10話 前話別視点 買取所職員 甲斐トリコ瞠目す
私は買取所、通称、冒険者ギルド職員甲斐トリコ。
いつもはソロのセヤマさんが、初めて見るアメフトのプレーヤーみたいな、フルプレートの人を連れて来ました。イミフ。
いつも通り最高の笑顔でいってらっしゃーい。私の笑顔はすべてのオトコをトリコにする!……はず!!!!フルプレートのヒトは、今回初めてダンジョンに入るらしい。
セヤマさんが指導?みたいな感じなのかしら?
どっちにしろふたりともルーキーだし、ちょっと心配…。
職員権限発動!なんかあったときの為に、私達職員はダンジョンブートキャンプでガチ目に鍛えられる。
久宝寺ダンジョンならソロ踏破できるぐらいには。
いつもドン引きするレベルのドロップアイテムをどんな秘技で成し遂げてるか…。
そうよ!コレは調査!!未来のための大切な一歩なの!!
隠密スキルを発動して、二人の後を追ってダンジョンに入る。気配を消しつつセヤマさんとフルアーマーさんをストーキング。
うん、気付かれてない。
あ、第一ゴブリン発見 アメフトフルアーマーさんが走り出す、ぇ…?走りながら鎧の肩にトゲが飛び出していく。
まさかの、スライム樹脂のフルアーマー?
あ、ゴブリン消滅。イヤイヤ、セオリーとかあるでしょ?
メイスなんのためにあるのよ!?
初討伐のシステムアナウンス中らしい間があって再び歩き出す二人。
とにかくついていこう、隠密の隠蔽効果マジで優秀。
セヤマさんがフルアーマーさんに何か話したあと、
「行くで!変身!」と高らかに叫ぶ。
あの世代の男子ってそういうの好きよね?とか思ってたら光のエフェクトを発生させてセヤマさんの姿が変わる…。
鬼?違う?装飾品らしきものやプロテクターを纏っている。知ってる言葉にあてはめて言うなら、怪人?
え?セヤマさん怪人に変身できるん?
「俺様の歌を聴けぇ!!」
セヤマさんを中心にロックなイントロが鳴り響く。ナニやってんねん!?そんな音出したらゴブリンに気づかれるやんけ!?
周囲からゾロゾロと、ゴブリン達が姿を現す。
平日の昼間の久宝寺ダンジョンは、マジで人がいない。
早々にクリアして次のダンジョンへと旅立つか、初心者が休日にエンジョイしていくのがキホンなので。
モンスターの密度もそれほど高くはない、ハズだけど?
何処からこんなにわいてくるん?しかも、私には一切目もくれず。あ、隠密のせいか、テヘペロ。
そうこうしてるうちにフルアーマーさんがゴブリンの集団に突撃!アーマーから岩のトゲトゲを生やしながらぶち当たるゴブリンを消滅させていく。尋常じゃない殲滅力!
改めてスライム樹脂のチートさを、わからせられたわ。
かたや、歌いながら近寄るゴブリンを吹き飛ばす怪人、セヤマさん…。ゴキゲンだな。
圧殺するぐらいの密度のゴブリンが迫る。ヤバい!助けに入るべき?!
「おぉらああああああああっ!!!!」
雄叫びとともにジェット噴射の様な感じで、剣をぶん回す怪人、ゴブリンはまるでミキサーにかかったように光に変わる。
そうこうしてると辺りが静かになった。
ゴブリンを連続128体討伐すると、ホブゴブリンがスポーンする。ちなみに、自衛隊のD特調べ。
ホブゴブリンは久宝寺ダンジョンでは10層のボスとしてスポーンするモンスター…。セヤマさんが持ち込んだホブゴブリンの剣は一層で手に入れたものだったんだ。
何にしても、アレなに?
アホみたいな戦闘力よね?あの二人。
あ、ホブゴブリンが向こうから現れた、フルアーマーさんが走り出す、衝突!ホブゴブリンが跳ね飛ばされる!
嘘でしょ!?今日デビュー戦の人がこんな…。
ぁ、そのまま倒れてるホブゴブリンのアタマをメイスでめり込ませた、肩と肩の間に。こっわ!!ナニそのメイス、
アレもスライム樹脂…セヤマさんが前に言ってたな、実験用にスライム樹脂をお持ち帰りするって。
で、あんなわけのわからん武器や防具ができたの?
大手企業ナニやってんの?全然スゴいじゃないアレ!?
あと、変身ってナニ?!あの衣装どこから出てきたの!?
あのスキルあったら、私も魔法少女になれちゃうの!?
未知のスキルってこと?
未知のスキルなら、把握しとかないとだし、本人に確認して詳細を聞かせてもらうか…。
見た限り、将来的にかなり有望、味方にしといて損はないと見た!
よし、報告はあとだ、今日の買取のあとにでも声をかけよう。
まずはセヤマさんに信頼してもらえるよう最大限努力しよう。メイクのギアを1段階上げて待ち構えよう!メイクアップアーティスト直伝の最強ナチュラルメイク、ギアセカンド!!
そのままのキミを更に魅力的にぶち上げるヤツ!!あとは…たぶんあのスキルの件よね最上極秘事項として上に上げる、あとは知らん! そのような判断は分を超えます!!!!ワタシはタヌキ!タヌキ系買取査定職員とは、仮の姿!
はたして、その実体は!政府直属ダンジョン監視局、通称、冒険者ギルド所属、甲斐トリコさんだ!
久宝寺ダンジョンから出発する探索者はそれなりにいるけど、安定してアホみたいに納品してくるあのオッサンは、わたしのカンが手放してはいけないと鐘を鳴らしている。
実際に現場を見たらアレだもの、モンスターを呼び寄せながら全部捌いて魅せるアレ。
思わず歌っちゃうわ!
〽オトコのー中のオトコ〜
そんな歌この世界にあんの!?
何か、気を抜くと歌いそうになるんだけど!?
怪人に変身するオッサンとか何の癖なの?私の中で色々折り合いがつかなくなりそうなんですけど!?
ともあれ、ここは速めに切り上げて、買取所で待ち構えよう。お互いのいい未来のために!
私は、気配を消したまま、ダッシュで地上への出口へと向かう。