5-2 プリンセスの娘、誘拐の謎②
プリンセスを始め、その一行は、帰っていった。
すると、コトールルミナス国に連絡をするオービス。すると、国に戻り、プリンセスではなくて、国の管理官に会ってもらうことになった。
オービスも、日本で生まれ、二十歳を迎えてから、すでに早5年、これだけ、色々な出来事に合いながらも、一度も祖国に帰ることはなく、今回の帰国は、生涯において初めてのことであった。
国の管理官に空港で出迎えられたオービスは、とても緊張していた。
「オービス、ようこそ、よくいらっしゃいました。もともと、ここもあなたの国ですから、いらっしゃいでも、おかえりなさいでも、どちらでもいいですよね。でも、今回、帰国が初めてとは、驚いたわ。ここに初めてなら、日本と比べて、あまりの違いに、さぞかし驚かれたでしょうね。」
初めてみる祖国は、日本生まれの日本育ちのオービスにとっては、もはや別世界であり、違和感すら感じられても懐かしさなど微塵も感じられないのであった。
その多くの建物は、ほとんどが白い大理石のようなものが多く、まるで近未来のSF映画のような雰囲気は、まるで現実からかけ離れたような不思議な感覚を覚えさせる。
だが、オービスも、この場所に違和感があろうとも、本来なら、母である元のプリンセス エレンと共に帰国していたなら、今頃は、アネットの代わりにプリンセスの地位についていたかもしれない。オービス本人にとっては、本当はどちらの方が本人に幸せだったのかは、いまさらわかるはずもないのだが。
もしも生まれて、すぐに、ここに戻っていたなら、次期プリンセスとなるというケースも、稀にあったかもしれない。そして、そのようになったならば、またこれまでとは別の生活を送っていたであろうし、モデルという道も、一般人としての生活もなかったのであろう。自由気ままということなら、日本でよかっただろうし、多少不自由な点があっても、一般人よりは裕福な生活がよかったなら、プリンセスとしての人生がよかったのかもしれない。でも、今現在、モデルとして売れっ子となった彼女にとって、むしろ自由になるお金は、それよりも多いのかもしれない。
しかしながら、これらの両極端な人生について考えた時、改めて不思議に感じるのであった。
とにかく、今回の帰国は、のんびりとしたものではない。管理官に会うことになったオービスは、ことの内容について説明をしたが、それらのことについて、管理官は、理解するどころか、さらに色々なことを考えていた。
というのは、ただ単に、イミリア共和国のプリンセスの娘、マリア・フォン・シュトラウスが誘拐され、その引き換えに「美と命の水」を渡す、という単純なことではない。なぜ、イミリア共和国のプリンセスの娘をターゲットととして選んだのか。それから、何の目的で、あの水が必要なのか、それに、1番疑わしいのは、あの水を飲んだら、どうなるのかを、なぜ知っているのかということ。それらのことが、あまりにも疑わしいことばかりなのである。あの水を手に入れたら、当然飲むために違いない。しかし、何のために飲みたいのか、人質の人の命を天秤にかけてまで飲みたい人、飲ませたい人がいるのだろうか。
そして、1番基本的なことは、本当にあの水が存在するのかを、本当に信じているのだろうか、ということだった。それについての疑問は尽きない。
しかし、やはり、これは、この国にとっては、簡単な話しではなかった。そして、管理官は、今回は、もはや、かくしておくことはできないと、意を決して、オービスに、この水がこの国にとって、どれだけ重要なものであるのか、話しをすることを決めた。
「これは、国内でも知る人は、王室関連の人や、各管理官以外には、いないので、めったに話すことがないのだけれど、オービスは、万が一のことがあれば、この国に大きく関わることのあるかもしれない人なのだから、この国について大切なことと、「美と命の水」について、知っておいてほしい。これは、この国にとって、その成り立ちからのとても重要なことなので、今日は、そのことをぜんぶ話すわ。」
実は、この国ができた時から、存在している、「美と命の泉」という泉があったのだが、実際には、その泉は名前だけで、水はでてはいなかった。その岩のある場所が、そう呼ばれていた。
そして、古来からの文献によると、この国の国民は、全員が罪人であって、その大きな罪を犯したことによって、今のこの国が存在しているという。これについては、どういう意味なのか、それ以上は誰もわからない。
そして、コトールルミナス国は、なぜか他国との交流をしないのだが、これはあえてさえぎられており、世界的にその国の存在ですら信じられておらず、世界的に孤立させられた国なのである。それも、この国に大きな罪があるが故に課せられたことなのであった。
しかし、そんな中、コトールルミナス人は、国が生まれて、長い年月の末、そのような深い罪の意識を持って生きてきた。それが、どんな罪なのかを知ることもないままではあるが、罪深いことがあることだけは、どんな国民でも、それだけは、幼い頃から、教育されて知っている。
だが、その罪の内容を知らないとはいえ、罪を犯したことは、誰もが知る事実として伝えられているので、国民として、それを決して疑うこともなく、その罪を悔い改めるという自覚を持って生きてきた。
そして、いつの日か、その罪が償われて、この国に、本当の未知の幸せが訪れるまで。その意識を持って人生を過ごすことこそが、コトールルミナス人としての生き方になっているのである。その長い歴史の中で、中にはそんなことはありえないと、その罪を疑う人もいたのだが、その思考は罪となり、罰せられるということになり、コトールルミナス人全体に根強くその思いは受け継がれていた。
だが、長年に渡る、そのような、罪を償おうという気持ちが、ある時やっと認められ、それから、唯一与えられた救いとして、その泉は、「美と命の泉」として本格的に活動を始め、そこから水が湧きでるようになり、それは、初めて「美と命の水」として与えられたという。
それは、いつの日にか、必ず国の運命として訪れる対戦や、どうしても価値のある必要性を感じた時に、自分たちの任された判断によるものではあるが、使用が許されることとなった。だが、それは、簡単には使えることを許されてはおらず、この水は、50年に一度しか使えない。美と命の泉となり、50年かけて、その伝説の瓶に溜まり、初めて使えるようになる。
しかし、その後、その国の国民として生き続け、皆がその罪を償ってきたことから、その古代から伝わる瓶に入れたまま、別に保存を許された。そして、特別な時のみ使用することを許されて、さらに、一度に使い切らなければ、その瓶内で再生されるという特典を与えられるまでに、その罪は、多少償われた形となってきたのであった。
この奇跡の水は、一つの救いの道ではあると同時に、コトールルミナス人への、奇跡の水をどう使うのかによって、今後の国のあり方を左右するためのテストになっているのであった。ただ、これまでの、罰したり、奇跡の泉や水を生み出してきた存在については、誰も知らない。
しかしながら、あくまでも、その罪は、すべて償いきれたものではなく、段階的に、軽減されてきたにすぎないことを、決して忘れてはならない。その罪がどのようなものであったのかを知らされていないことも、コトールルミナス人として、1番辛いことであった。そして、その罪は、今後どのようにしたら償いきれるのか、それはどのくらいかかるのかは、誰も知らないのである。
それに、その罪がいつか償われた時、いったいどうなるのかも、誰も知らない。
ここまでのことは、プリンセスや皇室の者たち以下、管理官しか知れていない。
そして、この水の存在する本当の意味は、実は、まだ誰も知らないのかもしれない。




