56話 肉切り包丁の試運転と隠し効果
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12層を後にして、10層のポータルで2層へと戻る。
肉切り包丁の試運転だ。
「よっしゃ、さっそく使ってみるで!変身!!」
いつものように俺は俺様へと姿を変える。地面からファーっとエフェクトが上がり、全身がプロテクターに包まれる。テーマ曲のオトコの中のオトコがダンジョンに響き渡る。
湧き出るオーク達。今の俺様にとっては雑魚も雑魚。俺様の敵じゃない。
新しく手に入れた肉切り包丁を構え、オークの群れへと突っ込む。
一閃。
「おおっ!?」
斬った瞬間、オークの体が光に変わると同時に、確定で肉の包みがドロップする。
確実に、肉。
いつもの肉屋の包み紙に包まれている。
普通の討伐とは違い、肉切り包丁で斬ると必ず肉になる。
これは便利すぎる。
「コバン!回収頼むわ!」
「わかった。」
コバンが次々と肉の包みを収納していく。ぷるぷると震えながら、器用に包みを飲み込んでいく。
オーク10体、20体、50体……。
討伐を続けていると、たまに全身丸ごとオークが残っているものがある。肉の包みではなく、オークの遺体そのものだ。
「なんで?」
首を傾げながらも討伐を続ける。そして128体目。
討伐報酬の隠しボス、ハイオークが現れた。
が、もはや我が軍の敵ではない。修行の成果で動きが全て見える。
肉切り包丁で急所を一閃。確かな手応え。会心の一撃、いわゆるクリティカルヒットってやつか。
ハイオークが体丸ごと残して倒れる。光に変わらず、そのまま地面に横たわっている。
変身が解ける。異常なハイテンションから解放され、空腹感が襲ってくる。
「そうか…肉切り包丁でクリティカルで討伐したら丸ごと残るんやな!?よっしゃ十分や!帰るで!」
コバンの収納には、オーク肉の包みとハイオークの全身遺体が数体分収まっている。今日は大漁だ。
地上に戻ると、久宝寺ダンジョンの受付でカイちゃんが満面の笑みで迎えてくれた。
「お帰りなさい!!本日の成果、確認させていただきますね!上で待っててください!」
2階へ上がり応接室で脱力してると、いつものようにノックも無用でカイちゃんが入ってくる。
いつものように、コバンから買取用の肉や魔石を取り出す。
オーク肉大量、ハイオーク肉大量。受付カウンターに次々と積み上げられていく。
「うわぁ…!!これは…今月の私のボーナス、確定ですね!!」
カイちゃんの目がキラキラ輝いている。まるで宝石を見つめるような眼差しだ。
「それとこれ、オークブッチャーのドロップです」
肉切り包丁を見せると、カイちゃんの目がさらに輝いた。瞳孔が開いている。
「レアドロップ!!おめでとうございます!!これ、買取希望の方多いんですよ!売却されます?結構な額になりますよ?」
「アホ抜かすなや。これは使うわ。めっちゃ便利やもん!」
「ですよね〜!では本日の売上金、こちらになります!」
金額が提示される。いつも通り20000だけ現金でもらって、あとは振り込みにしてもらう。家族のために貯金も大事だ。
「高級レストランや冒険者ギルドの食堂が買い取るんで、ナンボでも持ってきてくださいね!!栄養価が高くて、体力回復効果もあるので!需要は無限大です!」
「なるほどなぁ…ほな、コレは?」
コバンの収納からハイオークの全身丸ごと遺体の一部を見せる。
途端に、カイちゃんの目からハイライトが消え去った。
「……おっさん、何したんや?」
声のトーンが完全に変わっている。ガチのやつや。
「肉切り包丁でクリティカルで仕留めたら丸ごと残った?みたいな……?」
「また、新発見ですね……」
カイちゃんが深く溜息をつく。
「普通、最初に斬りつけて武器交換するのが普通なので!最後まで肉切り包丁で戦うアホはいません!!!!!!!おっさんが初めてや!!」
「ギルドで解体とかしてくれへんの?異世界ラノベみたいに…?」
「やってへんわ!!精肉やってるところへ持っていってください!!!!ウチは買取と仲介だけです!!」
「マジか!?コバン、精肉できる?」
コバンがフルフルと震えている。どうやらできるらしい。オークの歩留まりが気になるけど…結構な重さになるよなコレ……。まあ、何とかなるやろ。
売上金をしっかり受け取り、ダンジョンを後にする。
家に帰ると、嫁様が息子の伊織を抱っこして玄関で迎えてくれた。
「父ちゃん帰ってきたで〜伊織〜!無事にようお帰り!!」
「うん、ただいま!伊織〜お父ちゃん帰ったでー!!」
息子がキャッキャと嬉しそうに声を上げる。俺もほっこりする。嫁様から伊織を受け取り、抱っこしてベビーベッドまで運ぶ。小さな手が俺の指を握る。この感触がたまらない。
「本日の飯は!!??ダラララララララ!ダーン!!」
口ドラムロールをキメる!
リビングには既に仲魔たちが影の中より出て、待っていた。
黄金スライムのコバン、プラチナスライムのシロガネ。
ワータイガーの牙王と、その嫁の猫さん達。
ゴブリンキングのサダハルと、その配下のゴブリン王国軍。
みんな期待の眼差しでこちらを見ている。
「今日は…!ハイオーク肉で高級肉料理の宴や!!」
「「「おおおおおっ!!!」」」
仲魔たちから盛大な歓声が上がる。牙王が吠え、ゴブリン達が飛び跳ね、猫さん達が「にゃー!」と鳴く。
嫁様が微笑みながら言う。
「ほな、おいしいもんつくってな?お父ちゃん?」
「任せとけ!!肉切り包丁、今日手に入れたばっかりやし!!」
キッチンでは俺様と仲魔たちの共同作業が始まった。
ハイオーク肉を肉切り包丁で捌いていく。
切れ味が抜群で、まるで豆腐を切るかのようにスッと刃が入る。
ハイオーク肉は脂身と赤身のバランスも完璧だ。
「こら、すごい包丁やな…さすがレアドロップ…!!」
猫さん達が肉に下味をつけ、俺様が肉と野菜を切る。
コバンとシロガネはミンチを作る係。ぷるぷると震えながら、肉を細かく砕いていく。
牙王とサダハルは野菜の皮むきと洗い物担当。意外と器用だ。
メニューは———
とんかつ(サクサクの衣に包まれた、ジューシーなハイオーク肉)
水餃子と焼き餃子(ミンチ多め!皮から手作り!)
豚の角煮(炊飯器でじっくり煮込んだ、トロトロの逸品)
生姜焼き(香ばしく焼き上げた定番)
豚しゃぶサラダ(さっぱりヘルシー)
シメに豚骨スープでラーメン!(濃厚でコクのある一品)
ついでに保存食のソーセージも作った。腸詰めにして燻製にする。これは明日以降のおかずだ。
調理開始から2時間。キッチンは美味そうな匂いで満たされている。
食卓に並べられた豪華な料理を前に、仲魔たちの目が輝く。
「それでは…いただきます!!」
「「「いただきまーす!!!」」」
牙王が豪快にとんかつにかぶりつく。
「これは…!!肉汁が溢れ出る!!衣もサックサクだ!!」
ネコネコくのいち達が豚しゃぶサラダを上品に食べている。
「美味しいですにゃ〜!お肉が柔らかいにゃ〜!」
サダハルとゴブリン軍団は角煮に夢中だ。
「ゴブ!ゴブゴブ!!(うまい!うまいぞ!!)」
箸が止まらない様子で、次々と口に運んでいる。
コバンとシロガネはスープを静かに味わっている。ふるふると震えているので、おそらく美味いんだろう。
嫁様が微笑みながら言う。
「みんな喜んでくれて良かったな?」
「ん?かーちゃんは?」
嫁様は黙って笑顔でお返事し、そのまま息子の様子を見に行った…。
照れておるのか?可愛いねん!!
俺様も生姜焼きを頬張りながら、美味さを噛み締める。脂の甘みと生姜の香りが絶妙だ。
「コレも、ジョージとナムサンダーのおかげやな……」
あの地獄の修行がなければ、今日のこの肉は手に入らなかった。
ビールをグビグビ飲んで、ぷはぁ〜。
明日もまた、ダンジョンで頑張ろう。
そう心に誓いながら、俺様はもう一杯、角煮でビールをおかわりした。
宴は深夜まで続き、笑い声が絶えなかった。
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