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にぎやかになった毎日

 翌日の午後。

 階段に差しこむぬくぬくとした日だまりに、一匹のネコがやってきた。


「なーぉ」


 ついさっきまでは、昨日に引き続きフェアリスが来てくれていた。だけど、今日は午後から王宮に呼ばれていて多忙らしい。

「昨日は紹介できなかったのですが」と言うフェアリスの守護精霊、砂時計の精霊を紹介してもらうので精一杯。フェアリスは、慌ただしくも残念そうに、出かけてしまった。

 ちなみに、フェアリスの守護精霊である砂時計の精霊は、渋いイケオジだった。が、守護精霊というだけあって、彼もフェアリスと一緒に行ってしまった。


「わー……ネコちゃん」


 退屈な私は、ネコに構ってもらえないものか、としゃがみこむ。


「あれ、しっぽが二本……」

「新しい精霊が生まれてたなんて、知らなかったな」

「ネコが、喋った!」

「おれはネコの精霊だからな。初代学園長の愛猫にして守護精霊だった」


 ネコの精霊は、二本のしっぽを器用にたしたしと階段に打ちつけた。


「ここに座れ。階段の精霊」

「はい」


 素直に座ると、ネコの精霊がぴょんと私の膝に乗った。


「ふむ、お前の膝(ここ)も悪くない」

「んん〜〜〜」


 私も至福です。ぽかぽかした日差しに、もふっとした温かな重みが。なんというwin-winの関係!


「特別にフェアリスに言われたから、しかたなく来てやったぞ」

「フェアリスが頼んでくれたんですね」


 フェアリスはなんていい子だろう。しかも昨日の今日で仕事が速い。できる子だ。


「オレサマ、大講堂には二度と入らないつもりだったんだが。大講堂入口の初代学園長の像が、どうにも気に入らんからなっ!」

「なるほど」


 初代学園長の像とやらは、階段からちょうど死角で見えない。

 ネコの精霊は、ふんと鼻を鳴らした。


 あんなものは初代とさっぱり似ていない。それを五代目の学園長が勝手に建てて、だいたい初代の愛猫たるおれが一緒に並んでいないとはどういうことだ。あやつは初代のことを何もわかってないくせに知ったような顔をして……


 ひとしきり五代目の学園長を(けな)すと、おネコ様は満足したのか、私の膝の上であくびした。




 それから、ネコの精霊は毎日階段に来てくれるようになった。

 フェアリスも、予定がない日はいつも来てくれる。ただ、ネコの精霊は砂時計の精霊が怖いらしく、フェアリスがいるときには、だいたいどこかに行っている。


「砂時計の精霊は『俺が認めない男に(フェアリス)はやらん』って真顔で言う奴だ」と、おネコ様は言っていた。精霊になる前の性別を引き継いだネコの精霊(オス・♂)は、砂時計の精霊のお眼鏡にかなわないらしい。

「それに、奴は相当な実力者だ」とも言っていた。

 精霊は人で言う十代前半くらいの容姿からスタートして、年月を重ねるごとに容姿も加齢していくらしい。

 精霊になって生後一年の私が、十代前半の容姿。

 一度見せてもらったけど、精霊になって百年近いのネコの精霊でも、二十歳くらいの青年だ。

 イケオジの砂時計の精霊は、精霊になってから長い年月が経っていて、

「本気を出されたら、おれなんてひとたまりもない」そうだ。




 ネコの精霊は、知識不足の私にいろいろなことを教えてくれる。


 最近の人間は、地水火風の四大精霊をむやみにありがたがっていること。それ以外の精霊を軽視していること。ひどければ、いないものとされるときもあること。


 人間には「精霊の姿を見る」「精霊の声を聞く」「精霊と話す」力があるのに、「精霊と話す」力だけで精霊の能力を借りられるからと、昔のように精霊を見て聞いてくれる人間がほとんどいなくなってしまったこと。


 聖女とは、四大精霊に対して話す力を持っている者のこと。

 学園の聖女は、精霊を見る努力も聞く努力もしないこと。一方的に話す力ばかり使って、精霊を酷使すること。それが嫌で、学園や都から逃げる精霊が増えていること。


「ここの聖女なんて、命令ばかりで気に入らん」


 おネコ様はふんと鼻を鳴らした。


「ねぇ、でも、フェアリスは私のこと見つけてくれたよ?」

「おれの見立てでは、フェアリスにも聖女の資格がある」


 フェアリスは昔ながらの精霊の教えを守っていたためか、それとも天性なのか、どんな精霊の姿も見えているし、声も聞くことができる。だから、四大精霊と話すことも可能なはずだ、とネコの精霊は言った。


「ただ、フェアリスは精霊に命令するのを嫌ってるし、そもそも、あのカタブツの砂時計の精霊が、よその精霊(オトコ)と話すのを許さないだろ?とくに、あちこちフラフラしてる風の大精霊(♂)とか……」


 ちょうど窓からフェアリスがやって来るのが見えて、ネコの精霊は口をつぐむと、大急ぎで逃走した。


 強すぎる守護精霊(保護者)も、考えものらしい。

 私、女の子で良かった。

 砂時計の精霊に阻まれて、危うくフェアリスと友達になれないところだった。




 お喋りしに来てくれるフェアリスとは、例の王子と聖女の話をする。奴らの行いはいよいよ目に余る。


「王子のくせに、見る目がないにもほどがある!!!聖女も聖女だ!精霊たちが逃げ出すのも無理ないわ!!!」

「階段の精霊様がわたくし以上に怒ってくれるから、なんだか救われますわ」


 ちなみに、砂時計の精霊はいつも無言でキレている。本当は、自ら王子に鉄槌を下したいだろうに、フェアリスに止められて相当に怒りをためこんでいるようだ。怖い。

 キレてる砂時計の精霊には弱音や泣き言を吐きづらい雰囲気があるので、フェアリスが私のところで色々話したくなる気持ちはわかる。


 フェアリスは、他にも学園の話や好きなお菓子の話、懐かしい侯爵領の話もしてくれる。

 侯爵領にはたくさんの精霊がいて、精霊が見える人、精霊の声が聞こえる人もまだまだ残っているそうだ。


「私が階段から離れられるなら、侯爵領、一度行ってみたいなあ」

「ふふ、自慢の領地ですのよ!毎年、精霊祭があって……」


 ぼっちだった頃と比べて、急ににぎやかになった毎日を私は謳歌していた。




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