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第14話 繋がる過去と現在

「あなたは、本当に佐伯鈴ですか?それとも...私の姉ですか?」


エマの問いに、部屋が静まり返った。


「姉...?」私は困惑した。「どういう意味?」


カイルバーンが私の前に立ちはだかった。


「これはどういうことだ、リューン?なぜ敵がここに?」


「敵ではない」リューンは冷静に答えた。「彼女は裏切り者ではなく、実は長い間、我々の協力者だった」


エマは一歩前に出た。


「アルフォンス教皇の真の目的を知った時から、私は彼に疑問を持ち始めていました」彼女は静かに言った。「そして...あなたを見た時、確信したのです」


「何を確信したの?」私は恐る恐る尋ねた。


「あなたは私の姉の魂を持っている」彼女は真剣な眼差しで言った。「十五年前に亡くなった姉...エレイナの」


私は混乱した。エレナリアではなく、エレイナ?


「ちょっと待って」私は頭を抱えた。「私の中にいるのはエレナリアの魂だって聞いたわ。女神の...」


「両方だ」


振り返ると、セレナが部屋に入ってきていた。彼女も無事に逃げ延びたようだ。


「エレナリアの魂は何度も転生を繰り返してきました」彼女は説明した。「そのうちの一人がエマの姉、エレイナだったのです」


「十五年前...」カイルバーンが呟いた。「あの村の...」


エマの表情が暗くなった。


「そう、竜族の襲撃で家族を失った...と皆に言ってきました」彼女は苦々しく言った。「でも真実は違う。教皇の命令で姉は殺されたのです」


「なぜ?」私は震える声で尋ねた。


「姉もまた、歌の力を持っていました」エマは悲しげに言った。「村で隠れるように暮らしていたが、ある日その力が現れた。竜族の負傷者を歌で癒したのです」


カイルバーンが動揺した表情を見せた。


「その竜族は...私だった」


私はカイルバーンを見つめた。彼は続けた。


「十五年前、私は人間との和平を探るため、独自に国境を越えていた。しかし罠にはまり、重傷を負った。一人の人間の少女が私を見つけ、歌で私の傷を癒した」


「エレイナが...」エマは頷いた。「姉はカイルバーン王子を助けた。そして二人は秘密の友情を育んだ。しかし...それを教皇が知った」


「アルフォンス教皇は歌姫の力を恐れていた」セレナが言った。「特に竜族と協力関係を結ぶ可能性のある歌姫は」


エマの声が震えた。


「教皇は竜族の襲撃に見せかけて、村を焼き払った。そして姉を...」


言葉を詰まらせるエマを、リューンが静かに続けた。


「カイルバーンが彼女を助けようとしたが、間に合わなかった」


カイルバーンの表情に深い痛みが浮かんだ。彼はうつむいて拳を握りしめた。


「助けられなかった...」彼の声は苦しげだった。「それが私の中の深い後悔だ」


私はカイルバーンの腕に手を置いた。彼の肩が少し震えていた。


「そして今、あなたが現れた」エマは続けた。「姉と同じ力を持ち、同じ雰囲気を持つ人が。最初に会った時から、どこか懐かしく感じた」


「でも、私は佐伯鈴よ」私は自分のアイデンティティを守るように言った。「別の世界の、ただの演歌歌手」


「ええ、あなたは佐伯鈴です」セレナが優しく言った。「しかし、あなたの魂はより大きな存在...エレナリアの魂の一部でもあるのです」


混乱した私に、リューンが説明を続けた。


「エレナリアの転生者の多くは、ある時点で力に目覚める。しかし、それを恐れた権力者たちによって、歴史から消されてきた」


「教皇は同じことをあなたにもしようとしている」エマは言った。「だから私は彼の軍から逃げ、リューン王子に協力を申し出たのです」


信じられないような話だった。カイルバーンがそっと私の手を取った。


「つまり、あの老人...イグニスが言っていた『二つの魂』とは...」


「エレナリアとリン...あなた自身の魂です」セレナが答えた。「それが統合すれば、真の力が目覚めます」


「そして教皇はそれを恐れている」リューンが暗い声で言った。「さらに言えば...父上を蝕む闇も、彼と関係があるのかもしれない」


「どういうこと?」カイルバーンが尋ねた。


「父上の病は普通ではない」リューンは静かに言った。「何者かが仕組んだ呪いではないかと...」


「アルフォンス教皇が?」私は驚いた。


「まだ確証はない」セレナが答えた。「しかし...」


その時、突然私の胸に鋭い痛みが走った。まるで何かが中から出ようとしているかのよう。


「あっ...」


私はよろめき、カイルバーンが支えてくれた。


「リン!」


頭の中で再び声が響き始めた。しかし今度は断片的な言葉ではなく、鮮明な映像が流れ込んでくる。


過去の記憶...エレナリアの記憶。


男性との出会い...サリオン。彼の金色の瞳。カイルバーンに似た顔立ち。二人で世界を創り上げる力。そして...裏切り。争い。別れ。


そして別の記憶。エレイナとしての日々。小さな村での静かな暮らし。傷ついた竜族の少年...若きカイルバーン。彼を癒す歌。そして、炎に包まれる村。叫び声。痛み。


「リン!リン!」


カイルバーンの声が私を現実に引き戻した。彼の腕の中で、私は涙を流していた。


「見えた...」私は震える声で言った。「エレナリアの記憶...エレイナの記憶...」


「落ち着いて」彼は優しく言った。「急ぎすぎてはいけない」


セレナが近づいてきた。


「記憶が急速に統合されています」彼女は心配そうに言った。「まだ体と心の準備が整っていないのに」


「どうすれば...」


「安静にしてください」セレナは言った。「急激な統合は危険です」


彼女の指示でベッドに横たわったが、心は混乱していた。エレナリア、エレイナ、そして佐伯鈴。三つの人生が混ざり合う感覚。それでも、私は私...そう思いたかった。


部屋の中で、彼らは小声で会話を続けていた。


「時間がない」リューンが言った。「人間の軍勢は国境を越え、我が軍も迎え撃っている。戦争は始まったも同然だ」


「父上の容態は?」カイルバーンが尋ねた。


「悪化している」リューンは重々しく答えた。「もはや薬も魔法も効かない」


「儀式が必要なのでは?」エマが静かに提案した。


「彼女に危険を負わせるわけにはいかない」カイルバーンの声は強く、決然としていた。


彼の言葉に、心が温かくなった。愛という言葉を交わしたばかりなのに、もう彼なしの世界は考えられなかった。


しばらくして、部屋は静かになった。皆が休息のために退出し、カイルバーンだけが私のそばに残った。


「大丈夫?」彼は心配そうに尋ねた。


「ええ...少し落ち着いたわ」私は弱々しく微笑んだ。「でも怖いの...私が私でなくなってしまうことが」


「そんなことはない」彼はベッドの端に座り、私の手を取った。「どんな記憶を持とうとも、あなたはあなただ」


「でも、エレナリアやエレイナの記憶が増えるたび、私自身が...薄れていく気がする」


「そう思うのなら」彼は真剣な表情で言った。「私があなたを呼び戻す。何度でも」


彼の言葉に、安心感が広がった。


「カイルバーン...エレイナと過ごした日々を覚えてる?」


彼の表情が柔らかくなった。


「ああ...彼女は優しかった。小さな村で出会った人間の少女。竜族を恐れるのではなく、私の傷を癒してくれた」


「彼女はあなたを...特別に思っていたみたい」私は微笑んだ。「その気持ちがわかるわ」


彼も微笑んだ。


「もしかしたら...これは運命なのかもしれない」彼は静かに言った。「私たちが出会うのは、一度ではなく」


別の記憶が蘇ってきた。エレナリアとサリオンの最初の出会い。二人で創り上げた世界。深い愛。


「サリオンも...あなたに似ていた」私は呟いた。


「伝説の竜神か」彼は少し照れたように笑った。「私がそんな偉大な存在の生まれ変わりだとは思えないが」


「でも、エレナリアにとって...サリオンは全てだった」私は言った。「だから彼女は転生を繰り返しても、きっといつもあなたを探していたんだと思う」


彼は静かに言った。


「そして今、ようやく見つけた」


私たちは見つめ合い、彼は優しくキスをした。短いが、心が通じ合うような温かな接触。


「休んで」彼は言った。「明日、次の行動を決めよう」


彼が部屋を出た後、私はベッドに横たわり、天井を見つめていた。混乱しながらも、少しずつ整理されていく思考。三つの魂...いや、三つの記憶が一つに統合されようとしている。


翌朝、私が目覚めると、既に部屋には人が集まっていた。リューン、セレナ、エマ、カイルバーン、そしてヴェイン。彼らは地図を広げ、何かを協議していた。


「おはよう」カイルバーンが私に気づいて微笑んだ。「調子はどう?」


「良くなったわ」私は起き上がった。「何を話してるの?」


リューンが答えた。


「人間の軍勢の動きと、我が軍の配置だ。そして...」彼は少し躊躇った後、続けた。「父上の状態について」


「大王様の容態は?」


「危険な状態です」セレナが答えた。「闇の力が大王様を蝕み続けています。その源が何かを突き止める必要があります」


そこへ、竜族の使者が慌てて入ってきた。


「リューン王子!カイルバーン王子!緊急報告です」


「何事だ?」リューンが尋ねた。


「アルフォンス教皇が...」使者は息を切らしていた。「直々に炎翼城に向かっています。白旗を掲げて、和平交渉を申し出ています」


「和平?」カイルバーンは不信感を隠さなかった。「罠だろう」


「しかし、もし本当なら...」リューンが考え込んだ。


エマが頭を振った。


「教皇は和平など望んでいません。何か企んでいます」


「歌姫と引き換えに和平を提案してくるだろう」リューンは冷静に分析した。


私は立ち上がった。


「私が行けば、戦争は止まる?」


「リン、だめだ」カイルバーンが強く言った。「彼らはあなたを封印か、もっと悪いことをするつもりだ」


「でも、このまま戦争が続けば、多くの命が...」


部屋が静かになる中、セレナが静かに言った。


「もう一つの可能性があります」


全員が彼女に注目した。


「リン様が力を完全に目覚めさせれば...戦争を止める力を持つかもしれません」


「完全な目覚め?」カイルバーンが尋ねた。「それはどういう意味だ?」


「二つの魂の完全な統合です」セレナは答えた。「しかし、それには...」


「なにか危険があるの?」私は尋ねた。


セレナの表情が暗くなった。


「統合の過程で、自分自身を見失う危険性があります。佐伯鈴としての記憶が...消える可能性も」


その言葉に、部屋が凍りついたように感じた。カイルバーンの顔が青ざめた。


「絶対に認めん」彼ははっきりと言った。


しかし、私の中で何かが動き始めていた。もし、私の犠牲で戦争が止められるなら...それは死にたかった私にとって、最後の価値ある行動ではないだろうか。


その時、再び胸の痛みが走った。今度は前よりも強く、呼吸が困難になるほど。


「リン!」


カイルバーンの声が遠くに聞こえる。視界が暗くなり、代わりに頭の中に別の風景が広がる。


金色の光に包まれた神殿。サリオンとエレナリアが向かい合っている。そして...アルフォンスの祖先と思われる男性が、二人の間に割り込む。


そして啓示のように、真実が明らかになった。


「わかった...」私は弱々しく言った。「アルフォンス教皇が...大王を蝕む闇の源...」


全員が驚いた表情で私を見つめる中、私は続けた。


「全ては...千年前から続く呪いなんだわ」

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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