月から来た女が、家電より包丁男を選んだ理由。〜かぐや姫の婚活サバイバル〜
かぐや姫は竹ではなく、タワマン最上階のペントハウスからド派手に降臨した。
「月には絶対帰りたくない!電波悪いし、娯楽が光合成しかないのよ!」
ここに残る手段は、地球の男と結婚すること、ただ一つ。
ついでに言うと「合法的に永住したい」らしい。
「あと、地球の婚活ってバラエティ番組みたいで楽しそうなのよね」
姫の超絶微笑みに魅せられた男たちは、こぞって最新家電を抱えて扉を叩いた。
「最新型ルンバです!」
「ホットクック二台組です!」
「AI冷蔵庫です!」
……家電量販店かな?
姫は困惑顔でAI冷蔵庫を指一本で停止させた。
「家電は素敵。でも、電子レンジに話しかけても心は温まらないのよ?」
そこへ最後の求婚者が汗だくで現れた。
エプロン姿、腕まくり、両手に包丁。
「家電じゃなくて……俺は、手と技で勝負します!」
「え、なに? 料理で決闘?」
男はまな板の前で、突然ぴたりと静止した。
深く、深く息を吸う。
「……全集中……」
……
「料理の呼吸……」
…………
「……壱ノ型……」
姫が身構える。
「ちょっと待って、それ――」
「──千・切・り・一・閃!!!!!」
タタタタタタタッ!!
雷鳴と稲妻が轟き、包丁の太刀筋は見えない。
あまりの衝撃に姫のスマホが手から落ちた。
「速っ!? 包丁って音速出る!?」
数秒の沈黙。
まな板の上には、完璧すぎる千切りが山のように積まれていた。
「……必殺技、料理で使う人初めて見たんだけど」
「す、すみません!ついクセで……!」
耳まで真っ赤になる男。その周囲に、ふわりと立ちのぼる香り。
鰹と昆布の、ちゃんとした出汁。
「……すごい。こんな香り、月には化学調味料しかなかったわ」
「月にも料理あるんだ?」
「あるけど……誰かが私のために、出汁から引いてくれたことは一度もないの」
男は包丁を置き、まっすぐ姫を見る。
「じゃあ……これからは俺が作るよ。毎日でも」
胸に、出汁が効いたお味噌汁のような温かさが広がる。
「……そんなこと言われたら、月への帰りのチケット破きたくなるじゃない」
夜、窓に満月が映る。姫は微笑んだ。
「私ね……やっと帰りたい場所ができたの。ごはんの美味しい場所に」
──こうして姫は、月ではなく地球を選んだ。
ふたりはタワマンのローンを返しながら、今日も平和に暮らしている。
時々、千切り一閃で下の階をざわつかせつつ。
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