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2話。ゴブリン軍団と羊

草原を短い足で駆け抜ける。

日は傾き始めた。

ミドリ村が見えてきた。

祭りの準備で、賑やかだ。


村人たちが村の飾り付けや出店、酒の準備をしている。



エリオスは、息を切らしながら、村の入口に辿り着いた。


息を深く吸い込み、大きな声を上げながら村を駆け抜ける。


「ゴブリンが出るぞ!ゴブリンが出るぞ!」


「今夜、ゴブリンが、この村を襲いに来る!みんな、備えるんだ!」


「ゴブリンが出るぞ!!」


エリオスは大きな声を上げるが、誰一人として、聞き耳を持たない。


驚いた顔で見る人も居るが、何食わぬ顔で祭りの準備を進める人たちが大半だ。



もっと大勢に伝えようと、村の中央に行く。


エリオスは、息を飲んだ。


羊の丸焼きの準備がされている。


何匹もの毛皮を刈り取られた羊が、逆さ吊りに棒に括り付けられ、村人が焼く準備をしている。


子供の時、大好きだった羊の丸焼き。


それを見た時、自分の身体が羊である事を思い出した。


誰一人として、自分の言葉が通じないことが分かる。



「おい!こんなところに、活きのいい羊がいるぞ!今夜の丸焼きが1匹増えそうだ!」


男の声を背で聞き、自分が目の前の死んだ羊と同じようになる事を悟った。


エリオスは、人々の間をくぐり抜けるように駆け抜けた。


(こんなところで、死ぬ訳にはいかない!!どうにかして伝えないと!)



エリオスは、村の外へ飛び出し、草原を駆け抜け、森へ駆け込んだ。


止まらない心臓の鼓動。ゆっくりと森の空気を肺に入れようと試みる。


(どうすればいいんだ!)



森の奥の方から、しゃべり声が聞こえる。

複数の声だ。


エリオスは、その気配が気になり、息を潜めて、1歩1歩歩き、茂みから顔を覗かせた。


野営地のような場所に、ゴブリンが何匹も集まっている。


15…20…25…30...


30匹以上いる。

石の斧や木の棍棒を手にし、続々と集まってきている。


(カーヴァの言ったことは、やはり本当だった。村を襲うつもりだ。)



ゴブリンの1匹と目が合ってしまった。

仲間に何かを話し、こちらに向かってきた。

決して、友好的に来るはずが無いと分かっている。


エリオスは、逃げた。


後ろを2匹のゴブリンが走って追いかけてくるのを感じる。



(野生の力。そうだ、今なら勝てる!)


エリオスは、急に止まり、ゴブリンが射程に入るのを待った。


(ここだ!)


力溜めた後ろ足を思いっきり蹴り上げ、ゴブリンの1匹の顎に命中する。


武器を落とし、吹き飛ぶゴブリン。

そのまま絶命する。


(やったぞ!)



もう1匹のゴブリンが石斧で殴り掛かる。

避けようとも咄嗟に動けず、石斧が毛皮を引き裂く。


白い綿毛に赤い血が滲み、血が地面に流れる。



(こいつ・・・!!!)



出血している。少しでも動くと痛みがさらに強くなる。


火事場の力を発揮するかのように、思い切り力を込め、渾身の力で頭突きをする。


バランスを崩し、倒れたゴブリンの首を狙い、蹄で強く踏み付け、息の根を止める。



大きな傷が付いた。血が流れていく。


(俺の命もここまでなのか…痛い…苦しい…)


血がぽたぽたと垂れていたが、止まった。


痛みが次第に薄らいでいく。



「よくやったな。」

バサバサと音を立てながら、カーヴァが近くの木の枝に止まった。


「やはり思った通りだ。ゴブリンを倒し、強くなっている。血は止まり、お前の頭に小さい角が生えてきたぞ。」



「角・・・?」


エリオスは、頭をカーヴァの止まっている木に擦り付けると引っ掛りるのを感じた。


「本当だ。自分でも気付けない小さな角が生えている。」



「お前の身体は、魔物を倒す度に成長するということを体感できたか?この調子で強くなれば、あいつら全員相手にしても勝てるかもな。」


「俺に勝つための力が。」


「蹄はさらに固く、角は大きく堅牢に、毛皮も強く、脚力も上がるだろうな。」


「御託はいい!今すぐ、行かないと!」



エリオスは、走り出した。

森を駆け抜け、先程のゴブリンの野営地に突撃した。


先程まで大勢のゴブリン達が居たが、3匹程しか居なくなってた。



「グギャギャ」

ニヤニヤしながら、3匹のゴブリンが石斧を手に取り近付いてくる。


思いっきり突進するエリオス。


真ん中のゴブリンに突っ込み、ゴブリンを頭突きで吹き飛ばす。


転がるゴブリンの首を狙い、蹄で踏みつけ息の根を止める。


残る2匹は、怒りに任せ、襲いかかってくる。


囲い込もうと後ろに回る1匹を後ろ足で弾き、前から来る1匹を頭突きで跳ね飛ばす。


ゴブリンを狩る度、強くなるのを実感する。


転がる2匹の息の根を止めた時、頭が少し重くなり、角が僅かに伸びたのを実感できた。



「このままでは、村にたどり着いてしまう!!」


森を抜けると空が赤く染まり、沈みかける夕日が眩しい。

濃紺の空が反対側に広がっている。


草原を歩く武装したゴブリンの軍団を見つけた。


先頭を一回り大きなゴブリンが歩き、その後ろを30匹を越えるゴブリンが歩いている。



エリオスは全力で走った。ゴブリンの集団に向かって突進をした。


直撃したゴブリン3匹が宙を舞う。


ゴブリンが地に落ちた音と共に、全員が振り返り、こちらを見ている。


倒れるゴブリンを蹄で踏みつけた瞬間、ボス以外のゴブリンが走って向かってきた。



一度に全員を相手するのは分が悪い。


距離を取り、分断しようと走り回る。


集団の端を狙うように突進し、はぐれた1匹を踏み付けて、討伐する。



倒す度に、さらに強くなり、1匹1匹を倒すのが楽になっていく。


その様子を見たボスゴブリンは、角笛を鳴らした。


乱れた隊列は整い、突撃する羊を迎え撃つような姿勢でゴブリンたちは構えをとる。


「くっ。奇襲で何匹かやれたが、統率がとれている。ボスからやった方がいいかもな。」



ボスの方を向き、ボスへ突進をしようとする。


ボスゴブリンが角笛を鳴らすと、3匹のゴブリンが盾になる。


勢い任せに突進し、3匹を弾き飛ばすも、ボスゴブリンへ十分な威力を発揮することはできない。


ボスゴブリンが大きな棍棒を振り回す。


エリオスより大きな棍棒が身体にめり込み、エリオスを吹き飛ばす。


「グガッ」


(もっと力を・・・)


地面に打ち付けられるも、力を振り絞り、立ち上がる。


転がっている虫の息のゴブリンを踏み付けると、身体の痛みが引いていった。


角笛が鳴ると、ゴブリン達が攻め込んでくる。


力を振り絞って、攻撃を避け、走り、転がっているゴブリンを踏み付ける。


エリオスの身体にさらに力が入るようになった。


「負けてたまるか!!」


再び、ボスゴブリンに向かって走り出す。


ボスゴブリンは、角笛を鳴らすと、3匹のゴブリンが盾となり、整列する。



エリオスは、飛び上がり、ゴブリンたちを飛び越え、ボスゴブリンの持つ角笛に頭突きをした。


十分な威力での頭突きにより、角笛が手から離れ、飛んでいく。



地面に落ちた角笛を目掛けて走り、エリオスは踏み付け、砕いた。


ボスゴブリンが怒り任せに叫んでいる。


ゴブリンたちは統率をしようとするも知能が低いのか上手く連携を取れずにいる。



統率が取れていなければ、楽に狩れる。


角が伸びて来ているのを感じる。


闇雲に突っ込んでくるゴブリンを頭突きで弾き、倒れたところにトドメをさす。


次から次へと突っ込んでくるゴブリンを1匹、1匹仕留めていき、残りは、ボスゴブリンだけとなった。


大量のゴブリンを狩り、身体についた傷が塞がり、蹄はより硬く、角は大きくなった。


ボスゴブリンは、力任せに棍棒を振るう。


地面に叩きつけられる棍棒。土が巻き上がる。


エリオスには、振り下ろす棍棒でさえ、ゆっくりした動きのように感じた。


地面にめり込む棍棒を引き抜こうとする瞬間。


後ろからボスゴブリンの足に突進をし、バランスを、崩させる。


膝をついたところに、さらに突進。

よろめいたところに、助走を付けて突進。


ボスゴブリンは、バランスを崩し、地面に背をつける。身体にダメージが蓄積し、すぐに立ち上がれない状態。



エリオスはそのチャンスを逃さず、倒れたボスゴブリンの首を狙い、蹄で渾身の力を込めて踏みつけた。


ボスゴブリンは、息絶えた。

エリオスの足を掴もうとした手が地に落ちる。



それと同時に、身体に力が湧き上がるのを感じた。

角が伸び、螺旋状に巻き始める。


身体が一気に成長したのを実感した。


日は完全に沈み、月明かりが草原を照らす。


ゴブリンたちが草原に転がっている。



夜の静かな草原に村の太鼓と笑い声が響いている。



「良かった。これで、守られたんだ。」



夜の空気をゆっくり吸い混む。


ドシン!


地響きのような音。

強烈な殺気を感じ、エリオスは咄嗟に走った。


後ろに、人間よりもはるかに大きな生き物が迫っている。


金属製の棍棒、金棒を地面から引き抜く音が響く。


オーガだ。


2本の角が生え、黒い皮膚、筋骨隆々とした人型の魔物。闇の中に、赤い目が光る。



ゴブリン軍団との戦闘の音を聞き付けて来たのだろう。


ご馳走がいると踏んでいたようだが、戦いに飢えているのかもしれない。


ボスゴブリンの死体を蹴り飛ばし、オーガは、金棒を構える。



月の光が雲の隙間から見え隠れしている。

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