5-7 プリンセスの娘、誘拐の謎⑦
つまり、実務には、これが「美と命の水」を手に入れるための狂言誘拐であることは、最初からわかっていたのである。
すると、水の瓶を手にしているマリアと、もはやメイド姿に戻ってしまった2人のメイドを見たプリンセスは、逆上してしまい、冷静さを失っていた。
「だいたいね。あなたたち、誘拐の取り引き場所に、こんなクレープ店なんか選ぶなんて、そもそも考えてることがおかしいわ!」
すると、マリアが、反発をした。
「何言ってるのよ!これは、プリンセスが、おじさんに変身している2人のメイドと、できる限り会わない方がいいと言ってたから、会って打ち合わせができずにいたから、2人のメイドは、すごく困っていたのよ。それで仕方ないから、場所は2人に任せたんじゃないの。もちろん勝手に、こんな場所に決めてしまったのはいけないけど、2人が考えた場所だから仕方ないじゃないの。私も、最初は驚いたけどね。」
その取り引きを行なう1時間前のことだった。メイドの変身した2人の大男と、マスクで顔を覆ったマリアの3人は、クレープ店「ミラクレープ」にやってきた。
店内は、いつもは行列ができているが、さすがにもう閉店間際で、そろそろ客足も途切れてきていた。ちょうど客は1人もおらず、そこへ入ってきた不思議な組み合わせの3人。
店内では、
「いらっしゃいませ!」
いつもの客層とは真逆の大男たちの来店に戸惑いをかくしながら、
「ご注文をどうぞ!!」
との、声が響く。
すると、大男の1人が、ナイフを取り出して
「皆、静かにしろ!いいか、よく聞くんだ!今すぐ、店内にいる全員、店からでていって!それで、今夜は私たちがこの店を使う。このことを警察や誰かに話したら、あとから、店をめちゃめちゃにしにくるからな。このことは、誰にも言うなよ!私たちは、奥の部屋を、これからちょっとだけ借りるだけだ。汚したり荒らしたりはしない。明日からは、普通に店を開ければいい。わかったか。店長は、誰だ?」
すると、店内にいるメンバーは、全員、だいたい19才から25才くらいまでの若い女子たちが7人で、皆、震えている。その中から出てきた店長の女の子。
「は、はい。私が、店長です。」
「わかったか。」
「は、はい。おっしゃる通りにいたします。誰にも言いません。だから、お店は、荒らさないで下さい。お願いします。」
「よし、わかった。それでは、これを見ろ。」
大男は、一枚の紙を店長に渡した。震えながら、ゆっくりと、その紙を受け取る店長。恐る恐る開いてみると、そこには、なんと!
何か、脅迫文かと思いきや、5種類のクレープの注文書であった。
1 ベリーベリー・デライト
クレープ生地: ほんのり甘いバニラ風味
フィリング: フレッシュなイチゴ、(多めで)ブルーベリー、ラズベリー
トッピング: バニラアイスクリーム、ホイップクリーム(多めで)
仕上げ: ベリーソース、ミントの葉
2.トロピカル・パラダイス
クレープ生地: ココナッツ風味
フィリング: マンゴー(多めで)パイナップル、キウイ
トッピング: ココナッツアイスクリーム、
カラフルなトロピカルフルーツ仕上げ: パッションフルーツソース、
ココナッツフレーク(多めで)
3.チョコレート・バナナ・ラグジュアリー
クレープ生地: チョコレート風味
フィリング: バナナスライス、ヘーゼルナッツ
トッピング: チョコレートアイスクリーム、ホイップクリーム(多めで)
仕上げ: チョコレートソース、キャラメルソース、
ヘーゼルナッツクラッシュ(多めで)
4.ピーチ・メルバ・クレープクレープ
生地: バニラ風味
フィリング: 桃のスライス、ラズベリートッピング: ピーチアイスクリーム、
ホイップクリーム(多めで)
仕上げ: ラズベリーソース、アーモンドスライス(多めで)
5.抹茶・アズキ・ハーモニー クレープ
生地: 抹茶風味フィリング: 小豆ペースト、白玉(多めで)
トッピング: 抹茶アイスクリーム、ホイップクリーム(多めで)
仕上げ: 黒蜜ソース(少なめで)金箔
その男から、
「その紙に書いてあるクレープを3人分急いで作れ!早くするんだ!」
店長は、それを見て驚いた!もちろん、こんな状況で、注文などありえないことであるが、
それと、もう一つ、別の驚きがあった。
「こんなカスタマイズした注文なんて、うちのクレープを知り尽くした人ではなければ、とてもできないカスタマイズ注文よ。こんなおじさんたちなのに、相当に、ここのクレープを食べてて、知り尽くしているのね。それは、すごくありがたいけど、こんな形での出会いだなんて、とても残念だわ。普通の注文で出会いたかったお客様よ。
だけど、注文は、注文よ。最高のクレープを作ってみせます。楽しみにしていてね。そして、作ったら、すぐに出ていきますから、お店だけは、こわさないで下さい。お願いします。」
そして、ほどなくして、注文のクレープが出来上がると、
「お待ちどうさま。」
男たちは、クレープを受け取り、店員たちは、全員、急いで店から出ていった。
3人は、店の奥に入って行くと、とりあえず、ホッとした表情で、大男から、
「お嬢様、取り引きの場所を、どうして、ここにしたか、おわかりになったでしょ。」
「そうね。私も、ここのクレープ大好きなのよ。いつも混んでいて、せっかく来ても、5回に1回ぐらいしか食べられないものね。それなのに、今日は、5つもよ。それも、大人気のベスト5を、最高のカスタマイズをした上で、全部一度に食べられるなんて、信じられないわ。」
3人は、そのクレープを堪能するのであった。




