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衝突する派閥

ここで人物まとめ


濱田悠太はまだゆうた・・・『水』の能力・元素者。世界の終末を食い止めようとする【抵抗派】のリーダー。元素である『水』は世界を創世した『四大元素』の一つ。

新海直人しんかいなおと・・・『雷』の能力・元素者。悠太率いる【抵抗派】に属する。リーダーシップを執る、頭脳派の天才。

小田義明おだよしあき・・・『空気』の能力。元素者。悠太率いる【抵抗派】に属する。空気は読めないが、場を盛り上げることが出来る。


新海政貴しんかいまさき・・・『火』の能力・元素者。世界の終末を促進させようと目論む【保守派】のリーダー。元素である『火』は、世界を創世した『四大元素』の一つ。

川口翔馬かわぐちしょうま・・・『剛』の能力・元素者。政貴率いる【保守派】に属する。二本の日本刀を操る戦士。チャラい。

中込宏太なかごみこうだい・・・『地』の能力・元素者。政貴率いる【保守派】に属する。優しい反面、少しバカなところも。小田との会話になると、戦闘シーンだというのに、なんだか緊張感がなくなる。

 最初に攻撃を繰り出したのは、政貴だった。政貴はその大きな手の平から、炎の塊を出し、瞬時に悠太のふところへと入り込む。

「んな!・・・」

 悠太がそう言い掛けた時にはもう、遅かった。政貴の手の平は悠太の腹部に押し付けられたのだ。

 悠太は五メートルほど吹き飛んだ。服が燃え、気が動転する中悠太は地面を転がる。

 一瞬の出来事だった。政貴の体格からは予想もつかないほどの俊敏さである。

「これでもまだ・・・抵抗する気か?力で解決しようとは思わないが・・・状況が状況だけに、手段はいとわないぞ」

 悠太は腹部を押さえたまま、立ち上がった。腹部は恐らくヤケドを負っているだろう。見て確認するのも気が引けるほどに。あまりに早すぎて、些細な防護でさえも出来なかったのだ。水で応急処置をしようと試みるが、染みるので一瞬にして作業の手は止まる。

 それでもまだ、悠太の心は揺らがなかった。

「・・・それは、こっちの台詞だ!」

 悠太はそう言い捨てると、地面を強く蹴り、高く跳躍した。同時に、手の平に水の球体を作り出す。そしてそのまま、悠太はその球体を政貴に投げつけた。

 政貴は片手でその球体を、楽々と打ち消した。笑みまで浮かべている。

「甘いよ!」

 悠太は息を詰まらせた。やはり『火』の能力者だ。これぐらいで、堪えるはずが無い。

 悠太が地面に降りるなり、政貴は拳を振り上げて襲ってきた。―拳にはもちろん、炎をまとっている。

「・・・させねぇよ!」

 悠太は手の平から、帯状の水を発生させ、政貴に向けた。

 ―水の帯と炎の拳はぶつかり合った。

 火花と水しぶきを飛ばしあいながら、両者は同時に地面を踏みしめる。両者はどちらとも、歯を喰いしばっている。

 ここで、悠太と政貴はようやく目を合わせた。どちらも日常生活では見せるはずの無い、必死な形相である。

「・・・まだ覚醒して間もないものの、よく使いこなせているな」

 炎の赤を通して見ているため、政貴の顔は当然赤い。その赤さが、まるで赤鬼を彷彿させる。

「・・・それは、まっさんも一緒だろ」

 悠太の青い顔はそう答えた。真っ青な顔は、青鬼を彷彿―させない。

 二つの大きな力は、互角の力を見せていた―がしかし、

「・・・やはりお前だな」

 政貴は笑みを浮かべた。その笑みに、悠太は思わず顔をしかめる。

 次の瞬間、政貴の拳の炎の威力は瞬時に倍増し、悠太を空中へと叩き上げた。悠太はされるがままに、空中へと打ちあがる。

 政貴のジャンプ音と、悠太のうめき声が、重なり合った。

 空中を回転する悠太に、更なる追撃がされた。政貴の炎の玉が、数発も当てられたのだ。

 悠太は衝撃で飛ばされるしかなかった。ただ、力なくその体は地面に転がる。

「濱田ぁ!」

 義明は叫び、駆け寄ろうと一歩踏み出した。

「来るな!」

 政貴の一喝と共に、義明の足元が燃えた。

「・・・な」

 歴然とした力の差を感じた義明は、目を見開いて政貴を見た。

「これは、俺と濱田の話だ。お前らは介入するな」

「・・・そんなわけねぇだろ!俺も元素だ!」

「しかし・・・お前はただの元素だ。俺と濱田のような、起源ではない」

 義明は唇を固く結んだ。道理は通っている。その通りだ。政貴と悠太は、義明や直人を遥かに超えた存在だ。

「・・・それなら・・・」

 それでも、と義明は悠太を信じていた。

「それなら・・・悠太ぁ!立ち上がれぇ!立ち上がるんだぁ!」

 義明の声は異様に響いた。崩壊して無音がステータスとなった町のおかげだ。

「フ・・・神頼みならぬ、と友頼みか。プライドの欠片も・・・」

 そう言い掛けた時、傷だらけのわりかし小さな手が、政貴の襟首を掴んだ。

「黙れ」

 悠太は吐き捨てるように呟き、手の平を政貴の頭に押し付けた。

「俺とお前だけの話?・・・そんな訳ねぇだろ」

 破裂音とも、爆発音とも取れる音が響いた。―義明の笑い声も。

 政貴の体は遥か遠く、校庭の端まで吹き飛んだ。悠太は更に、政貴に追い討ちをかける。―政貴に受けたように、悠太も水の球体を何発も喰らわせたのだ。

 そして、悠太は政貴を見下ろした。水の能力ではあるものの、やはり威力は強いらしく、体の所々から血が流れ出ている。ウォーターカッターの存在と便利さも頷ける。

 そんな満身創痍な、悠太と同じような体なのにも関わらず、政貴は笑っていた。

「ククク・・・これを・・・これを待ってたんだ。血が沸いて、肉が踊るようなこの感覚・・・これが俺の待っていた・・・感覚だ!」

 政貴は言い終える前に悠太の手首を掴み、そして―投げた。

 悠太は叫び声と共に、校舎の隣の森へと投げられた。すさまじい力である。常人には到底できない。

 悠太の姿が森に消えると同時に、政貴も森へと消えたいった。

「ヤバイ!助けに―」

 義明は今に飛んで行きそうだったが、直人がそれを制した。

「やめろ。俺が行く」

 当然、義明は直人の手を振り払った。

「なんでお前なんだよ!俺だって―」

「三人の中で一番ケガが軽いのは、俺だろ?お前は、ここで生存者と自衛隊を守っててくれ」

 大爆発の衝撃で、義明も多少傷を負っていた。悠太に比べれば軽い方なのだが、日常生活と比べるとどうしても重い方になってしまう。

 義明は自分の肩から流れ出る血を見ると、ゆっくりとうなずいた。

「・・・分かったよ。行け」

 直人はメガネの位置を中指で修正した。お決まりの動作である。「メガネ」と呼ばれる由縁はここにあると言っても、過言ではない。

「任せろ」

 直人は走り出した。能力の如く、『稲妻のような速さ』で。


 生い茂る木々の中での戦闘は、悠太に不利を与えた。ある程度の範囲をとる悠太の攻撃は、制限されてしまうのだ。

 代わって政貴は、炎の如き俊敏さで悠太を追い詰めていった。何百発と撃たれた炎の球体は、ジリジリと森を焼いていき、悠太を取り囲む。

「お前とこれ以上戦う気はない。感じただろう?『水』と『火』では、力の差があるのは当然なんだよ」

 悠太は膝をついた。過剰に体力を使ったので、それが今になって堪える。

 二人を取り囲んでいるのは、木々ではなく炎だった。三百六十度全てを、悠太は炎に取り囲まれている。

 あえぎ声を上げ、悠太は政貴を見る。それでも、揺らぎは起きない。

「・・・俺は・・・悟ったんだ・・・お前のおかげでな・・・だから・・・お前とは・・・」

 そう言い、重い体を鞭打って再び立ち上がる。

 ―そして、その手の平には水の球体がある。

「お前に着いて行く気はない!」

 悠太が手を払うと、巨大な水の帯が現れ、二人の能力者を取り囲んだ。

 政貴は水の帯を見つめ、笑みを浮かべた。

「・・・何のつもりだ」

「決まってるだろ。やられてるだけじゃねぇってとこ・・・見せてやる!」

 その声と共に、水の帯が巨大化した。

 水の帯はそのまま、二人を取り囲む炎を次々に消化していく。

 一瞬にして、辺りには静けさが戻った。硝煙の臭いはどうしても消すことができないが。

「・・・そういうことだったのか。よく力を溜めておけたな」

「俺でもビックリだよ」

 そう言って、悠太は自分の手の平を見つめる。能力に秘められた可能性については、能力者自身が一番良く知っている。

 政貴は自分の体の二つの拳を突きあわせた。

「さぁて、仕切りなおしといくか」

 悠太はゆっくりと身構える。

「望むところだよ!」

 悠太は政貴に飛び掛った。拳に水をまとっているのは、政貴のマネだ。

 政貴の炎の拳と、悠太の水の拳がぶつかりあった。タイミングでは、政貴の方が優勢であった。力でも、恐らく政貴の方が強いだろう。―しかし、

 優勢を信じた政貴の目に、真っ青な拳が映った。

 ―間に合わない!

 もう一本の悠太の拳が、政貴の顔面に直撃した。―ボクシングの技で言う、ライトクロスのようなものだ。

 政貴は叫び声を上げ、その場に倒れこんだ。

「・・・んなぁ・・・」

 『火』は俊敏だ。しかも、冬の乾燥する季節ほどの俊敏である。しかし、スピードで上を行くのは、悠太の『水』だった。

 政貴の右頬は腫れあがっていた。当然である。あれほどの威力の攻撃を受けたのだから。

 その時、悠太の目の端に、森の中を走ってくる直人が映った。

「濱田ぁ!」

 まさにナイスタイミングだった。救援を借りるのはプライドが許さないが、強敵の前でそれは言ってられない。

「新海!こっちだこっち!」

 悠太が手招きをすると、直人の走る速度はより一層早くなった。―あれ、アイツあんなに早かったっけ?

 しかしその時、弾丸のように早い真っ黒な影が、直人にぶつかった。―案の定、直人の体は宙を舞う。そして、影は直人の体を掴み、どこかに消えていった。

 ―一瞬の出来事だった。

「・・・直人ぉ!」

 応答はない。あまりに一瞬すぎて、悠太は状況を上手く把握できない。

 その時、悠太の肩に政貴の手が置かれた。

「相手は俺だ」



 コンクリートの硬い地面を、直人は転がった。土の地面と違って、衝撃は丸々直人に跳ね返って来る。恐らく、ここは校庭の隣の道なのだろう。

「フハハハハ!ぶざまだなぁ!」

 喜々とした声が響く。それが妙に聞きなれた声なので、直人はとっさに立ち上がり、声の主を探した。

「・・・か、川口・・・」

 目の前には、日本刀を携えた川口翔馬かわぐちしょうまが居た。日常生活で立たせられている髪の毛は、今はペッタリと寝ている。そのせいか、少し髪が伸びているような気がする。

「わぁお。やっぱりお前だったのかよ・・・ウッケル」

 政貴のように、さほどキャラは変わっていないようだ。胸を撫で下ろす反面、お前こそ一番キャラ変われよ、と思ってしまう。

「川口・・・お前も・・・能力者・・・なのか?」

「あぁ。そうだぜぇ」

 尚も嬉しそうに言う川口は、日本刀をブンブン振り回す。

 直人の脳内を、瞬時に考えが駆け巡った。様々な憶測が、次々と浮かんでくる。

 ―川口翔馬は、中学二年生の時に転校してきた。ありがちな転校だ。別に気にかけるほどでもなかった。―しかし、その転校も、今となれば不思議が渦巻く。

 能力者―つまり元素達は、この町に集合するようになっているのだろうか?この地が、何かのスイッチにでもなっているのだろうか?

「新海!」

 川口の声で、直人は現実に引き戻された。直人は慌てて体勢を直し、川口を見る。

「お前は・・・悠太の仲間なのか?悠太の考えに、お前は着いて行くのか?」

 川口はそう言うと、刀を構えた。

「返答によっては・・・殺す」

 その言葉には、明確な殺意が込められていた。もしかしたら、ハッタリの殺意かもしれない。それでも、直人はその殺意を、脅威とした。

 脅威とはしたものの、直人は笑みを浮かべた。

「俺は・・・悠太に着いて行くんじゃない」

 直人はメガネの位置を再び修正する。思えば、よくあの転倒でメガネが倒れなかったものだ。

「俺と悠太・・・そして小田は、一緒に行くんだ」

 川口の表情は一瞬複雑になったが、すぐに元に戻った。

「そうか・・・ならば、まっさんの言うとおり・・・然るべき処置をとる必要があるな」

 直人は身構えた。不恰好な身構えだ。

「・・・俺を・・・殺すのか?」

「そうだ。まぁ、俺も戦うことに快感を感じたものでな」

 そして、二本の日本刀の先端を直人に向ける。

「あまり力というのは・・・感心できない」

「感心しないでいい。ただ、逆らう者は滅びるだけなんだからな・・・お前達は言わば、反逆者だ」

 直人はフッ、と小さく笑った。

「その通りかもな」



 肩の出血は思ったより酷かった。ただ地面を転がっただけだと思っていたが、やはりあの爆発はすさまじい威力だったようだ。すさまじ過ぎて、感覚が麻痺するほどに。

 怪物との戦闘で制服は緑色になったが、今度は自分の血によって、青い体操着が赤く染まりそうだ。

 大丈夫さ。出血ならもう、慣れてる。

 義明はそう呟きながら、気絶する自衛隊隊員の男の傍まで歩み寄った。やはり、鍛えられた人間と言えど、あの衝撃は耐えられないようだ。この分だと、輸送車の中の生存者はほとんど気絶しているのだろう。出てこないのを見る限り、絶対そうだ。

 義明は地面に座り込んだ。遠くから激闘の音がしているというのに、義明はこの場を動けない。

「クソッ・・・新海と代わってもらえればよかった」

 戦いの快感は、ギャグが滑ることの快感と似ていた。―また、次も。そう思う。

 仲間二人が激闘を強いられているのに、こんな場所で―そんな罪悪感が、義明にはあった。

 その時、ゴソゴソという、何やら衣擦れのような音が、義明の耳に飛び込んだ。

「なんだ?」

 義明はコッソリと立ち上がり、辺りを見回した。

 輸送車の方からだ。

 そして、衣擦れ音は更に大きくなった。―そして、扉に手をかけたような金属音も聞こえる。

「誰だ!」

 義明は能力を発動させ、瞬時に輸送車の裏側へ廻った。

「・・・アッ!小田!」

 中込宏太なかごみこうだいだった。宏太は扉に手をかけ、今にも開けようとしている。

「・・・何でお前がこんなところに?」

 宏太は慌てていた。何故目の前にこの男がいるのか、義明には分からない。

「お・・・俺は・・・俺は彼女を助けに来たんだよ!」

 バカか、と義明は宏太の頭を叩く。

「生存者は自衛隊に救出されんの。救出されるのを救出してどうすんだよ?それにお前がやったらただの誘拐でしょうに」

「だって、救出という名の連行だろ?」

 ウッ、と義明は言葉を詰まらせた。何処からその情報を仕入れたか分からないが、正解だ。何せ、世間的には生存者全員が、テロ主犯者の可能性があるということになっているのだから。

「いや・・・そうだけど」

「だから、俺が助けるんだ!」

「・・・で、お前は彼女を助けた後、どうするつもりだ?」

「え~と・・・その・・・一緒に世界の終わりを見ようと・・・」

 カオス。その一言しか浮かばなかった。彼女と世界の終わりを見ようなど、どこの映画の主人公も言わないことだろう。

「あぁ~お前も、まっさん側の人間なのか」

「そうだけど・・・ハッ、お前は・・・」

「悪いが俺は濱田の同志だ」

 宏太は顔をしかめて頭を掻いた。

「ん~そうか・・・それなら・・・予定変更」

 そして、宏太はサッと身構え、指の骨を鳴らす。

「え~まさか、お前と・・・」

「いや~まっさんの指令なんだよね。ゴメンゴメン・・・でもまぁ、俺、闘いたいからさ」

 義明は笑みを浮かべ、拳を固めた。

 お互いは鋭く見合わせ、笑みを浮かべた。

「勝負だ、宏太」

「望むところっすよ」


 運命に決められたかのように、それぞれの闘いは始まる。


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