2-14 その名は、アイフ14
そんなマスコミでの騒ぎの中、ある1人の女性が、拘留中のエリーゼ・ノクターン医師に面会を申し出た。
「ご無沙汰してました、ノクターン先生。」
「あら、あなた。久しぶりね。その後、どう?」
「ありがとうございます。その後、とても順調で、事故前とは変わらず、完全回復しました。」
実は、この女性は、1年以上前、大変な事故に遭っていた。
女性の名前は、ジェニー・ウォッチ。20才で、アニメントスTVに勤務して報道関係の仕事をしている。最近では、芸能関連よりも事件事故関連の取材が多くなっていた。
ある時、ジェニーは、闇で非常に危険な爆発物の製造をしている連中がいるとの情報を追っていて、とうとう、その倉庫を突き止め、その証拠を握るため、製造現場を外から撮影をしていた。
すると、製造ミスにより、中で爆発が起こって、全員死亡。ジェニーは、その現場から離れた場所にいたが、その爆風で窓ガラスが割れ、その多くの破片が、彼女の顔を直撃した。
倉庫は、爆発で燃え上がり、消防車が急行し、同時に、救急車が要請され、ジェニーは、重症で、ロイヤリング大学病院に救急搬送された。
その時に、病院で受けた医師が、エリーゼ・ノクターンであった。
すると、救急隊員から、
「どうやら、倉庫内の爆発からは、離れていたようですが、その爆風で割れたガラスのかけらがかなり顔に刺さっていて、もはや両目は、絶望的な状態です。」
すると、エリーゼは、何かに気がついたようで、事務所に連絡をした。
「私は、エリーゼ・ノクターンよ。いい、これから、私の言うことをよくきいて。この病院から、30分以内で来られるところで、今から1時間以内に、事故か病気で亡くなった人を探してほしいの。性別は、どちらでもかまわないわ。
ただ、血液型は、O型で、年齢は、20才から40代までで、首から上が無傷であること、そして、その人の家族とすぐに連絡がとれるのが条件よ。そう、あと、気体化生体形については、XRタイプをどうしても必要なの。これが、1番難しい条件よね。でも、その次に多いZRタイプだと、移植後、定着する前に気体化が起こりそうで、絶対に危険だから、やっぱりXRタイプしか考えられないわ。
もしも、見つかったら、その家族と、私が直接話しをするから、ここに連絡してちょうだい。見つけるのは大変なのは、わかってる。だけど、お願い、急いでね。」
ここで、XRタイプについて説明すると、コトールルミナス人は、命がなくなると、いわゆる死ぬということではなくて、消滅して、死体は消え去っていくという現象が起こる。故に、火葬という処理法は存在しないし、必要としない。
ところが、この消滅することについて、専門的な言い方をすると、これを気体化現象と言い、命が亡くなったあと、死体は、その細胞が、ある一定の時間を過ぎると、まず、すべての細胞の核が溶解して、次に、気体化現象が始まり、見た目として、その細胞は、空気のようになるため、遺体は消えていくように見える。そして、命が亡くなってから、この気体化現象が起きるまでの時間には、人によって、個体差というものがあり、これを、気体化生体形、といい、3つのタイプに分類される。
まず、SRタイプといい、これは全体の70%を占めるが、命がなくなってから、1時間たつと気体化現象が始まり、全細胞の核が溶解して、のちに見た目も気体化が始まって、消えてゆく。
そして、次に、全体の20%を占めるのが、ZRタイプである。これは、2時間のちに、細胞核の溶解後、気体化現象が始まり、消えてゆく。そして、もっとも、少ないタイプこそが、今回探している、XRタイプであり、全体の10%しか存在しない。しかし、これは、もっとも細胞の生体エネルギーが強いものであり、命がなくなってからも、細胞の核が溶解せずに核をしっかりと保ち続けるため、気体化現象まで、なんと、4時間も肉体はそのまま維持されるため、臓器等の移植には、もっとも適している。
SRタイプについては、もはや移動時間でさえも不可能な時間なので、言うまでもないのだが、ZRタイプで、気体化現象まで2時間あって、移植が間に合ったとしても、その臓器が血液を巡り、定着し始める前に、2時間が過ぎてしまい、細胞核の溶解が始まると、移植した体内で、その臓器は、気体化が起こってしまうのである。死体を臓器移植に適しているかを考えた時に、移植自体非常に時間を要するものなので、XRタイプ以外は、そもそも不適合と考えてよい。そこで、今回も、XRタイプしか選択肢がないのであった。
エリーゼは、電話を切ると、ジェニーの顔からガラスの撤去を始め、手術の準備を始めた。すると、それから、20分後、事務所から、連絡が入った。
「あっ、お疲れ様。見つかったの。ウソでしょ。こんなに早く?それも、XRタイプは?えっ、信じられない、ありがとう。わかったわ。その家族と話しをするわ。つないでちょうだい。」
すると、エリーゼは、その見つかった遺体の家族と話しを始めた。
「亡くなった方のご遺族の方ですね。今、ご家族の方が亡くなられて、お気持ちも整理がつかない状況で、突然のご連絡で申し訳ありません。
実は、率直に申し上げますと、今、こちらで事故にあった方がいて、そちらの今亡くなった方の両目をドナーとして、是非ともご提供頂きたいのです。はい、はい。そうですね。当然、両目の眼球を取り出したあとは、空洞になりますが、こちらで義眼をご用意して、代わりにそれを使用して、見た目は、きれいに元通りにさせて頂きます。それについては、もちろん対応させて頂きます。そうですね、もちろん、気体化に同期対応したものを用意させて頂きます。」
すると、頷きながら、遺族からの話しを聞いているエリーゼ、
「そうですか。ご了解頂けますか。本当に、ありがとうございます。それでは、今、すぐにそちらに係りの者が伺いますので宜しくお願い致します。本当にありがとうございます。」
電話を切ると、改めて、事務所に連絡をするエリーゼ、
「よかったわ。ご遺族から、了解を得たわ。すぐに、遺体をとりに向かわせてちょうだい。それから、遺体がついて、眼球の摘出作業が済んだら、また連絡するけど、義眼を早急に頼むから、すぐ対応できるように準備していてね。」
遺体が到着すると、手術室のジェニーの横に運ばれた。
すると、ドナーの女性の遺体から、眼球を慎重に取り出し、眼球外筋を維持したまま、角膜保存液(オプティソールGS)に浸した。
そして、今度は、ジェニーの眼窩内の古い眼球を摘出していく。そして、ここでは、視神経を切断しなければならないため、エリーゼは、慎重に慎重を極めた。そして、ドナーの眼球を慎重に配置し、視神経を新しい眼球に接続していく。視神経の接続は、まず、世界的にも臨床例がない。エリーゼにとっては、これまでで最も困難を極める術式であったが、このことは、長年研究を重ねていた。
すると、奇跡的に視神経の接続に成功した。だが、現実的には、物理的に接続できただけであり、実際に、目の機能回復までは確認はできない。そして、眼球外筋を再接続し、血液供給を確保して、一応、移植手術は終了した。
すると、エリーゼは、遺体の眼球の色を手術前に確認をしておき、条件にあった義眼が到着し、遺体に元のように取り付ける。遺体に向かい、一礼をしたのち、手を合わせた。そして、
「今日は、本当にありがとう。あなたのお陰で、1人の女性の、明るい人生が取り戻せそうよ。本当にありがとう。」
そう言うと、エリーゼに、一筋の涙が頬をつたった。
すると、手術中に、この病院に来ていたこの遺体の遺族が、隣りにある遺体安置室で遺体の受け取りのために待機していた。遺体は、すぐに運ばれて、そこで、残された家族全員で、気体化を看取っていった。




