2話 俺様の歌を聴けぇ!!!!
テーマソングが響き渡る、『悪の中の悪(オトコの中のオトコ)』 ガワに仕込んだスマホから、音楽プレイヤーが始動する仕様だ。いけたらいいなと思い、ガワのベルトにスマホケースを仕込んでおいたが、いい仕事しやがる!
音に気づいたゴブリン共がぞろぞろ現れる。
強化された怪人の五感に奴らの所作はトロ過ぎる!!
二丁鎌を構えながら疾走る、すれ違いに喉元を掻っ切り「ひとつ!」
次のゴブリンの武器を片手でいなし、できた隙に鎌を叩き込む
「ふたつ!」
数えるのも、もどかしい!
さらにおかわりのゴブリンを蹴り倒し、とどめを刺し、鎌に引っ掛け引きずり倒し、そのまま集団に投げ込んで慌てふためく奴らの喉笛を、斬り裂いた。
じゃらり、と懐からステンレスのチェーンを取り出す。
両端に、鉄の分銅が取り付けてある。
スキル:初級忍術 のサポートで、自在に操れる鎖分銅である。
振り回し、叩きつけ、巻き付け、さらに鎌でとどめを刺し
敵の集団を蹂躙していく。
何体殺ったかわからないが、辺りが静かになる。
だが、首筋にジリジリする感覚がある…
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
咆哮をあげながら、さっきまでのゴブリンのふた周りはデカいゴブリンが奥から姿を現した。
大ぶりな、反りの大きな剣を握っている。
先手必勝!と、鎖分銅を大ゴブリンめがけて振るった。
体を躱して避けるしか無い攻撃だ。ましてや、ほぼ自在の触手のように操れる鎖分銅である。
避けた不安定な体勢の大ゴブリンにさらに、鎖分銅が足元から絡みつく。そのまま力まかせに鎖分銅を引っ張ると、バランスを崩して転倒する。
立て直しの時間を与えるつもりはない、二丁鎌を抜きながら走り寄る。交差させた鎌で大ゴブリンの剣を抑え、流し、斬り返してくるスキに、眼球を切り裂き、返ってきた剣を半歩下がって躱し、大ゴブリンの脳天めがけて、鎌を振り下ろす。
大ゴブリンの全身が大きく跳ね上がり、俺様は弾き飛ばされた。流れに逆らわず距離を空ける、地面を転がり受け身を取りつつ立ち上がり、大ゴブリンの様子を伺う。
もちろん武器は残心したまま、だ。
一際大きな光に還って行く、大ゴブリン。
あとには、少し大きな紅い魔石と、宝箱が残った。
……… 変身が解けた、危険な空気感が薄れている。
っで?!何やったん?あの変身中のテンション!!あぶな過ぎるやろ!!だいたい何やねん?!一人称変わっとんがな!!俺様て!!!!テーマソングて!!!!
ガワの面越しに見てるはずやのに、視界は何の影響も受けてないし?!むしろ、いつも以上にビンビンに研ぎ澄まされてたがな?!… うん、わかった、「変身」ヤバい…マジでヤバい、開放感と全能感。
あと…メッチャ…腹減った!!!!
◆◆◆昼食用に持ってきた、カロリーバーをもしゃつきながら、ペットボトルの水をごくごく飲む。
飢餓状態を脱し、戦闘結果を確認する。
ゴブリンの魔石(小)130
ホブゴブリンの魔石(大)1
大ゴブリンは、ホブゴブリンだったらしい。
と、宝箱… 今のところ罠があったことはない、と聞いているが…正面には立たず、サイドから蹴り上げる。
わなはかかっていなかった。
ナカミはなんだ!?
ホブゴブリンの剣 (NR)
アイツの持ってたでかい剣が入ってた。
ありがてぇ、ダンジョン産の武器は、工業的に生産される武器より質が高いと言われている。
この時点で手に入ったなら僥倖だ、ホブゴブリンよ、ありがとう。大事に使わせてもらう。
魔石を、ダンジョン付随の買い取り所へ持ってゆく。
魔石は、今最もホットなエネルギーアイテムである。
時に電気であり、時に炎であり、おおよそヒトが考えつくエネルギーとしての要素を持っていた、エネルギーに方向性をもたせる事によって、ありとあらゆるモノは、魔石で動かせるようになった。
完全無公害!すごく便利、シズ◯ドライブみたい。
ちなみに、ゴブリンの魔石(小)で、スマホが約2週間待機状態をキープできる。
とか言ってるうちに、査定が終了した。
ゴブリンの魔石(小)¥13,000
ホブゴブリンの魔石(大)¥5000
命張ったにしたら、なんともアレな金額だが、まぁ、よく頑張ったほうだ。無事これ名馬!
ちなみに、ダンジョンからの買い取りは、最初から源泉徴収分が抜かれていて、後に確定申告の時に収入次第では、還付がある。
命かけて、税金まで追加で払わされたらかなわんな…
よし、もらうもんもらったし、美味しいもん買って家に帰ろう。
ホームグラウンドになるだろう、「久宝寺緑地ダンジョン」を後にする。家から自転車で通える距離だ。
強くなれるなら、他のダンジョンも行ってみたくはあるが、しばらくはココだろうと、考えている。
公開されている情報では、久宝寺緑地ダンジョンのクラスは "F" いわゆる初心者向け、という区割りである。
階層は10層。初心者を抜ければ日帰りでクリアできるというロケーション。
休日に入って、小遣い稼ぎをするのにちょうどいいらしい。
逆に、平日は俺のような暇のある人間しかいない。ありがたいロケーションだ。
***その頃、買い取り所では…
「一階だけで、18,000とかヤバない?」
「ゴブリンだけやなくて、ホブゴブリンまで倒したみたいやねん」
「見た目、普通のさえへんおっちゃんやったけど、意外とやるやん?」
「ソロでゴブリン130体討伐するとか、聞いたことないねんけど…」
「へーくしょい!」
その頃、駅前のスーパーで買い物をしていたアキヲは、盛大に、クシャミをした。昭和のマンガか。