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第11話:ひよりの影

 ひよりと気持ちを確かめ合ってから数日。

 私たちは以前のように一緒に登校し、昼休みも隣に座り、放課後は温室で過ごすようになった。


 ひよりが隣にいるだけで、世界が少し明るく見える。

 歩く速度も、話す声も、笑うタイミングも、自然と合ってしまうのが嬉しかった。


 ――幸せだ。


 そう思う瞬間が増えた。


 ひよりの笑顔を見るたびに胸が温かくなり、手が触れそうになるたびに心臓が跳ねる。

 こんな日々が続けばいい、と素直に思えた。


 けれど、ひよりの笑顔の奥に、時折ふっと影が差すことに気づいていた。

 ほんの一瞬、表情が曇る。

 視線が遠くへ向く。

 そのたびに胸がざわついた。

 まるで、私の知らない場所へ心だけが置き去りにされているようで、不安が小さく膨らんでいく。


 ある日の放課後。


 温室でスケッチをしていると、ひよりがぼんやりと外を見つめていた。

 夕陽がガラス越しに差し込み、ひよりの横顔を淡く照らしている。

 その横顔はどこか寂しげで、胸がきゅっと痛んだ。

 ひよりの肩越しに見える夕焼けは美しいのに、ひよりの瞳にはその色が映っていないように見えた。


「ひより?」

 声をかけると、ひよりは少し肩を揺らし、我に返ったように瞬きをした。


「……あ、ごめん。ちょっと考えごと」

 ひよりは笑ってみせたけれど、その笑顔はどこかぎこちない。

 ひよりの笑顔はいつも太陽みたいに明るいのに、今日は薄い雲がかかったようだった。


「最近、疲れてる?」

 思わず問いかけると、ひよりは首を振った。


「大丈夫だよ。真白といると元気になるし」

 その言葉は嬉しかった。

 でも、胸の奥に小さな不安が残る。


 ひよりは強い。

 誰よりも前向きで、誰よりも頑張り屋で、誰よりも優しい。

 でも、強い人ほど、誰にも言えない悩みを抱えてしまう。


 ひよりが無理をして笑っているのだとしたら――そう思うと胸が痛んだ。


 私は筆を置き、ひよりの隣に座った。

 ひよりの肩が少しだけ揺れ、驚いたようにこちらを見る。


「無理しないでね。ひよりが辛いときは、ちゃんと言って」

 ひよりは目を瞬かせ、少しだけ目を伏せた。

 その仕草が、ひよりの心の奥に触れたようで、胸が締めつけられる。


「……真白って、ほんとに優しいね」

 その声は、どこか寂しげだった。


 ひよりの笑顔の裏に隠れている影が、ほんの少しだけ見えた気がした。

 私はそっとひよりの手に触れたくなったけれど、触れたら泣いてしまいそうで、そっと拳を握りしめた。


 ――ひより、何を抱えているの?


 その問いは胸の奥に沈んだまま、言葉にならなかった。



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