5-9 プリンセスの娘、誘拐の謎⑨
それをみて、オービスは叫んだ。
「ああ、とうとう水を飲んだわ!」
すると、そこにいる全員が、マリアの顔に注目した。
そして、時間が過ぎてゆく。だが、何も起こらない。
マリアは、最初は、どれだけ時間がかかるのかと思っていたが、少しずつ、これは本当はありえないのではないのかと思い始めていた。そして、冷静になってくると、改めて、顔の痛みがよみがえり、倒れてしまった。
すると、プリンセスが、
「さては、あの水は、にせものね!約束が違うでしょう!」
すると、オービスは、興奮して、
「いいえ、そもそも、「美と命の水」なんて、存在しないのよ。そんな夢みたいな水、あるわけないでしょ。それは、あくまでも伝説の話しなのよ。」
それを聞いて、動揺するプリンセス、
「何ですって!私たちを騙したのね!」
「だって、こうでもしなければ、この取引はできなかったでしょ。ここまでくるには、これしか方法はなかったのよ。」
それは、オービスがコトールルミナス国に、水を取りに行った時のことだった。
管理官から、「美と命の水」についての古来からの話しを聞いたあとのこと。
「というわけで、オービス、この水のことがよくわかったでしょう。この水は、これまで、美の対決において使用されて、国を救ったり、その都度、美貌のバージョンアップをして、人のためになるようなことはあったけれど、それは決して、他国や世間に公になってきたことはないわ。だから、今回は、申し訳ないけど、イミリア共和国のプリンセスから、この水を公に求められてきても、その存在を明かすことはできないのよ。
ただ、このままだと、プリンセスの娘を取り返す取り引きができなくなってしまう。そこで、これを渡しておくわ。」
管理官から手渡されたもの、それは、「美と命の水」の瓶のコピーであった。
「これは、本物の瓶のコピーよ。もちろん、中身は、ただの水よ。これを持っていきなさい。これで、取り引きは、とりあえずできるかもしれないか、失敗してもかなりの時間稼ぎにはなると思う。悪いけど、そういうことなので、これをうまく使って解決してね。そして、とにかく、「美と命の水」は、伝説の話しで、どこにも存在しないことを強調しておいてね。」
つまり、オービスは、プリンセスに、その水が存在しないことを伝えるためにも、ニセの瓶を使ってでも、ここまで取り引きを進めてきたのであった。
そして、誘拐が偽装だったことが明かされ、さらに、プリンセスの娘が硫酸を浴びて、騒然となった今、オービスは、言った。
「奇跡の水だなんて、そんな夢みたいなことは、あきらめて、もう終わりにしましょうよ。ただ、娘さんのその顔は、もうどうしようもないことになってしまったけれど、これから、娘さんが少しでも回復できる道を皆で探しましょう。」
マリアも、プリンセスも、そして、2人のメイドも、ただ泣くばかりであった。ここまでの、マリアのわがままからの悪だくみは、本来なら、全員が反省をすれば、もうなかったことにしてもいいと、本当なら、オービスも、モデルラボの人たちも、そんな気持ちで終えられるはずであった。
しかし、マリアの顔は、もはや、もう最高の美貌を手に入れるどころか、時期プリンセスになるはずのことまでも、先が見えない状況になってしまったのであった。
すると、オービスは、思った。あの時の、あの時に日本にいた、奇跡の手術をした、エリーゼ・ノクターンさえいてくれたら、彼女さえいてくれたら、あるいは、再び奇跡が起こったかもしれない。そんな、ここでは決して、望めないことを、つい、想像してしまったのであった。




