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三題噺もどき3

中てられる

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくさんじゅうきゅう。

 


 幼い笑い声が部屋に飛び込んできた。


 外は昨日の曇天が嘘のように晴れ渡っている。

 そんな温かな光の中を、期待と不安を胸に歩いている。

 この辺りは小学生の通学路にもなっているから、新一年生が慣れるまでは集団登校をしているんだろう。

「……」

 楽しそうで何よりだ。

 何事も一番初めが肝心だから。

 きっと新一年生は通学も楽しくできるようになるだろう。

「……」

 春らしい柔らかな光と、少し冷たい風。

 カーテンを開き、窓を開けて、空気の入れ替えをしながら。

 ぼうっと、外を眺めていた。

 そうしたら、そんな微笑ましい光景が視界に入った。

 ああいう可愛らしい時代もあったのかなぁなんてことをぼんやりと思ってもみる。

「……」

 今朝がた。

 なぜか知らないが。

 やけに気分が重かった。

 昨日せっかく甥っ子と電話をしたのに。

 そんな気分なんて、なかったのだとでも言うように。

「……」

 だから。

 陽気に中てられて。

 こちらの気分も。

 上を。

 向いてくれれば。

 よかったんだが……。

「……」

 同時に思いだした、嫌な記憶に。

 全部が上書きされていく。

 視界が少し暗くなりだす。

 私は、あんな風に、無邪気には、いなかった。

「……」

 小学生になってから。

 身内にかけられた言葉は。

 今でも思いだせるほどに強烈で。

 私の色々を縛って、作り出している。

「……」

 仲のよかったはずの知り合いに。

 かけられた言葉は。

 嘘だと疑いたくなるほどに。

 唐突で、訳が分からなくて。

 今でも忘れられない。

「……」

 あの頃は何事も手紙でやっていて。

 悪くもないのに自分で謝罪の手紙を書いた。

 それを。

「……」

 あの人は。

 見知らぬところで破って。

 視界に入るゴミ箱に捨てていた。

「……」

 あの人は。

 授業中にひっそりと破って。

 視界の隅で捨てていた。

「……」

 破れた手紙は。

 明滅するように。

 記憶の底に居ついている。

「……」

 破れた手紙は。

 風に吹かれる桜のように。

 はらはらと落ちていった。

「……」

 破れた手紙は。

「……」

 破られた。

 てがみ、は。

「……」

「……」

「……」



 ――――――!!



「……っ」

 一際強く風が吹く。

 記憶を吹き飛ばそうとでも言うように。

 少し冷えた風に、頬が叩かれる。

「――ふぅ」

 いつの間にか呼吸を忘れていたのか。

 吐き出すように何かがこぼれる。

 まだ少し気を抜けば沈みかねないが。

 少しはマシになった気がした。

「はぁ……」

 こぼれた溜息と一緒に。

 なぜか、腹の虫が鳴った。

 そういえば昨夜から何も食べていない。

「……」

 一昨日妹が置いていったりんごがあったはずだ。

 あれでも食べて。

 少し腹ごしらえしたら、もう少しマシになるかもしれない。









 お題:破れた手紙・言葉・りんご

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