3話。夜明けと羊
雲の隙間から月の光が差し込む。
風が吹き、雲が流れていく。
草原の草が揺れている。
エリオスは、自分の力を過信している訳では無いが、目の前に立っているオーガ相手にも勝てると信じていた。
螺旋状に巻く角、体を守る白い毛皮、硬くなった蹄。
オーガも楽しい戦闘ができると踏んで来たようで、羊の姿を見ても、ご馳走では無く、戦闘の敵として、認識しているようだ。
(あの金棒にぶつかったら、ひとたまりもないな。角も折れるだろう。)
オーガと睨み合う。
雲が月を隠した瞬間、オーガが踏み込み、金棒を振り下ろしてきた。
地面に金棒がめり込み、草原に強烈な音が響き渡る。
恐ろしい速度だが、エリオスは避けることができた。
(隙がない。近寄ればなぎ払われそうだ。どうにか隙を突きたい。)
エリオスは、草原に転がっている石斧を見て閃いた。
石斧を咥えると宙に投げ、角で弾いた。
弾かれた石斧がオーガへ飛んでいき、オーガは金棒で叩き落とす。
その隙にもう1つ石斧を飛ばす。
石斧がオーガの顔に当たり、少しよろめく。
全力の突進で、オーガの膝にタックルをする。
オーガはバランスを崩すも、金棒を地面に突き、体勢を立て直した。
エリオスは素早く身を引く。
こうなったら、何でも使う。
後ろ足で土を蹴り上げ、土をオーガに飛ばしたり、石斧を角で弾き飛ばしたり、オーガの隙を突くために、ひたすら繰り返す。
目に土が入ろうが、石斧が身体にぶつかろうが、耐えてしまうオーガ。
次第に怒りが溜まっていき、咆哮をする。
エリオスが一瞬、びくりとした。その硬直を狙い、頭めがけて、金棒を振り下ろす。
バキン!
大きな音を立て、地面にめり込む金棒。
エリオスの右角が根元からへし折れた。
避けきれないのを悟り、右角を当てつつ、身体への直撃を避けたものの、右角を失ってしまった。
大きな衝撃に脳が揺れ、一瞬、意識が飛びかける。
エリオスは体勢を立て直し、オーガを睨む。
怒れるオーガが睨み返している。
オーガが乱暴に振り回す金棒をバックステップで避ける。
エリオスは、ボスゴブリンが使っていた大きな木の棍棒を見つけた。
(そうだ!試してみるか!)
迫り来るオーガ。
エリオスは、地面に転がる木の棍棒を頭突きで弾き、転がす。
オーガは、転がる棍棒を踏み、体勢を崩し、勢いよく前に倒れた。
その隙を逃さず、うつ伏せに倒れるオーガの首を狙い、渾身の力で踏み付けた。
たしかに骨を砕くような強烈な一撃を与えた。
「まだ、動くか!!」
もう1発当てたが、オーガが後ろ足を掴む。
「しまっ」
エリオスは投げ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
(首の骨は折れているはず、まだ、動けるのかこの怪物は。)
オーガも無事では無い。
死なば諸共、巻き込もうとしてくる。
金棒を握り直し、オーガが立っている。
エリオスは、立ち上がると、落ちてる石斧を角で弾き、飛ばす。
オーガは、避けず、ぶつかりながらでも突っ込んでくる。
エリオスは全力疾走で走り、オーガに向かい、振り下ろす金棒を避け、開く両足の隙間をくぐり抜ける。
金棒が地面にめり込むと同時に振り返り、助走をつけて、膝裏にタックルを決める。
ダメージの蓄積から、オーガは前のめりに倒れる。
「もう一度!」
倒れたオーガの首を全力で踏み付ける。
オーガが最後の力で掴もうとするも、エリオスは手を踏み付けた。
オーガの息の根が止まる。
「これで、終わったんだな。」
エリオスが顔を上げると、空が白くなっていた。
もう、日が昇る。
長い時間、オーガと命の奪い合いをしていた。
角が新たに生えてきた。
両方の角の長さが揃う。
蹄がさらに強固になるのを感じ、毛皮はモコモコでありつつも、切断や打撃を防ぐようになっていくのを感じる。
「すごいぞ、エリオス、勝ったんだな!」
カーヴァがバサバサと音を立てながらエリオスの前に止まった。
「勝てたよ。」
エリオスが息をつく。
「思った通りだ!面白い戦いを見させてもらった!これからもついて回るぜ!」
カーヴァは興奮気味に話す。
「勝手にしろ。」
エリオスは、歩き出した。
「おい、待てよ。」
カーヴァはエリオスの後ろを飛びながらついて行く。
草原を朝日が照らす。
ミドリ村の村人が草原に出ると、ゴブリンの群れとオーガが転がっているのを見つけた。
「祭りの間に、ゴブリンとオーガの戦争があったのか。相打ちに終わったみたいだな。もしくは・・・」
オーガに蹄の跡がついているのを見る。
「いや、勘違いか。」
村人は、村へ帰って行った。
「おーい、待てってば!面白い話してやるからよ。」
カーヴァがエリオスの後ろをついていく。
俺は、自由だ。
人知れず戦い、魔物を打ち破ることが、人の役に立つことになるだろう。
賞賛も名誉もない。
ただの羊として、生きる。
その裏で、人助けをできれば幸せだ。
陽の光が、羊とカラスの行く先を照らしている。




