2-2 邂逅2
「さて問題は、ロープの残りがどんだけあるかだ」
離陸直前のマザーに飛びついた時、腰のスティキィロープを使った。あのときに廃棄したのは数メートル分だったはず。
「とすれば残りは7〜8メートルか」
俺は下を見透かすが、重い煙状の気体に隠されていまいち判然としない。無事に降りられれば良いのだが。
安全帯の器具を操作しロープを限界まで伸ばして降下したが、残念ながらあと数メートルのところで止まってしまった。体を振り、ここの疑似重力は体感で0.6から0.7psgと推定する。
「飛び降りても怪我はしないだろ」
ひと思いにロックを外し、体を空中に投げ出した。心地よい浮遊感と共に、地面が次第に迫ってくる。
着地の衝撃と同時に、ザバッと音をたて飛沫が上がった。
「水分っ?」
落ちた先は大量の液体状の水が流れる通路だったらしい。くるぶしあたりまでの深さだ。
普段、飲み水から排尿まで全ての水分は厳格に管理されている。エリアによって機械制御や資源管理が異なるとは聞いていたが、これほど潤沢な水資源がマザー内部にあったとは驚きだ。
「あるところには、あるもんだ」
独りごちながらも、周囲に充満する殺気に態勢を整える。
目の前に細長い戦闘用ナイフを持った男が二人。そしてその奥に、腕組みをした男が一人立っていた。
3人とも突然の俺の登場に驚いているようだが、その姿勢に浮き足立った形跡は見えない。動揺をすぐさま沈めて注意深く観察する眼と、低く重心を落とした立ち方が、男たちの荒んだ生活を物語っていた。日々、殺伐とした暮らしをしているのだろう、彼らの立ち姿には人を圧するような貫禄が見える。
「な、なんだ、お前は?」
強面の男たちに対して、あまり貫禄を感じない声が背後からした。声から女だとわかる。どうやらこの三人の獲物らしい。俺はその狩場のど真ん中に落ちてきたわけだ。
「俺は……、」
三人を視界から外さぬよう注意しながら、素早く後方に視線を流す。やはり若い娘だった。手で抑えた肩に血が少し滲んでいる。身なりからして、さほど裕福そうには見えないが、どちらにしろ俺には関係ないことだ。
「ただの通りすがりだ。どちらかに味方するつもりもない」
慎重に言葉を選びながら、わずかに足幅を修正する。通路を流れる水が、足を掬うように当たる。一番奥の男が少し笑ったように見えた。
「すぐにここを立ち去る。それで良いか」
言葉をつづけた俺に、
「おい、この状況で、あたしを見捨てて行くってのか?!」
娘が抗議の声を上げる。しかし移民同士のトラブルに付き合う理由はない。まして今回は騒動を極力避けたいのだ。
もう一度娘を振り返って首を横にふると、右方向にある一段高い場所へ歩を進めた。まだ幼さの残る顔が悲痛に歪む。少し心が痛んだが、大した武器もない状況で、この男たちの相手をしたくはなかった。
「おい、勝手に立ち入ってきて、すぐにサヨナラはないだろう」
右の男が、俺の行手を邪魔するように立ちはだかった。