第4話 バクテリア
聞いたら後悔しそうだ...
...まあ気になるし聞こう。
「とある組織?」
「そう。そいつらはさっきの君がされそうになったみたいに影から人を眠らせ、攫う。そして存在を消す。まあ人殺しみたいなもんだ。」
「存在を消す?って...」
「まあなんというか、”実験”だよ。」
「実験?人体実験ってことですか?」
「まあ、そうだね。彼らはその行動から忍者って呼ばれてるんだけど、僕はこんな甘ったるい名前じゃ割に合わないほど人道を外れたことをしてると思うんだ。なんてったってその実験...」
「今ある人間を必要としなくなる。そして、生態系を崩すことにもなる。」
またそんな非現実的なことを...今の生態系が崩れるなんて、よっぽどの変化がない限りそんな事起こらないだろうし、人間を必要としないって...人間よりも高い知能と身体が必要だと思うけど...
「君の考えていることは分かる。人間を超える生物なんて、いるはずがないと。」
「でも、違うんだ。僕はその忍者って呼ばれてる組織を”バクテリア”って呼んでてね。
要するに”細菌類”だ。」
考えを読まれたのはまだいいが、”細菌類”って、もしかして
「もしかして人間を分解して、新しい生物を!!?でも、細菌類が栄養を蓄えて成長することなんて...」
「お、正解だ。君はなかなか頭が回るようだね。」
「確かに、本来の生態系では分解者は栄養を蓄えることなく、土に還す。
しかし僕ら人間が進化していったように、そいつらも栄養を蓄え、体を成長させるってことを覚えてしまった。人を喰った熊と同じ。それに、僕らとも同じ消費者だ。しかし、」
「でもそのバクテリア達は、僕らと違って何でも栄養にできる...」
「そうそう。しかもここ20数年の進化なのに人間と同じ、いやそれ以上の知能を持っている。完全に人間の上位互換だ。それに、君を狙った奴自体が細菌類の進化体だ。」
「え!!!?そんな隠密行動も出来てしまうなんて...」
「本当に人間らしいことするだろ?身体能力もなんならあっちの方が高いしね。本当に厄介だ。このままでは、後10年と待たずに分解者であるバクテリアが生産者、消費者を喰い尽くし、世界は崩壊する。彼らがしている実験ってのは、新しい生物を作る実験だけでなく、人間を攫い、殺害し、その死体を進化前の細菌類に与え、進化を促す。っていうことだよ。
これが僕らが止めようとしているとある組織だよ。中々正義だろ?僕ら。」
その事を聞いて、ようやく事の重大さが分かった。
作り話で騙されているとしても、わざわざ僕を攫って何かするつもりなら、僕は縛られたり眠らされたりしているだろう。力もない僕が抵抗する術なんて無いだろうし、この人が言っていることは本当だ。それに、僕には松坂さんと同じような雰囲気をこの人には感じた。僕は、この人について行くべきなのかもしれない。
そうだ、こんな状況なら僕は自分の記憶なんて取り戻している場合ではないんだ。
決めた。
「僕にも、」
「僕にもそれは止めることが出来ると思いますか?」
「!!?
まさか自分から言ってくれるとはね...」
ん?なんだその言い方...まるでそっちにもう入ることが決まってたみたいな言い方だな...
って!?
「自分から言ってくれるとはって...僕をその、はぐれ者集団に引き入れようとしてたってことですか!??」
「え?もちろんでしょ。もう話は聞いちゃったんだし、それに、、、」
柊さんが口を開く。
「私が無理やり頼んだんだ。」
「青年、感謝する。君には全てを乗り越えられる力があるとみた。あの医者との会話、全て聞いていた。」
「ん?」
待ってくれ、なんか今聞き捨てならないこt
「これからも、よろしく頼む。」
「まあ、こんな感じで柊から猛プッシュされてね。
とりあえず、僕からも、よろしくねとだけ伝えるよ。ところで、君の名前は?」
...なんか色々気になることもあるけど、組織には入るんだし、名前だけは言っておこう。
「そうでした。名前を言っていませんでしたね。
僕は究。八中究です。」
......
「変な名前だな」
「言わなくてもいいじゃん!?」
「あの...そろそろ私も会話に入っていいですかね?
私も途中途中話に混ざろうとしたんですけど...」
あ、話が衝撃的すぎて完全に忘れてた...
市橋さんが口を開く。
「あぁ... ごめんね
なっ...南海ちゃん...」
◆◇◆◇
この影薄っ...じゃなくて横にいた冷静な女の子は南海 成と言うらしい。そういえば市橋さんが名前を言っていた気もするけど、多分聞き間違いだろう。
この子も僕と同じ考えでこの”はぐれ者”に入ることが決まっていたらしい。
しかし...決して影が薄い見た目でも無い、なんならモデルかってくらい綺麗な見た目をしていた...?と思う。どうしてあそこまで影が薄くなれるんだ...?
「そろそろ僕らの本拠地に着くよ。」
「そうですか...市橋さん、組織って本当に危ないって言うかその、人を殺すことなんてしませんよね...?」
「ん〜まともなやつ以外はね?」
まともなやつ以外って、、、、やっぱり殺してんじゃねぇか!
...でもこの人たちは多分非人道的な事をしてるヤツらだけ任務してるんだよな...じゃあ大丈夫か...?そう思っておこう。
そこで南海さんが口を開く。
「ところで...」
ブクブクブクブク...
「この車、海の中に入りましたけどやばいんじゃないですか?さすがに...」
「南海さん何言って...え」
なんだって!!?
ばりばり運転ミスってんじゃねーか!
済ました雰囲気で冷静になっておいて、めちゃくちゃやばいじゃねーか状況!
「やばいじゃないですか!?!?早く脱出しないと!」
「まあ確かにまずいね」
「そうですよ頭、そっちの海の方向じゃなくて、もっと下で左の方ですよ。」
「すまん柊、変わってくれ。」
「...分かりました。」
そう柊さんが言うと、車は全速力で海の底に進んだ。海を運転する車なんてないし、広大すぎて運転と言っていいのかも分からず、アトラクションに乗っている気分だった。
「ああああああのののののののこれれれれっっててててててててほんんんんんとにににににぃぃぃこっちちいいぃぃなぁぁぁぁんんんででですすかぁぁあ?」
「ああ、そうだ究。少し荒い運転だがな。」
僕の声は衝撃で震えていた。いや震えすぎていた。荒いどころじゃない。死の運転だ。
流石にこのアトラクションは辛すぎるし、南海さんもだいぶ辛いだろうな
って!?
「..........」
「し、死んでる...!」
「...!し、死んで、、、、ないよ.....全く失r」
...ドサッ
まずいぞ...色々...色々...
意図せず胸を触ってしまった。
結構柔らかい...って違う!!!!!!!!!!
すぐに離した。これはしょうがない事なのだ。だって気絶する時にこっちに倒れ込んできたんだもん。しかも僕の手に向かって胸をだよ!?そんなん触っちゃうに決まってるじゃん!
なんて言い訳は置いておいて衝撃を分散するためにこの子は支えておこう、、、
もちろんデリケートな部分以外を手で支える。
別に下心はない。ないからな!
「えぇっーーと、柊くん、いくら方向音痴の僕でも道は分かったし、僕が変わろう。うん。絶対変わった方がいい。」
...僕は思った。やっぱり関わっちゃまずい組織だったと。
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細菌類:本来であれば分解者の事だが、突然変異し人間を超越するほどの進化を果たした。
分解者:有機物を分解する生物。
生物は生産者(植物等)、
消費者(肉食、草食動物、人間もここに入る。)、
分解者(細菌類やミミズ、ダンゴムシ等の小動物)に分かれている。