第15話:雨の中の決意
ひよりが泣き疲れて眠ったあと、私はしばらくその寝顔を見つめていた。
涙の跡がまだ頬に残っていて、まつげは少し濡れている。
寝息は静かで、胸が上下するたびに布団がわずかに揺れた。
その姿は、普段のひよりとはまるで違って見えた。
ひよりは強い。
誰よりも前向きで、誰よりも努力家で、誰よりも優しい。
でも、強い人ほど、限界を超えるまで誰にも頼らない。
ひよりはいつも「大丈夫」と笑って、自分の痛みを隠してしまう。
その強さが好きだったけれど、今はその強さがひよりを苦しめているように思えた。
――私は、ひよりを守りたい。
胸の奥で、静かに、でも確かにそう思った。
ひよりが泣きながら「怖い」と言ったとき、私は初めて気づいた。
ひよりは強いけれど、壊れないわけじゃない。
誰かに支えてほしいときだってある。
その『誰か』に、私はなりたいと思った。
翌朝、様子を見にひよりの家に行くと、まだ少し目を腫らしたひよりが玄関から現れた。
私の顔を見て、無理に笑ってみせた。
「休んだほうがいいよ」
私は思わず言った。
ひよりの足の怪我も、心の傷も、まだ癒えていないのがわかっていたから。
「行く。真白と一緒にいたいから」
その言葉に胸が熱くなる。
ひよりは私の存在を必要としてくれている。
それが嬉しくて、でも同時に胸が締めつけられる。
ひよりが無理をしているのが、痛いほど伝わってきたから。
学校に着くと、ひよりはいつも通り笑っていた。
友達に声をかけられれば明るく返事をし、授業中も真面目にノートを取っていた。
周りから見れば、ひよりはいつものひよりだ。
でも、私は気づいていた。
その笑顔の奥に、まだ痛みが残っていることを。
ひよりの目の奥にある影は、昨日より薄くなったようで、でも完全には消えていなかった。
昼休み、ひよりが席を立とうとしたとき、足を少し引きずった。
その瞬間、胸がざわっと波立つ。
「ひより……!」
思わず声が出た。
ひよりは驚いたように振り返り、すぐに笑ってみせた。
「大丈夫。ちょっと痛むだけ」
「無理しないで」
「無理してないよ」
ひよりは笑ったが、その笑顔は薄かった。
ひよりの笑顔は本来、太陽みたいに明るいのに、今は曇り空のように弱々しい。
その違いが、胸に痛いほど突き刺さる。
放課後、私はひよりの手を取った。
ひよりの手は少し冷たくて、指先がかすかに震えていた。
「温室、行こう」
ひよりは驚いたように目を瞬かせたが、すぐに頷いた。
その頷き方は、どこかほっとしたようにも見えた。
ひよりも、きっと誰かに寄りかかりたいのだ。
その『誰か』が私であってほしいと、心から思った。
温室へ向かう廊下を歩きながら、私はひよりの手を離さなかった。
ひよりも離そうとしなかった。
その温もりが、これからの私たちの決意を静かに確かめ合っているようだった。




