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世界の果てまで  作者: 秋田原 充
はぐれ者編
13/15

第12話 ちっぽけな人間


ーーー目が覚め、僕の眼前にあったのは、知らない天井だった。


とりあえず左を見た。


視点を切り替え、右を向いた。


既視感のある展開ではあったが、しっかりここはボトムハウスで、はぐれ者の本拠地で、僕の部屋だ。


うん...今のところ、困惑の毎日だ。困惑継続記録を伸ばしたい!

とはもちろん思わないが、状況を理解しよう。


バッ!とベッドから起き上がった。

目の前に異変があった。


「おはよう究!ってん...?」


「あ...えっとおはよう!新人きゅん!」


「きゅん?」


「ああ違う違う!最初のデビュー失敗したぁ...へへ...新人くーん...?」

「はい...?」


誰だ...?勝手に入り込んできて...

いやその前に待てよ...何か思い出してきたぞ...

「俺の初めての患者になってくれ」...?

でそこから記憶ない...

うーん...


見覚えのない女の人もいるし、地底のはずなのに窓には明るい光が指してる...?


直前の記憶で、架世から言われたことも考慮すると...僕は死にかけたのか...?いや、もしかして...


!?

僕、本当に死んだのか...!?

だとしたら、目の前の人は死者の番人...的な...!?


「すみません。僕は死にましたか?」

「はぁ?」

「すみません。僕は死にましたか?」

「2回言えばいいわけじゃないよ?」

「Am I dead?」

「...you're not dead!って違う!!!!!!!私日本人だから!!!」




「いや、なかなか僕の言葉が通じなかったので...海外の方なのかと...」


「なんでよ!この見た目だよ!?」

「いや、海外でも違和感ない...」

「へ、へぇ〜なるほど...って自惚れてる場合じゃなくて!」


「急にそんなこと言われると思ってなかったし...困惑して言葉も返せなかったんだよ...

と、とりあえず死んでないから...私、屋良夏雪。聞いたでしょ?市橋さんに。」


「ん?...ああ!貴方でしたか...すみません...失礼な事をしました...」

「まあ、年齢同じだし気にする事でもないよ...敬語でいいんだけどね。」

「そうだね!」

「えぇ適応早ぁ!話では敬語君ってあだ名つくほど謙虚って聞いたのに...」


「なんだその変なあだ名!?ま、まあ、色々とあって慣れまして...」


「そうなんだ...まあ話しやすくなるから、私にとっては嬉しいんだけど...」


「...それで、なんであなたがここに...?」


「ああいやぁね、やっぱり珍しい新人君はこの目で拝んどきたいじゃない?流石に来るよ?」

「な、なるほど。そうですか。じゃあ僕がこうなってる状況って知ってます...?」

「あぁ〜うん。確か架世君がギリギリ絞り出して連絡をしてくれた時の内容では...」

「あぁ〜。」


そういえば人見知りだったな...連絡するだけでもそうなのかよ...


『八中くんが転けそうになった時勢いで能力を使ってしまったため制御出来ず菌を放出してしまいました。散らかってた私の部屋が悪いです。申し訳無いので治るまで部屋に運んで看病しました。



ちなみに致死率50%でした。』

「との事だよ!」


「こっっっっわ!最後要らんだろ!」

「でもでも最悪ハートガン使える市橋さんいるし、多分大丈夫だと思う!」

「あれハートガンって言うのか...で、でもまぁ確かに?...と、というか肝心の架世は...あぁいつもは部屋にいるのか。」

「うーん...まあ大体寝てるんだけどね。

あっ、そうだ!連絡先だけ交換しとこ〜。」

「あぁ、そっか。」


そういえば、誰とも連絡先交換してなかったな...組織に入ったってのに、結構致命的じゃないかこれ?


「あ、そうだ。覚えてないと思うけど君が寝ぼけてる時に夜空が呼んでたらしいから早めに行くといいよ〜」


◆◇◆◇


(『究。起きてるか?このあとすぐにアパートの門のところまで来て欲しい。』

『ん、んぁ?わ、わがっだよよぞらぁ〜』

『頼んだぞ。』)


はっっ!そういえば言ってたような気がする...!


「もう1時間くらい遅れてるけど〜それじゃあ私は行くね〜」

「えぇ!?」


去っていった...ほんとに顔を拝みに来ただけかよあの人...


と、というかまずい!1時間も遅れてるなら流石に夜空でも怒ってしまうだろう。早く準備して行かなくちゃ...

えっと...?時計時計...朝11時11分、おお、綺麗なゾロ目...じゃねえよ!急げぇぇぇ!

って今日って確か...

2054年7月7日...おおまた綺麗なゾロ目ぇ...って違う!

本当に急がないと...大事な事だったらどうしよう...


とりあえず、着替えもないのでパジャマのまますぐに部屋を出ようとした。

がその時。

究の目に映りこんだ物があった。



「ぁあっ...」

何かに縋るような、そんな掠れた声を出していた。




究には...テーブルの上にある”それ”が輝いて見えた。


向かう矛先を変えたかと思うと、さっきまでの究とは似ても似つかわしくないほどのふらついた足取りで、ゆっくりテーブルに近づき、座り込んだ。


姿勢は真っ直ぐに、しっかりと正座しながら、感謝を込めながら、ゆっくり手と手を合わせた。


「いただき...ます...」


...そう、目の前にあるのは食事であった。究が目覚めてからの初めての食事である。


究は、存在しているかも分からない母を思い浮かべていた。目の前にある、白飯、味噌汁、そして焼き魚という実家のような組み合わせは、そう思わざるを得ないだろう。


病院にまだ居た時、看護師に食事を出してもらったはいいものの、究にとっては混乱でそれどころじゃなく、食べることがどうしても出来なかった。


だから、栄養も取れず、起きてから動いているばかりであった究には、その光景が輝いて見えた。


ーーーいや、輝き、曇っていた。静かな涙が頬を伝い、ぽとりと落ちる。


究はただの一般人。病院から目覚めた途端、記憶喪失であることを自覚し、その事実を漸く受け入れたというタイミングで、その事実すらも”嘘”と告げられてしまう。精神崩壊ギリギリだ。

さらに、素性もまだ不明な謎の組織に急に連れられて”バクテリア”の件まで言い渡されたのだ。今更だが、1人の”ちっぽけ”な人間、いや一般人にとっては、本当に荷が重すぎる出来事だ。


表面上はポジティブな言いぐさでも、中身がすぐに変わったりはしない。究の言った言葉が全部本当になるとは限らない。不安はどうしても拭えなかったのだ。


...そんな中でこんな光景を見て、まるでこのような出来事が本当にあったかのように想像した

”存在しない母”との思い出、その理想の思い出は、今の状況との格差がとてつもなく大きい。


ーーーそのギャップで、自然と涙が零れてしまう。


「辛いよ...

なんで、なんで僕なんだ!!!...」

薄い壁の部屋で大きな声を出せなかった究は、声を押し殺しながら本心を口から捻り出した。


とりあえず食事を始めた究だが、頭の中で考えを巡らせる。

『全部、人任せにしたい.....

全部、他人事にしたいよ、

なんで、あんな大口を叩いてしまったんだ...『証明してやる』なんて、その場を切り抜けるための手札でしかないんだよ...』


ハチとの口論のことを思い出していた。


『...みんなも、僕自身もよく分からないし、知らない。だけど、

きっと本当の僕はこんな自分勝手な奴だったんだ...』


「幸せに、なりたいよ...松坂さん...」

そんな弱音を吐いた後に、思い浮かべた人物は松坂堂時の事であった。


お椀を左に、箸を右手で持ち、両手が塞がっている状況で、腹も空かせている現状、食事を口に運ぶその手は離せず、その大粒の涙は拭えなかった。







...あっという間に食べ終わっていた究は、左手でぐちゃぐちゃの顔を覆いながらも、右手で食事の横に置いてあった手紙を読むことにした。


『君が起きた時の朝ごはんにしてね!

これでニブイチで死にかけたっていう話はなかったことでよろしく!


葛城 架世』


「ははっ...」


あまり笑う気力もない。


「...でも、」


でも、そうだよな。この架世ってやつも、こんな明るい文面の裏では、ずっとずっと自分に苦しんでるんだよな。

あんな苦しい過去を持っている架世からしたら、僕の事情なんて本当にくだらない事...なんだろうな...


そう思い込み、不安定ながらも、立ち上がる。


...そういえば、架世の部屋に行った時って、本来の目的龍星さんの部屋に行って生活の仕方について聞こうと思ってたんだっけ。それに連絡交換も出来てないし...今度はちゃんと龍星さんの部屋に向かおう。


そして、ありがとう。美味しかったよ。架世。ご馳走様。


食器を片付けたあと、究は洗面所に向かった。


ーーー涙、いや、頬に伝った”味のある水”を、蛇口から流れる”味のない水”で拭き流した。


いや、上書きしたとも捉えられるだろう。



ガチャッ

パジャマ姿でドアノブを回し、扉を開けたが、目の先にある特異な光景を見て、思い出したことがあった。アパートのボロボロの開閉門の所で、柊が待っていたのだ。


「あ」

そうだった...1時間遅れてるんだった。

は、早く向かわなくちゃ...!


急いでアパートの階段を下っている途中、シャーロットさんに会った。


「あ、よお新人。なにをそんなに急いでるn...」

「ごめんなさい!柊さんに呼ばれてて!!少しそこをどいて下さい!」

「ぶぐはぁ!」

肩が激突する。

「失礼します!!!」



[おいふざけんな!急いでるとしても止まれや!!!おい聞けバk]

後で謝るとしよう。


◆◇◆◇


「はぁ、はぁ、遅れてごめん、夜空。」

「!?ああ、究か。すまない。寝ていた。


......何だ?」

「何だ?って...怒らないの?」


「......?なんで怒る必要があるんだ...?」


「ん...?」

あぁ...そういえば”普通”を知らないんだった。というかこんくらいのことは龍星さん教えててよ!!!


指導者のような口調で喋る。

「夜空君。普通遅れた時は怒るのが普通なんだ。」

「...何故?」

「特に今回の場合は1時間も君を待たせてる。それは分かるね?」

「ああ。」

「じゃあ君の時間を1時間も奪ったことになる。それは嫌だろ?」

「なるほど。でも私は嫌じゃないぞ?」

「ぁェ...でもでも普通は暇な時間が1時間も出来るんだぞ?それは嫌でしょ?」


「......私はいつも暇だ。」

「いや例えばほら〜その任務とかさ、大事なことで待ち合わせしてたりとかで遅れられたら嫌じゃない?」




「まあ、任務でそんなことはないと思うが...なるほど、確かに。言い分は分かった。でも私は、なぜかお前なら嫌じゃない。」

「なんでだよ!友達としての距離近すぎだろ!」

そこも普通じゃないか...


「?そうなのか...」

「ま、まあいいや、また言うよ。改めて、遅れてごめん。要件を聞くよ。」

「ああ、そうだった。じゃあ、、、、、いくぞ。」

「ん?どういうぐげほぉぇ!!?」


そう言って、夜空は構えのポーズをとったあと、僕は、なぜか急に腹にキックを食らった。

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