プロローグ
前世は人間だった私、階段に転生するとは思ってもみなかった!
正しくは、階段の精霊に転生した、みたいだけど。
私がこの場所で一番最初に気がついたとき、聞こえてきたのは、
「来年で、創立百年になりますなあ」
「周年祭は、ここで行うのだろう?」
「ええもちろん。この大講堂は我が学園の創立当初に建てられ、以来ずっと共にありましたからなあ」
という会話だった。
ここがどこなのか自分が誰なのか、さっぱりわからない状態。
なにか話しながら遠ざかっていく人影に尋ねてみようと、あとを追おうとして、私は一番下の階段から先に行けないことに気がついた。
わけがわからないままウロウロしてみて、一番上の階段から先に行けないことにも気がついた。
どうしたものかと思案しながら、階段を昇ったり、降りていったりする人たちに声をかけてみて。
私の声が聞こえていない、私が見えていない、ということにも気がついた。
そうしているうちに、うっかりさんの学生が手鏡を落としていって――階段の中央には分厚い絨毯が敷いてあるので、鏡もうっかり落としたくらいでは割れない――運良く自分の姿を見る機会を得た。
白い大理石模様の髪色の、半透明の人型。
それが、私の姿。
あまりにも、白い大理石の階段を彷彿――というか、もはやそのものすぎて、認めるしかなかった。
あー……これは階段だ。
今世は私、階段なんだ……と。
うすうす、そんな気はしていた。
でも。
うーん階段の精霊かなー、百歩譲っても許せるのは階段のツクモ神までだ。
階段の妖怪とか、階段の魔物だったらどうしよう。討伐されちゃったり?それはイヤだなー。
とくにすることもないので、日がな一日、そんなことを考えながら、通りすぎる学生や教師たちを眺める毎日。
私、こと、階段があるこの場所は「学園の大講堂」内。
ここは前世より科学技術が発達していないらしいとか、貴族がいるらしいとか、王子がいるらしいとか、聖女が見つかったらしいとか。
階段を通り過ぎていく人たちからゆっくりと、でもだんだんと集まる情報に、ここはラノベか乙女ゲームかなにかの世界なのか?とすっかり疑い始めた頃。
転機がやってきた。