2-17 その名は、アイフ17
そして、3ヶ月がすぎて、実に、あの事故から、9ヶ月がたっていた。エリーゼは、マスクをしたままで、ロイヤリング大学病院に復帰していた。周りからは、怪訝そうな顔をして、見る人もいたが、負けずに明るく振る舞っていた。
すると、ある日、病院の受付に、1人の女性が。すると、受付嬢、
「ご予約されていますか。少し、お待ちください。」
すると、どこかに連絡をしている。
「あっ、ノクターン先生、今、受付に、女性が、、、、。あっ、はい、わかりました。」
社内電話を切ると、
「確認とれました。今、ご案内します。」
なんと、この女性は、あの事故で顔にやけどを負った、ミレーナ・クロスハートであった。しかも、この病院を訪れたのは、彼女の意思ではなく、エリーゼが呼んだのであった。
「ご無沙汰してます、ミレーナ。」
ミレーナは、事故以来、初めて、エリーゼと再会したが、エリーゼのその顔は通常のものよりも大きめのマスクで顔をおおっていた。しかし、その眼差しだけは、明るく笑っているように感じられた。しかし、その顔には、笑顔らしい印象は、全く感じられないので、あるいは、気のせいなのかもしれない。一方で、ミレーナも、顔の三分の一は、やけどのこげたような痕があるため、目だけをだしたマスクを装着していた。互いに、目だけをかわしている、久しぶりの対面であった。
「今日は、わざわざ来て頂いて申し訳ありません。実は、是非お話ししたいことがあるのです。」
すると、ミレーナは、申し訳なさそうに、言った。
「この間の事故の件については、本当に申し訳ありません。私が、娘に、自分の治療を後回しにするように伝えたのですが、娘は、私を優先させようとして、それを黙っていました。そのせいで、エリーゼは無実の罪に問われてしまいましたね。でも、その後、私の発言が確認されたことで判決が無罪になったのに、刑には間に合わなかった。そして、私の娘は、証拠隠滅罪に問われて、結局は、執行猶予がついて、実刑にはなりませんでしたが、どうやら本人は、悪いことをしたとは、思ってないようです。重ねて、申し訳ありません。」
「ミレーナ、そのことは、もういいんですよ。もう、終わったことです。今日、きてもらったのは、そのことじゃないんです。」
「ええ、私は、てっきり、そのことで話しをしたいということかと思ってました。」
「そうじゃないんです。実は、あの事故の時に、治してあげられなかった、そのあなたのやけどをぜひ治してあげられたらと思って、お呼びしたんですよ。」
「ええ、でも、この顔は、もう治すのは無理ですよ。一応、手術はしたので、まあ、かなり、見た目には、痕が残っているので、やはり素顔は出せないですが。」
「そうですね。信じてもらえないかもしれないですが、私は、その傷を跡形もなく、治せる自信があるんです。そうでなければ、わざわざ、お呼び出したりなんてしませんわ。」
「本当ですか。そんなこと、聞いたことがないです。」
「今回のことは、申し訳ないと思って、手術を受けて頂けるなら、費用も要りません。どうか、私を信じて頂けるなら、3日後に予定をあけておきますので、予約していってくださいね。それから、1か月入院して、完全完治するまでは、半年はかかりますから、そのつもりでいてください。その代わり、絶対に痕は、残しませんよ。」
「本当に、そんなことできるんですか。」
「大丈夫。私、失敗しないので。」
「だけど、ただだなんて、何か代わりに、何かお礼をしたいです。」
「そこまで言うなら、そうですね。じゃあ、高級なマスクメロンを、1玉お願いします。そう、桐の箱に入れて、ね。」
「わかりました。そんなことでいいのなら。」
すると、半信半疑ではあったが、ミレーナは、予約を入れていった。自宅へ戻ると、エリーゼに呼ばれて何があったのかと、あの時、証拠隠滅をはかった娘のセリナに問いただされた。
そして、手術のことを伝えると、
「バカバカしい。そんな、その顔が、跡形もなく治せるなんて、ありえないわ。そんなこと、手術をするだけ無駄に決まってる。お母さん、その傷は、顔の3割以上、こんなに痕が残っているのよ。顔の取り替えでもしなければ、不可能じゃない。それを絶対に任せてくださいだなんて、いい加減なこと。」
「私も、ちょっと信じられないけど、あまりにも、一生懸命に勧めてくれるので、お願いしようかと思って。」
「そんなこと、お金をかけるだけ無駄よ。」
「そうじゃないの。お金は、要りませんって、言ってくれて、ただでやってくれるって言うのよ。」
「なんですって!ただなの。それなら、やってもいいかしら。」
すると、少し考えていたセリナは、
「わかった。私にいい考えがあるわ。手術の日、私もいくわ。」
3日後、ミレーナは、どうしても一緒に行くと言い出したセリナを止めることも出来ず、病院に向かった。
エリーゼに呼ばれて、まず診察室に入ったが、そこにも、共にセリナの姿があった。
「エリーゼ、今日は、母の手術をしてくださるそうね。ちょっと、その前に、どうしても確かめておきたいことがあるのよ。いいかしら。」
「ええ、大丈夫よ。どんなことですか。」
「あなた、母のこの顔を治してくださるそうね。それも、跡形もなく、元通りに。」
「ええ、その通りよ。そう約束したわ。」
「実はね。今、この会話を録音させてもらっているのよ。」
すると、横で驚きながら、ミレーナが、
「セリナ、あなた、なんてことするの。今すぐやめてちょうだい。」
「お母さん、これは、大切な証拠よ。これで手術をして、痕がちょっとでも残ったら、訴えてやるから。おっと、でもこれは、エリーゼの方から、言い出したことですから、それをよく覚えておいて。もしも、痕が残ったりしたら、私たちは、何も悪くないわ。悪いのは、跡形もなくやり遂げると言ったあなたなんだから。じゃあ、楽しみにしているわ。」
すると、すごい口調で言い放ってセリナは、出て行った。




