アフタヌーンティーを一緒に
製菓部に所属している私はお菓子を、紅茶愛好会に所属している彼女は紅茶を。毎週火曜日と金曜日の放課後に、中庭に二つあるガゼボの一つにそれらを持ち寄ってアフタヌーンティーを楽しむ。
私達の間でこれが定着したのは英国にアフタヌーンティーの文化が確立された頃よりもずっと後、今日から数えて半年前のこと。
マンモス校の放課後にガゼボが空いているのは奇跡に近くて、それを発見した次の日には今と同じようにここで彼女の淹れた紅茶を飲んでいた。
「……紅茶を飲むのにお茶請けが和菓子って変だったかな」
「そう?」
今まではクッキーやマドレーヌなどの如何にも紅茶に合いますって感じの洋菓子ばかりを選んで作ってきていたのだけれど、そろそろレパートリーが一巡しそうだったので部長に相談してみたら和菓子なんてどうかと提案されたのだ。
確かに今まで和菓子なんて一度も持って行っていないなと。紅茶といえば洋菓子、そんな固定観念に囚われていた私は早速昨日のうちに栗羊羹を作って、持ち寄ったのである。
あの時は斬新で良いじゃないかと意気込んでいたがいざ目の前に紅茶の入ったカップを出されると場違いなのではと尻込んでしまう。
「全然変じゃないわ。私餡子好きよ」
そう微笑むと私の用意した栗羊羹を一切れ、黒文字に刺して口へ運んだ。こうしてお菓子を口に運ぶ仕草一つとっても綺麗で品がある。
「美味しいっ。やっぱりアオイの作るお菓子にハズレなんてないわ」
「流石にそれは言いすぎだって」
でも我ながら良い出来である。やはり部長に相談して正解だった。
早速私も彼女の淹れてくれた紅茶を一口。製菓部に所属していて、毎週お茶会をしているにも関わらず私は紅茶の種類に疎い。覚えようとしたこともあるけど彼女にそんな事はしなくていいと咎められ、結局紅茶に関して何も分からないままである。
「……今日の、何かいつもと違う? 違ったらごめんだけど」
本当に紅茶の種類や細かい違いなんて分からないけど毎週飲んていると今までと違うことくらいは分かる。一応製菓部に所属しているので、舌には自信があったりする。
「そうなのっ。今日の茶葉は私がブレンドしてみたものだから少し心配だったのだけど、どうかしら?」
「自分で! 凄い! いつものも美味しいけど今日のはちょっと美味しい!」
「口に合ったみたいで良かったわ」
彼女の淹れてくれた紅茶の効果なのかお腹の中からほかほかと温まって気持ちが落ち浮いている。今なら素直に言葉に出来る気がした。
「……実はね。真希さんとこうしてお茶会をするようになるまでは紅茶って苦手だったんだ」
「そうだったの? でも、どうして?」
彼女は徐にカップを置いて不思議そうに首をかしげる。
「こういうお茶会って紅茶の種類とか私、味の細かい違いとか分からないし……」
きっと彼女と出会わなければ今も紅茶とは縁遠い生活を送っていただろう。
「うふふ、そんなこと気にしてたのね……前にも言ったでしょう? アオイはそんなこと気にしなくていいの。そういうのは好きな人たちで語り合えばいいわ」
「本当にそれでいいのかな」
半年も飲ませてもらっていて何も分からないままだなんて、失礼じゃないだろうか。
「私がいいって言ったらいいの。それに私だってアオイが作ってくれるお菓子の種類とか細かい味の違いとか全然分からないもの!」
お菓子と紅茶は違うと思うけど、確かに私もお菓子の種類や作った際のこだわりを彼女に話したことなんてないし、そんなこと彼女に理解してほしいわけじゃない。ただ美味しいって言って食べてくれればそれで。
「私はただ真希さんの紅茶に釣り合うようなものを作りたいだけで……」
「私も同じよ。アオイが作ってくれたお菓子に釣り合うような紅茶を淹れたいだけ」
そう言って晴れやかに笑う真希さん。
「それで十分じゃない?」
「フフッ。それもそうだね」
つられるように私も笑った。