2-15 その名は、アイフ15
そして、手術直後は眼球の定着と視神経の回復を確認するため、ジェニーは、集中治療室に移され、エリーゼは、注意して、眼球がスムーズに定着が行われるかを見守っていた。もしも、定着の進行が遅れたり、妨げられるようになると、定着が遅れて、気体化が始まってしまうので、術後、もっとも気を遣うところである。そして、定着を確認すると、同時に免疫抑制剤の継続投与し、拒絶反応を防ぎながら、回復を待った。
そして、数週間後、ジェニーは、完全に回復し、いよいよ包帯がとれる時がきた。エリーゼも、楽しみに立ち会っている。やがて、包帯をとると、ジェニーは、ゆっくりと目を開いた。
「あっ、眩しいわ。」
すぐに、目を閉じるジェニー。すると、エリーゼは、
「ジェニー、大丈夫よ。焦らないで、ゆっくり開けるのよ。光の入るのを、調整しながら、無理しないで。」
そして、何度も、薄目を開けながら、ゆっくりと開けていった。
「ああ、見えるわ。先生の顔が見える。信じられない。」
嬉しそうに周りを見回すジェニー。すると、エリーゼも嬉しそうに微笑んだ。
「ジェニー。私ね、実は、まだこの手術、やったことなくて、初めてだったのよ。ごめんなさいね。こんな実験みたいなこと。」
「ううん。そんなことないわ。だって、見えているんだもの。大成功だわ。」
「うーん。そうね。とりあえずは、よかった、第1段階通過ってところかしら。まだ、課題は残ってるのよ。今の視力を測らせてね。」
視力検査をしてみると、まだ目を見開くのは、ちょっとだけ辛い感じがするのと、視力は、まだ弱いようだった。
「そうね、両目とも、0.5だから、まずまずってところかしら。あとは、今後視力がこれ以上回復するのか、このままなのかが心配なところね、正直言うと。」
「でもね、先生。私なら、もしも、このままの視力でも大丈夫。だって、本当なら、暗闇の中で残りの人生を送るところだったんですもの。これで充分よ。先生、本当にありがとう。」
それから、リハビリをしながら、少しずつ視力を回復して、その後、数ヶ月後、ジェニーは、現場に、無事復帰していった。
そして、様々な事件に遭遇しながら、今回のエリーゼの判決に心を傷めて、面会したのだった。
「先生、私、今では、両目ともに、視力が1.5まで回復したんです。そのことも早くお知らせしたくて。そのこともあって、今日面会に来ました。」
「ジェニー、ありがとう。その言葉だけで、私の初めての試みは、報われたわ。」
「実はね。先生、私、今回の事故の当時のこと、もっとよく調べてみたいんです。」
すると、えっ、という表情のエリーゼ、
「私、あの事故のあった時、もしかしたら、重症を負った女性の手術を始めたのが、やけどをする、少しでも前だったのか調べたい。たとえ、1分でも、やけどする前に、手術が始まっていたら、それは手術の中断はできないでしょう。そうしたら、手術を中断はできないから、顔のやけどを後回しにするしかないじゃない。そうでしょう。それがわかれば、判決は覆るわ。先生は、無実になるのよ。私、絶対に調べてみせるわ、先生から頂いたこの目で、必ず見つけてみせるわ。」
「ありがとう、ジェニー。でも、決して、無理はしないでね。」
それから、ジェニーは、TVで放送された当時のニュースなどの映像など、チェックして、事件直後ではなくて、事故の瞬間、あるいは、事故直後以降の映像を探していた。すると、たまたま、一般人が、事故直後からの映像を撮ったものを放送していた番組が見つかり、ぜひ事故があった直後からの様子をみせてもらった。
すると、その映像では、エリーゼが簡易的に手術台の準備をしている。幸い、はるか向こうには、まだやけどをしていない女性の姿が見える。やっぱり、まだ、やけどはしていないわ。それなのに、今、手術は始まろうとしている。エリーゼは、メスを握って、手を伸ばした。
やったわ、手術は、先に始まっていたのよ。
その手にしたメスが、女性の身体に触れようとした、その時、バスは、爆発して火を吹いた。その火は、向こう側の女性の顔に吹きかかって、女性は、悲鳴と共に倒れてしまう。
その爆音とともに、メスを持つ手をやめて、思わず立ち上がるエリーゼ。やけどの女性を見下ろすと、その女性の家族は、こちらに向かって、怒り怒鳴っている。ほんの10秒ほど見たあと、手術は再開した。向こうでは変わらず、やけどした女性の家族は怒鳴っていた。しかし、手術は、続けられていた。
残念ながら、エリーゼが手術を始めたのは、女性のやけどしたのを確認したあとであった。
なんてこと!手術は、あとだったのね。でも、あそこまでやりかけたら、絶対にやめることはできないわ。もしも、私だったら、やっぱり、手術を始めてしまうわ。この、爆発と手術開始のタイミングが、たぶん2分か3分くらいの違いだもの。
早速、この映像を知り合いの弁護士に、鑑定してもらった。その女性弁護士によると、
「ジェニー、たしかに、これなら、ギリギリで、タイミング的には、手術は、先に継続して始められたと判断されていたかもしれない。」
ジェニーは、少し嬉しくなり、その言葉の続きに聞き入った。すると、
「ただ、医師は、一度立ち上がったでしょう。立ち上がって、まして、やけどの患者の方をみたわよね。それは、ちょっとまずいわね。そのまま、せめて、立ち上がらなければよかったわ。たとえば、メスを持つ手が一度止まったとしても、そのまま続けていれば、その女性が顔にやけどを負ったこともわからなかったし、座ったままでいたなら、やけどをした女性の家族がやけどのことを叫んでいたことから、やけどに気づいていたとしても、あとから、聞こえなかったと言うこともできたし、一度立ち上がって、女性の方を確認しているし、しかも、少しの間、考えているでしょう。これを見ると、女性の具合を見て、大丈夫だから手術の方を優先したように見えるわね。」
「そうですか、、、、。」
「残念だけど、仕方ないわね。」
「あの、、、、刑が執行されるまで、あと5日なんです。なんとか、いい方法はないでしょうか。」
「そうね。あと5日、、、。なかなか、きびしいわね。だけど、もう、こうなったら、悔いを残さないようにするという気持ちで、事故の直前から手術が始まるまでの映像をできる限り多くみて、どこかに落とし所がないか調べるしかないわね。決して焦ってはダメよ。冷静になって見ないと、見えるものも見えなくなるから。」
「ありがとう。やるだけのことは、やってみるわ。」




