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夢から醒めた男

作者: attoh

 夢から醒めた男 初稿2010.3.21. 2稿2010.9.11.


◯1

黒の背景に白色の字で「夢から醒めた男」と表示

「Act.1 夢から醒めない男」と表示

目覚まし時計の鳴る音

ホワイトアウト

朝7時目覚まし時計を止める

起き上がる

リビングに行き、パンを焼く

パンを食べている

洗面台で歯を磨く

自分の部屋で制服に着替える

カバンを持って玄関へ

玄関で靴を探そうとするがない


山崎「あれ? おかしいな……」


靴箱を開けてもお気に入りの靴が無い

仕方なく、靴箱の中にあった靴を履く

扉をあける


◯2

ホワイトアウト

目覚まし時計の鳴る音

朝7時目覚まし時計を止める


山崎「リアルな夢だな……」


起き上がる

リビングに行き、パンを焼く

パンを食べている

洗面台で歯を磨く


山崎「うっ!」


慌てて歯ブラシを口から取り出す

歯磨き粉を見ると、他のメーカー


山崎「俺のじゃない……。間違えるなよ、俺……」


仕方なく歯を磨く

自分の部屋で制服に着替える

カバンを持って玄関へ

お気に入りの靴を履く

扉をあける


◯3

ホワイトアウト

目覚まし時計の鳴る音

朝7時目覚まし時計を止める

起き上がる


山崎「またかよ……。俺は夢から醒められないのか? なんでだ? なんで醒めれない?考えろ」


扉をあける瞬間をフラッシュバック


山崎「そうだ、外に出ると必ず夢が覚める。だったら外に出なきゃあいいんだ。……よし、ひきこもるか――あ!」


カレンダーの日付7月上旬


山崎「しまった、今日夏休み明けの実力テストテストじゃん。この時期に休めないよなあ……たとえ夢だとしても」


落ち込みながらいつもの作業をする

リビングに行き、パンを焼く

パンを食べている

洗面台で歯を磨く

自分の部屋で制服に着替えようとする

だが中に着るTシャツがない


山崎「あれ……?」


チャイムが鳴る


カバンを持って玄関へ

カギを開けるがわざと扉をあけようとしない


山崎「大輝、ちょっと手が離せないんだ、扉開けて玄関で待っててくれ」


扉が開く


◯4

ホワイトアウト

目覚まし時計の鳴る音

朝7時目覚まし時計を止める

起き上がる


山崎「なんだよ……向こうから開けてもダメ。八方塞がりじゃないか……」


 自分の部屋から出る


山崎「おはよう、変な夢見た……」


パンを焼く


山崎「いや、それがさ、いっつも同じ夢を見て、外に出ようとしたら目が覚めるんだよ。それが3回繰り返しだよ? 眠れないよ……」


パンを食べている


山崎「今日から2学期さ。受験が現実的になってきたよ」


洗面台で歯を磨く

自分の部屋で制服に着替える

カバンを持って玄関へ


山崎「今日はテストだから昼ぐらいには帰る。じゃあいってきます」


扉をあける

ホワイトアウト


○5

白の背景に黒色の字で「Act.2」と表示する

ホワイトアウト

携帯電話の鳴る音

園山の部屋。

眠っている園山が着信音で起きて、電話に出る


園山「山崎、何だ?」

山崎「園山、いま何してる?」

園山「は? ……今、マック食ってる」

山崎「どうせ嘘だろ?」

園山「知ってるんだったら聞くな。お前何やってんだよ? 高3にもなって実力テスト休むとか」

山崎「ああ、あれか。風邪ひいた」

園山「どうせ嘘だろ?」

山崎「まあな。俺にとっては期末よりも全然大事なことがあるんだよ。実力テストの一つや二つ、一日二日捨てても惜しくないくらいな」

園山「それで? 何だ朝っぱらから」

山崎「いやいやいや、園山くん、今何時かわかる? 2時半だよ、2時半」

園山「ああ、おはよう」

山崎「はい、おはよう。じゃねえよ! お前はいつも不真面目だな」

園山「お前みたいな真面目には言われたくない。……で? 何のようだ、朝から」

山崎「(ため息)まあいい。暇だったらうちに来てくれよ。遊ぼう」

園山「……わかった」

山崎「早く来いよ」

園山「わかった。7時ぐらいまでには行く」

山崎「(冗談っぽく)お前、嘘ばっかりつくなよぉ。意味ないじゃないか、そんなことばっか言っ――」


携帯電話を切る園山

ベッドから起き上がる


◯6

園山が山崎の家につく

自転車置場の前ですこし様子を見る

チャイムを押すが反応がない

ノックしても反応がない

ドアノブを回すが鍵が掛かっている


園山「お前の方が嘘つきじゃねえか」


そのまま廊下を歩き、下へと降りる園山

携帯電話がなる


園山「もしもし? いまどこにいる?」

山崎「そっちは?」

園山「お前んちへ行って、チャイムもノックもしてきたところだ」

山崎「ああ、ごめん、ちょっと出かけてるんだ。コンビニに。すぐ戻るよ」

園山「……お前、変だぞ?」

山崎「何が?」

園山「無理してるだろう? 大体、くそ真面目で学校もほとんど皆勤賞だったお前が休むということがありえない。それも何日も休む。それでさも自然を装って俺に連絡? 山崎、お前何を隠してる……?」


沈黙ののち


山崎「園山くん、怖いぜ、そんな急にぃ。君らしくないなあ。何の脈絡もないことを突然言わないでくれよ」

園山「ごまかすな。いいか、何があったか言うんだ。俺は嘘はつくが秘密は守る主義だ」

山崎「それ、矛盾してる。うそつきのパラドックスだよ、園山くん」

園山「(ため息)……言いたくないが、山崎はコンビニに行く時、自転車を使う。今、自転車置き場の前にいるが、その自転車がここに置いてあるのは何故だ?」


自転車置き場にある園山の自転車

沈黙


山崎「わかった、負けだ。そうだ、俺は自分の部屋にいる」


自転車置き場で話し続ける園山


園山「居留守か?」

山崎「ま、そういうことになるわけ。よぉく分かったな。えらいぞ、園山くん。その観察力を何かに使ったらどうだい?」

園山「……とにかく、お前は家にいる。俺はお前に遊びに来ないかと誘われた。それは嘘じゃない。じゃあ何故、俺を入れない? 何故俺はお前の家の前で携帯で話さないといけない?」

山崎「……園山。お前は本当に嘘つきなのに秘密は守るのか?」

園山「そうだ。秘密は守る。それが嘘つきのパラドックスだ」


鼻で笑う山崎


山崎「いやあ、俺、2学期早々、変な夢を見たんだよ」

園山「夢?」


 過去の4回の夢の映像がフラッシュバック


山崎「そうだよ、園山くん。リアルな夢でね、俺が起きて学校へ準備して出かけようとドアを開けると、また夢から醒めてベッドから始まるっていう夢だよ。それも4回も」

園山「まるでループもののSF映画だな。それでちゃんと夢から醒めたんだろう?」

山崎「いや……分からないんだ……」

園山「そんなバカなことを言うな。醒めているから俺はここにいる」

山崎「いや……保証が無いじゃないか」

園山「……だからか、お前が外に出ないのは」


沈黙


園山「いいか、もしこの状態が夢だとしたら、この状況は破綻するんだ。俺の存在はどうなる? 俺も夢か? 第一、実力テストがあったのは始業式だから1日の水曜日だ。今日は土曜日だから4日だぞ? 夢から醒めてない以前に寝てるだろ?」

山崎「園山くん……」

園山「お前、寝てないのか!?」

山崎「(笑い声を上げ)さすがだよ、園山くん。こんなに観察眼があるって知らなかったなあ」

園山「山崎、バカか!? お前は何を見たんだ!」

山崎「何をって夢だよ」

園山「……夢を順番に話せよ。4回見たんだろ?」

山崎「いいや、5回かもしれないよ。今も夢かもしれない」

園山「なんでもいい! 4回でも5回でも。とにかく全部話せ」

山崎「しょうがないなあ。ちゃんと聞けよ」


夢の映像フラッシュバック


山崎「すごくリアルなんだよ、全部。ただ朝起きてパンを食べて歯を磨いたり制服着たり靴履いて外に出て行くんだよ。だけどドアを開けると夢が終わって逆戻り。一回服を探してたら一緒に学校行く大輝が来たから、わざとドアを開けさせたんだけど、それでも夢に戻った。それで母さんと話して外に出かけたんだ」

園山「待て……『母さん』だって?」

山崎「そうだよ、それまで母さんがいなかったのに――」

園山「山崎。お前の母さんは死んでるだろう?」

山崎「……何でたらめ言ってんだよぉ。またあ。嘘つきだな、お前は」

園山「お前の母さんは4月に亡くなっただろ。癌で」

山崎「縁起でもないこと言うなよ」

園山「ああそうか。お前が醒めない理由が分かった」

山崎「何だよ、教えてくれよ」

園山「お前は『醒めない』んじゃない。『醒めたくない』んだ。お前はずっと夢を見ていたんだよ」

山崎「お前らしくないよ、園山。いっつも誰もが嘘だって分かる冗談を言ってるのがお前なんだよ。そんな風にくそ真面目になるのはお前じゃないよ。くそ真面目なのは俺だろう?」

園山「お前らしくない、山崎。くそ真面目で皆勤賞取るのが当たり前なのがお前なんだよ。そんな風に嘘ばっかり言ってるのは俺じゃない。嘘つきはお前だ」

山崎「俺が嘘つき?」

園山「そうだ。俺は確かに嘘つき『キャラ』だよ。でもな、俺が今日ついた嘘は一つもない。マックを食ってるって言ったのも家で食ってたし、ちゃんと7時までにお前の家に着いた。だけどお前は最初から最後まで嘘ばっかりだ」

山崎「そんな、俺は嘘つきじゃ――」

園山「嘘つきだ。実力テストを休んだ理由も、家にいなかったということも、俺に嘘つきだって言ったが嘘はほとんどついていないことも。それに……。待て……。お前、最後の夢で母さんを見たんだろう?」

山崎「だからそう言ってるだろう? 当たり前じゃないか」

園山「ずっと家にいるってことは、いくら何でも飯を食ったりする為に部屋から出るだろう。リビングやら親の寝室やらに行けば、いくらなんでも母さんがいないことだって分かるはず……」

山崎「……」

園山「お前……出てないんだな。部屋から」


部屋のドアの周りにガムテープが貼ってある構図を初めて映し出す



園山「山崎。いいか。今は夢じゃない。絶対に夢じゃない」

山崎「……なんでそんなこと言うんだよ。証拠が無いじゃないか」

園山「現実、つまり今は夢と違って何かが変わってるんだよ。夢にはないものが今にはあるんだよ」

山崎「でも何かは分からない。だから証拠はない……」

園山「今はな。証拠は確かにない。だが俺は真実を知っている。お前はこの現実も夢であってほしいんだよ」

山崎「やめろ……」

園山「嘘をつき続けていたいんだよ、お前は。現実を知りたくないし、見たくもないからだ」

山崎「やめてくれ……園山、どうして嘘をつかない? 嘘をついてくれよ……。園山は嘘つきだろう?」

園山「俺は嘘つき『キャラ』であって、『嘘つき』じゃあない。何で嘘をつくか? それは俺があまりにも本当のことを言うからだ。敬遠されるからキャラを演じているだけだ。みんな俺の言葉を聞くと脆弱な心では耐えられないんだよ」

山崎「……」

園山「みんなが知っている真実を言って煙たがられるのはおかしいだろう? 本当のことを言うのは真実が見えすぎているからだ。だけど生きていくためには俺もキャラを演じないといけないんだよ。お前も同じだよ、山崎」

山崎「同じ……?」

園山「お前は元からお調子者だが、ある時からもっとお調子者になった。無理して演じて、必死に隠そうとしている。それは4月からさ」


息が荒くなる山崎


園山「4月に母さんが死んだ。ショックを隠すためにもっとお調子者のキャラになった。ゆがんだお調子者さ。お前が隠したかったんだろう。哀しみを。でもそれがとうとう出てきちまった。夢という形で」


○4の夢の映像のフラッシュバック


自分の部屋から出る


山崎「おはよう、変な夢見た……」


パンを焼く


山崎「いや、それがさ、いっつも同じ夢を見て、外に出ようとしたら目が覚めるんだよ。それが3回繰り返しだよ? 眠れないよ……」


パンを食べている


山崎「今日で期末は終わるからさ。もうちょっとで夏休みって訳さ」


別視点で○4の夢を写す

そこには誰もいない空間に向かって喋る山崎の姿がある


園山「嘘をついでまで俺は人に優しくしたくない。真実はいつも残酷だ。だけど残酷な真実を知り、受け止めたものこそが、幸せを知るんだよ。山崎。お前の母さんは、もう、いないんだよ」


沈黙


山崎「やめてくれよ。やめてくれよ……」


嗚咽を出しながら言う山崎


山崎「俺はいつも辛かったんだよ……。俺だってお調子者『キャラ』なんて演じたくないよ。でもそうしないと俺が周りとの関係を築けなかった……。関係が崩れてしまうから嫌だったんだよ……。母さんはいつも優しかったんだ。みんなが知らない弱い俺を受け止めてくれたんだよ……。母さんがいない俺は誰にも本当の姿を見せられない……。頼むよ、夢でいさせてくれよ……。俺は夢で会えたんだ。夢の中に閉じ込めてくれよ……。母さんと一緒にいたいんだよ……」


泣き叫ぶ山崎


園山「みんなが知らないお前を俺は知らないし、知る必要もないと思ってた。でもたった今俺に見せてくれたじゃないか。母さんの前でしか見せない、本当の姿を。いいか。真実を受け止めるんだよ」

山崎「できない……夢から醒めたくない……」

園山「いいや、お前はもう醒めているはずだ。夢と現実の違いを知っているはずだ」

山崎「知らない……知らない……」

園山「俺は気づいたんだよ。今が夢じゃなく現実だって。俺は言っただろう? 夢と現実の違いについて」


フラッシュバック


園山「山崎。いいか。今は夢じゃない。絶対に夢じゃない」

山崎「……なんでそんなこと言うんだよ。証拠が無いじゃないか」

園山「現実、つまり今は夢と違って何かが変わってるんだよ。夢にはないものが今にはあるんだよ」


園山「そうじゃないんだよ。現実は――今は『何も変わってない』んだよ。お前の4回の夢はすべて現実と違ったんだよ」


○1~○4のフラッシュバック


園山「最初の夢から最後の夢まで朝7時に起きている。お前は夢の中ですら几帳面だ。だが最初の夢ではいつも履いてるお気に入りの靴がない。次の夢では歯磨き粉が違った。さらににいつも着ているTシャツが無い。そして最後にして大きな違い。それは――」

山崎「母さんが……いる……」

園山「だけど、母さんは本当はいないんだよ」


別視点の○4のフラッシュバック


園山「気づいているが、目を背けているんだよ。でも人間は不思議だな。山崎は俺に電話をしてきた。それは俺に助けてほしかったんだよ。お前の精一杯のSOSってわけさ。俺の言葉で現実に気づかせてほしかったんだよ。お前自身がそれを望んだんだ」


沈黙の後


山崎「証拠も、事実も、ある。でも。夢から醒めることは本当に良いことなのか? 夢に居続ける方が幸せなんじゃないのか……?」

園山「それを決めるのはお前だ。自転車置き場からわざわざ階段上がってお前の家のドアをノックするのも面倒くさい。あ、やばい」

山崎「園山?」

園山「充電が……きれる。あ――」

山崎「園山? おい! かかってくれよ!」


かけ直すが通話できない


フラッシュバック


園山「嘘をついでまで俺は人に優しくしたくない。真実はいつも残酷だ。だけど残酷な真実を知り、受け止めたものこそが、幸せを知るんだよ。山崎。お前の母さんは、もう、いないんだよ」


山崎「母さん……」


一筋涙がこぼれる

拭き取る

自分の部屋の扉へ向かい、ガムテープを全て剥がしとり、扉を開ける

リビングに向かうが誰もいない

玄関へ向かう


山崎「もう、俺は、夢を見ない」


鍵をひねり、扉を開ける

ホワイトアウト

白の背景に「Act.2 夢から醒めた男」と表示


エンドクレジット(出演者、スタッフ名を表示)


○7


ドアを開ける山崎

ドアの前に携帯電話を持った園山

携帯電話の電池は3本


園山「たまには、優しい嘘をついてみるもんだな」


リビングの画像に「夢から醒めた男 終」と表示


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