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【完結】名も無き魔女の、誰も不幸にさせない代行復讐〜断罪令嬢の取り替え契約物語〜  作者: いづかあい
第4章 君たちが知らない世界

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60 薄紫の罠


さて、『糾弾』という行為は他者を非難し、罪や責任を問いただすこと。

このメロウとエミリアが引き起こしたこの事件だって、うまくことが運べば、このアリセレスをその標的にして追い詰めることも不可能ではないのだが…冷静に見ると、実はいくらでも覆せる。


(かつてのアリセレスは、まんまとメロウの手の内で踊らされてしまったわけだが…今回は違う)


まず、エミリアが標的(アリセレス)を『犯人だ』とわめきたてる。すると、その標的に対してネガティヴな印象を持つ者は、その者に対して疑念を持つ。

慌てて医者を呼びに行っていったメイド達を見送り、エミリアの傍にしゃがみ込むと、案の定、わらわを煙たがっているサリア・メドソンがメロウに()調()するそぶりを見せた。


「ちょっと、動かないで、ロイセント令嬢?…あなた、今の自分の立場をわかっている?」


やっぱり、わかりやすく悪そうな顔でこちらを見下ろしている。

こいつは、この茶番劇に乗っかった方…だとしたら、メロウとエミリアが結託して行った決死の茶番劇、ということか。

今の状況では、わらわが毒を盛ったという証拠はないが、同時に、毒を盛っていない証拠もない。ただ、苦しんでいるエミリアの発言と、あからさまに転がっている毒の瓶やらだけで立派な状況証拠、ということになるだろう。…まさか、この二人が仕組んだ、などと思うまい。

基本的に、複数人の中で標的が決まり、こういう事象が起きた時…およそ三つのグループに分けられる。


①標的を攻撃する者

②標的を援護する者

③どちらにするか決めかねている、または、様子を見て自身の都合にとって良い方を選ぶ者


厄介なのが③の沈黙を守る者達。わらわが『標的』ならば、彼らをこちらになびかせる手を打たねばならない。‥この場合は、王妃様とゴルトマン令嬢か。


「ええ、勿論。…私のすべきは、目の前に苦しんでいる女性を介抱することです」

「介抱?って」

「…私は、治癒の魔法を使うことができます」

「え?」

「!!なんですって?」


メロウが目を見開いて驚いている。

これは、予想しなかったか。ならばついでにダメ押しの一つでもして見せようか。


「それと…クライス令嬢のおっしゃる通り、私はこう見えて薬学に精通しております。なので、もし私が毒を盛るとしたら…もっと繊細な即効性の毒物を使用します」

「え?!そ、即効?」

「ええ。中途半端に苦しめては、粗が目立つでしょう?誰にも知られぬよう本気で命を狙うのなら、今のように苦しむような隙を与えず、言葉を発する暇も与えません」

「……な、なんて恐ろしい」


あ、引いてる引いてる。温室育ちのお嬢様型には刺激が強すぎたか?しかし本気で命を狙うならそれくらいは当然だろう。


(やり方が生ぬるい…まあ、10代のお嬢さん達だからなあ)


「あとは無味無臭、わざわざ小瓶のような道具を使う、などという愚行は致しませんわね。やるなら徹底的に緻密に、計算して…誰にも気づかれずに、ひっそりと遂行します」

「てってい…」


予想として、この青い顔をしているゴルトマン令嬢は、相手の強さを本能的に察する能力に長けていると思う。動物的カンというか、危機察知能力があるというか…、まあ、いわゆる脳筋タイプにありがちだ。


「お判りでしょう?今の状況…あまりにも幼稚で滑稽で、呆れてしまいます」

「おっしゃる通りです。しかもその小道具を持ち歩き、更には人前に晒すなど、まるで自分が犯人です、と言わんばかり…おかしなことですわ」


そう、かつてのアリセレスと最も異なるところは、わらわにはニカレアという強力な味方がいるということだろう。


「確かに…まるで誰かが意図的に仕組んだみたい」

「…それは」


お、ニカレアの援護でメドソン令嬢が空気を読んだらしい。

メロウからすれば、同調する他人がいるからうまくいく、と思ったのかもしれないけれど。


「直前の令嬢の発言があるにしても、こんなに分かりやすい寸劇に踊らされるなんて…皆さま、もっと優れた思考力をお持ちだと思っていましたわ」


証拠も不十分な状況で妄言を信じる程、皆のメロウに対する好感度が高いわけではないのだろう。

言いながら、意識は倒れているエミリアに集中させる。

治癒魔法は、基本的に身体の全ての細胞を活性化させることができる。原因そのものを消すことができないが、治療を促進させることができる魔法である。

元の病は治せないが、痛みを和らげたり、外傷や、原因のある症状に対処ができる。ただ、このエミリアの症状を見る限り…毒というよりも。


(…手足の痙攣、息苦しさ。となると何かのアレルギー反応?)


徐々に顔色が良くなり、呼吸も落ち着いてくる。

確か、エミリアは元々身体が弱く、常時薬を服用していると聞いていた。原因はそれか?それとも…

そうこうしている内に、王宮の医師がやってきた。もう大丈夫だろう…さて、そうなると。

突如パン、パンと手のひらをたたく音に、全員の意識が集中する。


「ふふ…これではもう、お茶会は中止にしなければなりませんわ」

「お、王妃様」

「メロウさん」

「!は、はい」

「あまり軽率な発言は控えた方がよろしくてよ?…ここには、あなたよりも位の高い貴族ばかり。分をわきまえなさい」

「もう…しわけ、ありません でした」


うなだれるメロウとは対照的に、王妃様はふわりとほほ笑んだ。


「…エミリア嬢も大丈夫そうね。きっと、突然の発作で錯乱してしまったのでしょう。…さあ、今日はもうお開きにしましょう」


サリアを筆頭に、皆それぞれ恭しく礼をして下がっていく。しめしめ、とわらわもそれに倣おうとしたのだが。


「あ、あなたはまだダメ」

「え?」


引き止められてしまった…。

ニカレアは心配そうに一度振り返るが、軽く手を振り、見送った。


「ふふ、仕切り直しといたしましょう。…中々前座の芝居も悪くなかったわ」

「!…前座、ですか?」

「ええ。あなたも言っていたでしょう?幼稚で、滑稽な寸劇…だったかしら」

「……うふふ」


はい、言いました。

うーーん。つかめない方だ。もう仕方がないので、元居た席に座ろうとするが…王妃様はそれを制し、別の部屋へといざなった。


「本当は、あなたと二人きりでお話ししたかったのだけど…ちょうどよかったわ。あの子たちが勝手に暴走してくれて」

「暴走…ですか?」

「ええ。彼女たちが候補者である以上、私の立場では、あなただけを特別扱いできないもの」

「それは…」

「忘れてはいけないわよ、アリセレス・ロイセント。あの候補者たちは、あなたがリヴィエルトに持ち出した17歳までの賭けの駒に過ぎないのよ」

「………」


そう、リヴィエルトに17歳までに他の人を好きになれ、そう言ったのはわらわだ。彼女たちに対して胸が痛む、訳でもないが…そう考えると、少しへこんでしまう。


(あと、半年…)


覚悟がどうとか、そういう問題ではない。

そうなることで、前世のアリセレスの状況に近づきつつある、その事実が問題なのだ。そしてやってきたのは…離宮の奥にあるプライヴェート・サロン。


「ここは私が普段から使う特別なサロンなの。本当にごく限られた者にしか連れてこない場所よ」

「…ラベンダーがお好きなのですね」


薄い紫色が基調の部屋に入ると、大きな花瓶にラベンダーのドライフラワーが飾ってあった。それを見た時ふと、先ほどの件を思い出した。


「王妃様は…事前に、何が起こるか予想していたのでしょうか?」

「なんのこと?」

「先ほどのエミリア嬢の件…動揺しているご様子ではなかったので」


単にトラブル慣れしているのかと思っていたが、どこか違和感があった。


「エミリア嬢が私に放った瓶から、微かにラベンダーの香りがしました。あの瓶は恐らく一般的に香油に使っているものと同じ形のもの。最近貴族の間では、王妃様に倣ってラベンダーの香油をつけるのが流行だとか。ならば、香水を少量でも口に含めばアレルギーの発作を起こす可能性もなくはない…」

「それと、私がどう関係しているのかしら」

「それは…」


ラベンダーと一口に行っても、複数種類がある。

香油などによく使用されているのは、原種…『トゥルー・ラベンダー』というもので、麦の穂のような紫色の花を咲かせるもの。そのほか、交雑種など様々あるが、中でも一つ、特殊なラベンダーがある。それが、『ラバンドラ・ストエカス』。

花の穂先に羽のような花びらが付いているのが特徴だが、低毒性が確認され元来あまりお茶として飲用されていない。常人には影響はないが、普段から薬を服用している人間にはアレルギーショックが起きる可能性が高い。


(微かに、ストエカス特有の苦みと薫りを感じた。それに、ラベンダー・ティ―は他の茶葉と混ぜて飲む方が多いのに、今回出されたのは、混ざり気のないハーブ・ティーだった)


エミリア嬢の身体の弱さは有名だ。それを知っていたうえであれを出したのなら?まあ、結果としてそれが要因ではなかったが…王妃様は彼女たちの行為を『暴走』と言った。まるで、最初から知っていたかのように。

次の言葉を紡げずにいると、王妃様は小さく笑った。


「私は、賢い人が好き。力の強いもの、芯の通った人…でも、薬に頼らなければ生きられない令嬢に用はない」

「……それは、あまりにも」

「だから、数日前彼女に忠告したの。…今のままでは、あなたは候補者ではいられない。最有力なのはロイセント令嬢、彼女に何かあれば別だけれど、って」

「!」


それで、ここに来た時エミリアはものすごい形相でこちらを見ていたのか。そして、アリセレス・ロイセントがどう対処するかどうか、この王妃様はその様子を楽し気に観察していたわけだ。


(悪趣味…)


「まさか、今日、あんな行動に出るなんて思いもよらなかったけれど…クライス令嬢も、あなたに対して思うところがあるみたいだし、便乗してしまったのかしらね?」

「…王妃様は、何がお望みなのですか?」

「あなたに興味があるって言ったでしょう?魔力、知識、能力、容姿、すべてを兼ね備えている、…そして、私の最高傑作、リヴィエルトもあなたを望んでいるもの」


最高傑作。

その言葉に、ぞっとした。


「私の国、私の世界。私の血で作ったこの王国…完全なるものによる完全な支配、完璧な世界。その調和を造り上げるのが、私の夢なのよアリス」

「完全なる世界…」


ふと、急に過去の魔女の頃の記憶が蘇る。

わらわはこれと同じフレーズをかつて聞いたことがある。かつての同胞…つまり、ある『魔女』の言葉だった。



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