から見ても分かった。でも、頼もしいことは頼もしい。

「フフ・・・頼むぞ」

 直人と義明は、同時にティーカップに手を伸ばす。

 勝ち目の無い戦いでも、挑まなければならない。それが自分の理想であり、世界中が望むハッピーエンドなのだから。

 悠太はテレビの画面を凝視する。

 テレビの中では、様々な地獄が映し出されている。近頃は、BPOのお咎め無しに残虐映像が垂れ流しだ。それほど、世界は今激動している。

 ―俺達が、世界を救う。

 悠太は静かに拳を握った。






 Ω










 ファカルティ






 Ω










 『マーベリック』の問題はついに世界規模の大問題へ発展した。対マーベリックとの戦争で、一国が壊滅するほどであった。この大問題に、日本は大幅に改憲し、国連は軍力を使って世界中を駆けずり回った。

 日本国内では、マーベリックが『国会議事堂』を襲撃する事件があったり、テレビ局を襲撃する事件があったりで、日本国内は二十キロおきに自衛隊が配備されることとなった。

 世界中はまさに大混乱であった。アメリカ合衆国サンフランシスコでは大規模なマーベリックの暴動によって数万人規模の死者が出、アメリカ軍が総動員される事態になった。スイスではマーベリックの集団との戦争が勃発し、国連軍が加勢するも、あっけなく敗戦。スイスの一部は荒廃した大地と化し、今でもマーベリックによる侵攻を続いている。

 

 正に『終末』にふさわしい世界といっても過言ではなかった。


 その世界を救うのは、―あの三人しかいなかった。








 三人は大地を踏みしめた。自然と、体中に力がみなぎるのを感じる。

 今日三人は猛スピードで始まりの地―小淵沢に向かう予定だ。

 

『アナザー』予定日は、翌日だった。


 悠太は靴のヒモを結び終えると、ゆっくりと立ち上がった。

 肺いっぱいに酸素が入ってくる感じがする。まるで、義明の『空気』の元素が応援しているかのように。

「さて―」

 悠太は振り返って二人を見た。二人とも、まだ顔に傷が残るが、それでも戦場に向かう戦士の雄雄しい顔をしている。

「行こうか」



 ―世界を救うために。



ついに局面です。最期の戦いは、どうなるのでしょうか。ちぎれた絆達は再び、一つになる日が来るのでしょうか。



題名は、フランスのことわざです、。

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