7-12 マリスガス・ミレニスの憂鬱12
そして、その犯人の女性は逮捕された。だが、これには、実は、アニエスのアイデアが1番の決め手となっていたのである。
それというのも、打ち合わせのため、自滅屋の車に乗り込んで、ベッドで全身のチェックを受けていた時のことであった。その脱いだ靴には、犯人の居場所を突き止めるための発信機が仕込んであったのだが、それが犯人にバレてしまった。そこで、アニエスの申し込みが偽であったことを知った犯人は、気がつかないふりをして、なんとしても、自分が逮捕されずにアニエスを絶対に自滅させることを決意した。
だが、その発信機の本当の目的は、そこではなかった。つまり、自分は、発信機をわざと見つけさせて、警察の関係者であることを知らせて、犯人を怒らせるためだったのである。
それは、これまで、飛び降り自滅を申し込み、実行された若者たちは、自ら苦しむためでもつらいためでもなかった。何か、特別な世界を訪れることができるとか、幸せな気持ちになれるとか、そのようなポジティブな考えを持って、自滅を申し込んでいて、なんと、自滅屋も、そんな若者たちに喜びや幸せを与えられると信じて願い、現場で機械のスイッチを入れていた。つまり、全く悪意の気持ちを持つことは、これまではなかったのである。そのため、マリスガスは、これまでその現場に悪意を感知することはなかったのであった。
アニエスは、このことに、やっと気づくことができて、自分から警察の関係者であることを突き止めさせて、今回は、犯人に、自分に対して悪意を持って現場に来させることで、マリスガスを有効にさせることが、1番の狙いなのであった。
しかしながら、犯人が仕組んでいた、飛び降り自滅させる方法とは、意外な方法であった。そもそも、飛び降り自滅をさせるために、後ろから押すというやり方は、高所に立つ自分が、飛び降りの意思を持ち、誰かに依頼する場合だけであり、それ以外の場合は、高所には、自分のその手前には、少なくとも、自分の背丈以上の、何か飛び降りを禁止させるための囲い等があるのが普通である。
つまり、犯人は、なんらかの方法で、その邪魔な壁を超えさせる必要があった。それは、犯人は、アニエスを車内のベッドに乗せて、医療用のヘッドギアを被せると、特殊なメモリーカプセルを脳内の一部の記憶中枢に記憶させていく。これは、あとから、脳内にあとから入れ込んだ外部からの記憶を探ってみても、感知することはできないようになっているので、追加情報を調べようとしても見つけることはできない。
実は、犯人が捕まった時、アニエスは、一瞬、気を失って、気がつくと、どこかはわからない荒地に立っていた。その時、アニエスは、自分が誰だか、そして、今どこにいるかも、全くわからない。そして、足元を見ると、そこには直径50㎝くらいの穴が空いていて、その中に自分は立っている。その深さは膝くらいまでで、一見、危険と思えるようなものではなかったが、しかし、よく見ると、その穴の直径は、なぜか徐々に小さくなっていく。このままいくと、その中で押しつぶされてしまうと気がついたアニエスは、とっさに穴から飛び出た。すると、次の瞬間、アニエスは、展望台から飛び降りていたのである。
これは、犯人の飛び降り自滅を起こさせる巧妙な仕掛けで、ベッドでヘッドギアを装着されたアニエスは、脳内に入れられたメモリーは、脳内を調べてもわからないが、犯人がリモコンによって、特殊な電波を送り込むと、そのメモリーが開いて、荒地にいて、穴の中にいるという幻想をみてしまい、その収縮する穴から出ようとして、穴から飛び出ると、実際には、高所から飛び降りているという現実になり、自滅してしまうのである。これなら、本人の意志で飛び降り自滅をさせることができるという仕掛けであった。




