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【完結】名も無き魔女の、誰も不幸にさせない代行復讐〜断罪令嬢の取り替え契約物語〜  作者: いづかあい
第5章 二つの世界

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79 メロウとリヴィエルト


レスカーラ王国の周辺には、いくつか国がある。

ひとつ目は南方の森と湖を超えた先にある、南のレジュアン共和国。両国の交流として交換留学生も行っており、良好な関係を築いている。

そして、もう一つがローラン諸侯連合王国…二つの国を東西に二分するかのような、大きな河を挟んだ向こう岸にあり、西側に広がるグランヒル山脈の裏側が国境地点となる最も近く、最も関係性が複雑な国である。


【ローラン諸侯連合】と呼ばれている所以は、グランヒル山脈を越えた西側には大きな大陸が横たわる、14の国家の存在が大きい。

両国の関係は決して良好ではなく、レスカーラの主生産である『鉄鉱石』と『魔鉱石』をめぐり、近年小さな小競り合いのようなものが頻発しているのは周知の事実である。しかも数年前から君主であるローラン国王が病に伏して以降、後継をめぐる内乱のただなかとされていた。それがどうやら収束を迎え、新たな君主が誕生したという。


「同君連合?」

「はい。しばらく、後継戦争が起きていたようですが…」

「決着がついたのか?……ローランには、4人の王子がいたが」

「はい、次子のジョシュア王子でいらっしゃるようです、けど」


随分と歯切れの悪い補佐官のリキルに首をかしげる。


「次子?世襲制ではなかったか?」

「どうやら、法を改正し、世襲制を廃し、選挙制で君主を選んだようです」

「へえ…それはすごい。つまりは選帝侯、ということになるのか」


古くから、ローラン王国は世襲による同君連合の体制だった。

連合諸侯国家それぞれに王をおき、中央政府を立ち上げそれぞれの国がそれぞれの任務を全うする。しかしその構成では【世襲】という概念が国の発展を妨げる結果となり、争いが頻発した。


「だが‥それなら各国の反発も相当な物だったろうな」

「あの国は、表面こそ14の国を束ねた大国でありますが、決して一枚岩ではございません。続く内乱で必要以上に鉱石を採ったこともあり、グランヒル山脈の鉱石も安定した供給とは言えません。各諸侯の不満も高まっている様子…新たな君主はの船出は、孤立無援と言っても過言ではないでしょう」

「彼らにとっては、外の敵よりも中の敵の方が脅威なんだろう。背中の脅威を無くし、内側を抑えなければ国としての体裁が保てないだろうからな」


あちらが国賓という名目でこちらの国に訪れれば、内外に自身が新たな君主だと宣伝もできる。こちらとしては彼らをもてなさなければならないし、ジョシュア新君主だと容認する、つまり新君主を支持するということになる。

それは、互いにとって大きな意味を持つ。


(過去の文献を調べてみても、ローラン王国が国賓としてこの地の足を踏んだという記録は相当遡らないと前例がなかった)


「好機、というわけだ」

「その…本当に、今回の外交パートナーを、アリセレス様にお選びなるのですか?」

「そのつもりだが」

「婚約者候補の令嬢を支持する家門から反発が大きいでしょう」

「…最近は、母上が良く公務に精を出しているらしい。特に軍務のゴルドマン伯爵や、鉱脈の発掘権を所有する姻戚関係のメドソン公爵家とは、特に仲がよろしいらしいな」

「それは、確かに」

「対立するのは悪手ではあるが…、かといって助長させる理由もあるまい」


今、レスカーラ王国では二つの勢力がある。

先代国王・リヘイベンは、王としての功績は少なくはない。が、そのほとんどは王妃・アルミーダの影響が強いとされているのは、王宮内では周知の事実。

本当ならば、その基盤を受け継ぐべきは新国王リヴィエルトのはずが、アルミーダは自身の権力を更に貪欲に求めては、掴んで離さない。

反対に、民衆のためによる改革を進んで行い、それを実行している新国王陛下は民衆からの人気が高い。また、その改革を受け入れる貴族は多く、彼は自身で確固たる基盤を築き上げている。

結果、新国王派と王妃派と二つの勢力が絶妙なバランスを保っている。なればこそ、新たな力を得るのは意味がある。


「ロイセント家は外交の窓口を兼ねる要の一つ。その長子たるアリセレスが国賓を迎えるのは、あらゆる意味をもたらせる。それに彼女は博識だし、語学も堪能だ。適任だろう」

「はあ…」


(そうなんだよなあ。アリセレス様が陛下の隣に立てば、二派のバランスは決壊、色んな問題が解決してしまうという…)


キリルは大きなため息を出す。


「…頑張ってください!陛下!!」

「ん?あ、ああ…」

「失礼します、リヴィエルト様」

「どうした?」

「陛下、その、クライス令嬢がお目通りを願っているようですが」

「メロウ・クライス?…こちらに連れてきてくれ」


(メロウ・クライス…彼女に関してはあまり良くない噂を聞く)


ニカレアに、エミリア。かつて婚約者候補として挙がっていた二人に、気をつけろ、と忠告されているのだ。

例のラベンダーの件で、彼女の立場は少し微妙である。王妃殿下の茶会での一連の出来事は、既に王宮内外ですっかり有名な事案となっている。実際のところ、メロウはクライス家の婚外子であるし、初めから快く思わないものも複数あり…彼女の評価は高くない。


「失礼いたします。陛下」

「ああ。あまり時間は取れないが」


そう言って、執務の手を止めないリヴィエルトに、メロウは少し眉を顰める。


「この度はお忙しい中お時間をくださり、誠にありがとうございます」

「いや。それで?」


(ふーん…見向きもしないのね。()()()でもそうだったものね、ま、今更驚かないけど)


「この度、父と母と話した結果、婚約者候補として辞退させていただきたく、参上しました」

「そう…それは、君の独断か?クライス令嬢」

「…はい」


それでも手を止めないリヴィエルトに、メロウは少しいら立つ。そのまま立ち上がり、リヴィエルトを見下ろすように執務机の前に立つ。


「!!」

「キリル、いいから…それで、理由を聞いても?」」


たまりかねたリキルが飛び出しかねない勢いだったが、リヴィエルトはそれを左手で制した。執務の手が止まったのを確認し、メロウはにっこりとほほ笑んだ。


「僭越ながら…陛下は、彼女以外、私をはじめ、他の二人に全く興味を示さないではありませんか」

「そうだね。でも、それはあなた方が()()()()分かっていたことではないか?」

「!」

「私とて、全員を平等に接していたし、特別扱いはしていない。違うか?」

「ええ、彼女だけ、特別…ですものね。」


どこか敵意にも似たメロウの表情を見、そのまま元の席に座るよう促す。


「そう…特別。あなた方、婚約者候補という立場の人間をわざわざ造ったのも、彼女との【賭け】の為。あとは…まあ、周りの雑音が煩かった…それ以上でもそれ以下でもない」

「……」


あまりにも冷徹にそう切り捨てられ、メロウは思わず唇をかんだ。

リヴィエルトにとってのメロウ・クライスは、実は一番選んではいけない【候補者】であり、最も【辞退】を歓迎する相手なのである。


「よって、私は君の辞退を止めるつもりはないよ」

「……本当、嫌な男」

「何?」

「わかりました。それでは、準備が整い次第立ち去りますわ」

「ああ。…アウローラ宮にもそう伝達しておく」

「……失礼いたします。陛下、一つ聞いても?」

「どうぞ」

「もし、彼女が陛下の申し出をどうしても、とお断りした場合…どうされるおつもりですか?」


メロウは、ある答えを期待していた。


「彼女の心を砕くまで、諦めない」

「‥‥!!」

「さあ、…そろそろ私の仕事も、これ以上の遅延は避けたい」

「失礼、致しました…」


バタン、と閉じた扉の取っ手を持つ手が震える。


(バカにして…馬鹿にして!!!あの男は…いつも、そう!)


過去、リヴィエルトはメロウの()()だった。

かつて姉が愛し、姉を愛した男が自分に跪く姿があまりに滑稽で、自身の自己肯定感が満たされていく感じがした。

しかし姉の処刑後以降、まるで手のひらを返したように彼は遠ざかり、二度とその手に戻ってくることなはなかった。

もしこれで、リヴィエルトが権力を行使して無理やりアリセレスを手に入れるのであれば、それは後に二人の不幸を意味することとなる。メロウが知る頃の彼ならば、きっとそうしていただろう。


「変わったって?…私の知る頃の彼じゃない?笑わせないで、そんなのずるい…私が、どんな思いで」


だが、そうじゃなかった。その事実は、メロウにとって、屈辱意外の何物でもない。


(あの魔女のせい?…お姉さまのみならず、私の物まで奪っていくなんて…許せない!)


「怖い顔、していますね」

「!」


ふと、聞こえた声に驚いて顔を上げる。いつの間にか目の前にいたのは、燃えるような赤い髪の青年だった。白いマントに、見たことのない白い詰襟の制服を着用している。


「誰…?」

(見たことのない顔…あちらでも、こんな綺麗な顔の人はいなかった)


いぶかし気に見詰めると、彼はグレーの瞳を細め、にこやかにほほ笑む。


「私の名前は、ジークフリド・オルセイ。…どうされたのですか?美しいレディ」

「……お構いなく」


一礼してくるりと背を向けると、なぜか追ってきた。そして、前に立ち、手を差し伸べる。


「良ければ、外庭までエスコートを」

「結構です」


そのままするりと横切ると、つれないなあ、という声が背中に投げかけられた。


(見ない制服…二匹の蛇に、円の紋章?もしかして、あれが)


ここ最近、王宮内である噂が流れていた。それは、新設される【対ファントム部隊】である。

王妃殿下が先導して、昨今における降霊術やら、オカルティズムに準ずる事件の専門機関を立ち上げるという。


(あちらよりも、こちらの方が王妃様の権力が強い。…最も、先王が早々に狂死したからかもしれないけれど、リヴィエルトよりも影響力が強いなんて)


「ふうん…」


口元に笑みを浮かべたメロウは、再び振り返り、先ほどのジークフリドの元へ歩み寄る。


「!レディ」

「ジークフリド、様?申し訳ありません、見ない方でしたので、つい警戒してしまいましたわ」

「いいえ。…()()()()()()はまだ先です。驚きになるのも無理はない」


メロウはすっと手を差し出す。


「私の名前は、メロウ・クライスと申します。…外庭まで、エスコートしてくださるのでしょう?」

「ええ。喜んで‥‥メロウ様」



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