2-18 その名は、アイフ18
「エリーゼ、ごめんなさい。どうしても、娘がついていくって言うから、何かと思ったら、あんな失礼なことをして。本当にごめんなさい。」
「いいのよ、大丈夫。それでは、手術の内容について、ご説明します。」
すると、エリーゼの目の前のデスクにあった布をかけてある大きな四角なもの。その布をとると、それは、大きな水槽のようなものであり、よく見ると、その中は、水のようなものが満たされていて、中には人間の顔のようなものが、顔半分くらいが、その中に漂っていた。
これは、エリーゼが独自に研究して作り上げたもので、中に浮いているものは、なんと、ミレーナの顔の皮膚細胞であった。
「この中にあるものは、ミレーナ、あなたの皮膚細胞よ。」
ミレーナは、その意味がよくわからない。
「実は、私は、独自に培養細胞の研究をしていて、先日の事故であなたの手当てをする時に、悪かったけど、皮膚の一部とその皮下細胞を少し除去して、もらっていたのよ。それで、ここまで9ヶ月もかかってしまったけど、培養細胞を大きくして、やっとあなたの顔の三分の一の大きさになったのよ。それに、コンピューターで制御しながら、あなたの顔のなくなった部分の色と形に復活しているのよ。ちょっと時間がかかったけれども。」
それをみて驚くミレーナ。それは、まさにミレーナ自身の顔半分近いものが、その中に浮いているように見えていたからであった。
「これは、あなたの皮膚そのものだから、拒否反応もなく、気持ちよくフィットすると思うわ。ただ、こんなに大きな皮膚を、ミレーナの顔から切り取るのだから、移植したあとの完全回復は、やはり半年はかかると思う。」
「エリーゼ、私たちは、あなたにあんな酷いことをしたというのに、あなたって、どうして私に、こんなにまでしてくれるの。私たちは、ただ恨まれても仕方ないのに。」
「それは、、、、。なんでしょう。私が、医者だから、かしらね。さあ、それで、話しは終わりよ。それでは、手術用の専用着に着替えてね。」
手術室の外では、娘のセリナは、なぜか不敵な笑いを浮かべている。
年間2,000万ミラの美認金が、これから貰えなくなるってことなのよ。奇跡の外科医だかなんだか知らないけど、あなたみたいに稼いでいる人には、美認金がもらえなくなることの悔しさなんてわかるわけないわよね。
2,000万ミラは、母と、私、そして、妹の3人でわけていたから、それがもらえなくなったら、大変なのよ。私たちにとっては、死活問題だからね。だけど、今日、あなたが、母の顔を無傷で治すというから、これで万が一、本当に傷一つ残らないのなら、また美の極みの称号がもらえることになるかもしれないし、もしもダメで傷が残れば、契約違反で、私たちはあなたを訴えて、たんまりふんだくってあげるからね。あなたが約束したこと、しっかりと録音した証拠もあるからね。だから、どちらにしても、私たちの勝ちなのは間違いわ。
エリーゼ、あなたは、母が、美の極みの称号を失うことがどういうことかわかっている?
ストレッチャーに乗せられて、ミレーナは、手術室に運ばれていく。
麻酔が効いて、術式が始まると、エリーゼは、レーザーメスを使って、ミレーナのやけど部分を周囲1㎝ほど広めのあたりから、切り始めてゆく。こうして、三分の一の顔の皮膚を、その皮下組織と共に取り去ると、一方では、コンピューター制御によるレーザーメスの自動装置が、同時に、たった今切り取った皮膚と同じ形と大きさを読み取りながら、培養した皮膚細胞を切り取っていく。
切り取った皮膚細胞は、培養液から出されて、ロボットアームが、ミレーナの、ちょうどやけどした皮膚を取り去ったあとに収めていく。すると、寸分たがわず、ピッタリと切り取った皮膚の上に収まった。
すると、エリーゼは、特殊栄養糸の準備をする。これは、栄養分の含まれている特殊な糸で、ゆっくり溶けながら、傷の回復のために栄養を与え続ける効果がある。そして、特別性のU字針を使用して、その正確さと丁寧な縫合の仕方は、おそらく他の外科医には決して見ることはできないであろう。手際がよく、正確で丁寧とくれば、もはや言うことはない。
「術式、終了。」
術式は、無事に終了し、手術室から出ると、集中治療室へ移動された。
麻酔は効いていて、ミレーナは、まだ目覚めない。廊下では、家族のセリナが待っていた。すると、顔を合わせたエリーゼに、挨拶をするでもなく、
「先生、手術は、間違いなく成功ですよね。母が綺麗な顔に戻っているのを、楽しみにしているわ。」
セリナは、エリーゼが何か返事をするのも、待たずに帰っていった。
それから、数ヶ月が過ぎて、いよいよ傷口の確認をする時がやってきた。当然、セリナも同席した。
顔から、特別製のマスクを外して、傷口を覆っているガーゼを取っていく。
すると、そこには、紛れもなく、あの事故に遭う以前の顔が、そこにあった。
「見たところ、傷口は、わからない。大丈夫そうですね。」
セリナは、実は、何か言ってやろうと思っていたのだが、ここまで、綺麗に仕上がるとは、あまりにも予想外で、驚きのあまり、言葉がなかった。すると、ミレーナも、やっと鏡で、自分の顔をみて、顔を隅々までさわりながら、
「とても信じられないわ。全く傷口がわからないどころか、新しい皮膚というか、顔全体が、前よりも皮膚がより綺麗に輝いているわ。」
「ああ、わかりましたか。実は、新しい皮膚がより繊細な仕上がりになったので、顔の他の皮膚も、それに合わせて、皮膚組織栄養布という特殊な栄養布というのを、今日まで貼って、皮膚の栄養供給と同時に美顔処理をさせて頂きました。簡単に言えば、皮膚のメンテナンスですね。」
「すばらしいわ。やけどの痕どころか、前よりも綺麗になってるなんて。」
そこへ、やっと口を開いたセリナ、
「こ、これなら、きっとまた美の極みの称号を復活してもらえるわ。よかったわ。」




