始まりは光なりき
ご覧の通り、厨二小説ですが、どうぞよろしくおねがいします。
対象年齢を下げているため、かなり割愛をしております。
私の本当の文体ではないので、本当の文体を知りたい方はマイページへどうぞ。
かつて、大いなる力がこの地球を作り出した。
この地球は創造された瞬間、ある一つの法則を産んだ。太陽が地平線に沈むように、それは必然性を秘めていた。
しかし、その法則が覆されたとしたならばどうだろうか。
―世界はどうなる?
Ω
濱田悠太は眠気眼をこすりながらイスに座った。どういうわけか、昨日の晩一向に眠れなかったのだ。文にして表現するのは難しいのだが、頭が常に悠太の名を叫んで妨害していたような感じだ。
悠太はため息をつきながら、机に覆いかぶさるように突っ伏した。この地域特有の気候が、悠太の体を身震いさせる。
濱田悠太。十五歳。とある小さな県の、小淵沢と呼ばれる町に住む。陽気な中学生だ。体格は小柄である。身長は伸びているのだが、吹奏楽部という部活柄、体をあまり鍛えなかったため体型は幼い。顔にも、まだ幼さが残る。音楽のセンスが恐らくこの学年の中で一番あるのだが、披露の機会は少ない。常にクラスのムードメーカーで、彼がいるのといないのとでは、クラスのムードは大きく変わる。
濱田は突っ伏したその体勢のまま、顎を机上に乗せて前を向いた。
十二月ともなるとやはり寒い。体が小刻みに震える。
しかし寒さより、卒業が近いことのほうが濱田にとって重要なことだった。小学五年生の時に転校してきて以来、慣れ親しんできたクラスメイトだ。卒業式のことを考えると、思わず涙腺がゆるくなる。
そんな寂しさがあってか、眠気を吹き飛ばすためなのか、悠太は前の席に座る男の背中を人差し指で突付いた。
「どうした?」
男はアクビをしながら振り返った。この男はいつも眠そうだが、今日はまた一段と眠そうである。
悠太は気だるそうに話しかけた。
「俺、昨日眠れなかったんだよねぇ~病気?ねぇ、これ病気かな?」
「知らねぇよ。でも、俺も眠れなかったんだよな」
そう言って、男はアクビをする。目の下が黒いのを見ると、本当に眠そうだ。
小田義明。悠太の席の前に座る、やや陽気な男だ。体格は元野球部であるだけの体格だが、身長は悠太と大して変わらない。目が細く、スタンダードの顔つきでも目つきが悪い。眉毛が極端に薄いのだが、本人は剃っていないと豪語している。髪の毛が天然パーマを患っており、前髪がやや丸く反ってしまう。有刺鉄線、とニックネームが一時期着くほど、髪が硬い。芸人のような男で、常に自分を資本としたギャグをする。確率は低いが、大いに笑いを巻き起こすことがある。クラスのムードを作るタイプではないが、盛り下げないようにすることはできる。ちなみに、小説を書けるらしい。
「なんで?お前も?」
悠太が聞くと、う~ん、と義明は細い目を更に細めた。
「あぁ。何か・・・頭を変な思念が渦巻いてる感じ?それが俺に叫びかけているようであって、実はそうじゃないように感じたりして・・・なんだろうな、って感じかな。病気かな」
小説を書いているだけあって、悠太より最善の表現である。しかし、それでも表現をしきれていない。
「まぁ、俺は彼女とメールしてたのもあるかな?」
悠太のお得意の冗談である。義明もさすがに慣れたようで、よかったね、と呟く。
義明は再びアクビをすると、机上の本に手を伸ばした。
体育の授業の後、悠太は水を飲んだ。運動するとノドが渇くのは、人間の法則であるからだ。
蛇口を捻り、水を出す。
「お疲れさん」
隣で同じような動作をしていのは、新海直人だった。悠太は水を飲みながら、片手を挙げる。
新海直人。秀才。メガネをかけており、「あれ、メガネが浮いている」と言われるほど、メガネが特徴的な男だ。声変わり前の声が聞きたいほどの低い声で、大人は感動するが、下級生は思わず笑ってしまう。言葉の選択肢を巧みに操り、的確なツッコミをすることが出来る。少々リアクションがオーバーなことでも有名だ。
直人は水を飲むと、その特徴的なメガネを中指でクイッと持ち上げた。
「濱田お前、数学の時間寝てたらしいな。小田と一緒に」
悠太は蛇口を戻して、口元拭いた。頭の中に疑問符が浮かんだが、それを片隅に追いやって直人を見る。
「何か眠れなかったんだよ。頭が妙に冴えて」
新海は腹の底に響くような声を上げる。
「俺は頑張って起きてるっつうのに・・・」
「え、じゃあお前も?」
新海はうなずく。
「眠れなかった。俺も昨日の夜、妙に頭が冴えていた」
う~ん、と悠太は声を上げた。
「なんでだろう。俺も小田も。新海はどうせ妄想だろうけど・・・」
そして悠太は、いやらしい手つきをした。
「やかましいぃ!」
いつものオーバーツッコミである。
そんな感じの、猥談のような雑談のような直人との談義を終えた悠太は、イスに座った。 先ほど飲んだ水の味が、まだ舌にこびりついている。水が舌を離れない感じだ。
濱田は再び、前の席に座る男の背中を突付いた。暇つぶしのための、義明である。
「なぁ小田、なんか水変じゃね?」
「何が?」
「だから、水」
小田は本を片手に首を振った。
「別に変じゃないよ。それどころか、今日は美味いと思うぞ。運動の後だし」
えぇ?と声を上げる悠太。思わず自分の味覚を疑う。では、この舌にこびりつく様な感覚はなんだろうか。
「寝不足だ、寝不足」
ヘラヘラと肩を軽く叩かれた。義明はそう結論づけて、さっさと前を向いて再び読書を開始する。
それでも尚、濱田の舌から違和感が離れることはなかった。
光と闇の産物。
影。
影は光に遮られた空間に出現するものであるが、それは決して闇ではない。だから、闇の中で影が出現することはない。闇と影は似て非なる存在である。影は、光によって誕生し、闇によって消える。
野中高亮はそういう存在だった。この世に生を受けた瞬間に出現した光によって、高亮は影を得た。光あるところに、影はできるものだ。
だからといって、高亮は決して根暗な男ではなかった。むしろ光だ。高亮は悠太と同様、クラスのムードを作ることのできる男だった。
少々口の軽い男だが、陰での努力は惜しまない。スポーツも万能で、ハッキリ言えば完璧である。しかし、その性格が少しその価値を下げている。視点を変えて言えば、それがいいのである。完璧でない方が、愛しいものだ。
そんな高亮だが、今日の心には影が渦巻いていた。
胸騒ぎを感じる。
教室の眩いほどの電灯に照らされる、シャープペンシルの影を見ながら、高亮は首をやや傾けた。
こんな日も珍しい。いや、初めてだろうか。
水ねぇ。
給食中、悠太は牛乳を飲みながら呟いた。
「何?また水が変なのか?」
悠太はストローから口を離した。
「なんか変なんだよな。味覚障害じゃなきゃいいけど」
「お前に限ってそれはねぇよ」
義明は手を左右に振って否定する。
「何で?」
「だって、給食は普通に喰えんだろ?」
悠太はプラスチック製の茶碗に目を向けた。
「なんでしょうかね」
確かにそうである。悠太が違和感を感じるのは水道水だけで、食品に使われる水分には違和感を感じない。
明らかに自分だけがおかしいと、悠太は気づいた。自分だけ、何かに気づいている。
マンネリとした気持ちのまま、五時間目に突入した。
悠太がこうしている間にも、法則は活動を始めていた。
始まりは光にありき。
その言葉の通り、始まりは光だった。この世界に投じられた一筋の光。その光が、全てを産み出したのだ。
―この小さな国の、小さな地方の、小さな町で。
それは一筋の光だった。
ボーッっと窓の外を見る濱田悠太の目に、一筋の光が映った。光の筋は、遥か遠くの上空から、地面へと降ろされる。綺麗な光の筋だ。
虹ではない。あきらかに不自然すぎる現象だ。ここまで真っ直ぐ、垂直に、光の筋が立ち昇ることはありえない。
「うわっ、なんだあれ」
悠太の性分で、この不自然で美しい現象を、広めないわけがなかった。
クラスメイト達が喜々とした声を上げながら席を立ち、窓側に寄った。先生でさえもだ。
「綺麗だね~」
「虹?」
「違うでしょ」
クラスメイト達がわき始めた。悠太も立ち上がり、窓側による。
パッと、光の筋が輝き、見るもの全員の顔を照らした。
「キリストでも生まれたのかね?」
悠太の右隣で高亮が呟く。
「だったら面白いのにな」
今度は左隣で、新海が反応する。
「すげぇ。誰か、写真撮ろうよ写真」
悠太の背後で義明が騒ぎ立てた。
悠太の心臓は高鳴っていた。理由は分からない。謎の鼓動が、悠太の耳に何かを届けているのだ。
何だこれ。
自分だけだろうか。綺麗だとか、神々しいとかの表現が出てこない。
奇異。
あの光から、それしか感じない。
「なぁ・・・野中、あの光、不気味に感じないのか?」
高亮は、驚いたような表情を見せた。
「え・・・濱田も・・・」
高亮の声がどういうわけか、動揺していた。
次の瞬間だった。
舞い降りる一筋の光が突然、驚くべきスピードで膨張した。爆発に似た膨張だ。
光の筋を中心として球体状に広がった光が、瞬時に悠太達を包み込んだ。
悲鳴や驚愕の声がクラス中を行き交った。
「な・・・なんだ・・・まさ―」
高亮が声を上げる。
悠太は思わず、拳を握り締めた。
―叫び?
しかし次の瞬間、光は消滅していた。その場に、光など存在していなかったかのように。
空虚に満ちた群青色の空が、天を覆っていた。それを見ていた全ての人は必ず、首を傾げただろう。
これが、二つの物語の始まりだった。
一つは、法則に従い消滅を受け入れた者達の物語。
もう一つは、法則に抗い続けた者達の物語。
二つの物語は、同じ時間軸を中心として同時展開されることになった。
濱田悠太の中で、何かが起き始めていた。