2-11 その名は、アイフ11
そして、その後、裁判となり、この国においては、国の法律は、1つではなく、他国のように、一般的な法律があるのとは別に、女性の美貌について、単独で設定されている「美法典」が存在している。
この「美法典」は、一般的な法律が、すべての国の決まりとして存在している上で、女性の美貌に関して、あてはまる事例として判断された場合には、「美法典」を優先し、一般的な法律の判断は、すべて無効となってしまう。様々な事柄の起こっている中で、優先されることは、その命であるが、そこに、「女性の美」というものが、絡んできた場合には、もはや、一般的な法律は、その効力を失ってしまうのであり、「美法典」には、国の法律を超えたものとして、存在しているのである。そして、そのように、女性の美貌に絡んで起こった事件や事故などの事柄は、優先的に解決に向かって進められ、裁判も早急に行なわれる。
そして、今回の事故から起こった美貌軽視事件は、事件発生より、2ヶ月を待たずに、裁判が開かれた。
被告人・・・医師エリーゼ・ノクターン
原告・・・・顔に火傷負った女性ミレーナ・クロスハート
その家族・・セリナ・クロスハート
重症の女性・・・フィオナ・ブレイズウッド
●法廷内
【裁判官】: これより、被告人の、医師エリーゼ・ノクターンに対する訴訟を開始します。
それでは、原告側から主張をお聞きします。
【原告側弁護士】: はい、原告側を代表して弁論いたします。私の依頼人である、原告の女性ミレーナ・クロスハートは、交通事故に遭い、顔に大やけどを負いました。しかし、ノクターン被告は、重症の女性フィオナ・ブレイズウッドの命を優先し、クロスハート原告の美顔の治療を後回しにしました。これにより、クロスハート原告の顔には、取り返しのつかない損傷が残りました。この行為は、我々の社会で最も尊重されるべき美顔を軽視した重大な医療過誤です。
【裁判官】: 被告側、弁論をお願いします。
【被告側弁護士】: 被告側を代表して弁論いたします。ノクターン被告は、緊急事態において、命を救うことを最優先しました。しかし、これは、フィオナ・ブレイズウッドの命が危険にさらされていたため、適切な医療措置を講じたまでです。これは医療倫理に基づく正当な行為であり、医療過誤には当たりません。
【裁判官】: では、証言を聞くことにします。まずは、ノクターン被告は、証言台にお立ちください。
(ノクターン被告が証言台に立つ)
【原告側弁護士】: ノクターン被告、事故現場での行動について説明してください。
【ノクターン被告】: 事故現場に到着した時、フィオナ・ブレイズウッドが重傷であり、命の危険があると判断しました。そして、一方で、クロスハート原告のやけどについては、先に処置をしても、後回しにしても、そのやけどの跡に違いはなかったことを、処置する以前に確認済みでありました。そこで、フィオナ・ブレイズウッドの緊急手術を行い、彼女の命を救うことを最優先しました。その後、クロスハート原告のやけどの治療にあたりました。
【原告側弁護士】: クロスハート原告の顔の治療を後回しにした理由は何ですか?
【ノクターン被告】: 命の危険がある患者を優先するのは医療の基本です。フィオナ・ブレイズウッドの命が危険にさらされている状況で、他の患者の治療を優先することはできませんでした。
【裁判官】: 次に、原告側の証人を呼んでください。
(原告側の専門家証人が証言台に立つ)
【原告側弁護士】: 専門家証人として、医療倫理についてご意見をお聞かせください。
【専門家証人】: もちろん、命は、なによりも大切なものであり、優先されるべきものではありますが、それは、女性の美貌以外に、というものであります。この国では、美顔が最も尊重されるべき価値とされていますので、2番目に尊重されるべきが命ということになります。つまり、裁判官より、始めに、報告がありましたように、本件は、女性の美貌が関係している時点で、通常の裁判ではなく、「美法典」を、その裁きの判断として扱うべきものでありますので、通常の、コトールルミナス国憲法は、通用致しません。ノクターン被告は、これまでの学歴等に基づいて、あらかじめ「美法典」についての充分な知識があったことは明白であり、この価値をすでに理解していたはずであり、美貌に損傷を負ったクロスハート原告の治療を最優先で対応すべきでした。とにかく、まず最初に、この2人の怪我人に遭遇した時、まずクロスハート原告のもとに行くことこそが、美貌を最も尊んでいることを主張する行為となるものでありました。そして、その、すぐあとに、フィオナ・ブレイズウッドのもとに行っても、遅くはなかったし、この社会における最も正しい判断だったのだと思います。ノクターン被告の行動は、この社会の倫理規範に適応せず、「美法典」に反しています。
【被告側弁護士】: 異議あり。専門家証人の意見は一面的であり、医療現場の現実を無視しています。
【裁判官】: 異議を認めます。意見の範囲を制限してください。
【原告側弁護士】: 承知しました。では、フィオナ・ブレイズウッドの家族の証言をお願いします。
(原告家族が証言台に立つ)
【原告側弁護士】: 証人は、当時の状況とその後の影響について説明してください。
【原告家族、原告の娘セリナ・クロスハート】: 私たちの母親は交通事故で顔に大やけどを負い、当時の記憶を失っていました。ノクターン被告は、母親の顔の治療を後回しにしました。その結果、母親の顔はひどく損なわれ、美顔を取り戻すことはできなくなりました。それに、母親は、美の極みの称号を与えられているという、この国でも、その美貌のレベルは、トップレベルで、非常に稀有な立場であり、この社会では、そのトップレベルの美顔が最も重要です。母親の顔が元に戻らないことに加えて、美の極みの称号を剥奪されることは、家族全体にとっては、もちろん、国にとっても大きな損失と言えるでしょう。
【被告側弁護士】: それでは、被告側の証人を呼びます。
(被告側の専門家証人が証言台に立つ)
【被告側弁護士】: 医療倫理の観点から、命を優先する判断について説明してください。
【専門家証人】: 医療において、命の危険がある場合は最優先されるべきです。ノクターン被告の判断は、国際的な医療基準に照らしても正当なものであり、緊急手術は必要な措置でした。
【裁判官】: 双方の主張を聞きました。これより、陪審員による評議を行います。




