7-10 マリスガス・ミレニスの憂鬱⑩
実は、その数日前に、アニエスは、犯人から、自滅のための準備のために、くるように言われ、その日と時間、場所を指定されていた。それは、ある駅からしばらく歩いたところの道端にある、指定された長くて白い車の後ろを開けると、そこには、ベッドがあり、中に入るように打ち合わせをしてあった。そして、車の後ろのドアを閉めると、
「時間通りよ。きちんと時間をまもったわね。」
あの女性の声だけがして、その姿はなかった。
「それでは、靴を脱いで、ベッドの横にある箱に入れたら、頭を前にして、仰向けになって。横になれば、自動的に、機械が身体に設置されるからね。そして、自滅のために必要な身体の状態を色々と調べるからね。しばらくかかるわ。」
「わかったわ。」
すると、靴を脱いで、箱に入れると、仰向けになるアニエス。すると、頭には、ヘルメット状の機械がかぶせられ、その身体と手足が自動的に拘束された。
拘束されて、驚いたアニエスは、
「えっ!何をするの!拘束する必要はないでしょ!」
すると、自滅屋から、
「何言ってるの。私がわからないとでも思っているの。今、あなたが脱いだ靴よ。爪先の中に、発信機がついていたわ。あなた、警察の人間ね。あなたが自滅する前に、私を捕まえようという寸法ね。そうはいかないわ。もう、発信機は、この車内では役に立たないのよ。それに、今、車は移動しているから、もう無駄だったわね。これから、あなたのここでの記憶は消しておくから、あなたの希望通り、必ず自滅させてあげる。ここでの、今の会話も、すべてあなたは忘れてしまうから、あとは、自滅を待つのね。じゃあ、これで、私とはお別れよ、ここでの記憶ともね、バイバイ!」
そして、その後、アニエスは、とある公園のベンチで目が覚めると、最初に自滅屋と話したあとの記憶はなくなっていた。
警察では、アニエスに、その後のやり取りについて、たずねたが、何一つ覚えていない。しかし、アニエスは、自滅屋の言う通り、すでに50万ミラを振り込んでいた。ということは、あとは、自滅屋が飛び降り自滅を実行することは間違いなかったのである。警察内の脳科学研究所でアニエスの脳内に他からの何か指令や実行データが残されていないかを調べたが、一切吹き込まれてはいなかった。ということは、犯人は、何か別の方法で自滅させるに違いない。
警察では、とにかく、アニエスが飛び降り自滅の実行するのを阻止しなければならない。それに、その前に捕まえなければ、阻止することは困難かもしれない。だが、犯人のイメージが全くわからないので、いつ、どこでどんな形で実行するかは、皆目検討がつかなかったのである。
かといって、飛び降り自滅を実行しそうな状況にいかなければ、実行されることもないのであり、かといって、飛び降りた先にマットを敷くなどして、安全に準備をしておくことは、すぐに見破られてしまう。それなら、確実に、飛び降り自滅をしそうで大勢の人が集まる状況を作るしかなかった。そして、犯人が実行する前に、捕まえるしかないのである。




