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57 冬になる前に


「よいしょっと…嬉しいな。三か月振りの里帰りだわ」


先輩メイドから譲ってもらったトランクには、詰めれるだけのお土産を包んだ。今回許された期間は4日間。メイドのサーリャの家はこの王都にある。冬になる前にと、いただいた4日間の休暇は十分すぎるくらいだった。


「奥様の出産を考えるとそれでも十分すぎる期間よね…よし。着替えも入れたし、お土産も…」

「あら、今日から帰るの?」

「はい!」


やってきたのは、このトランクをくれた先輩メイドのシンシアである。


「気を付けてね、今巷じゃ例の事件の噂で持ち切りだから…」

「夜は出歩きませんし、大丈夫ですよ」

「そうね、じゃあ気を付けて」

「はーい!」


このロイセント家の屋敷は、主都よりも少し離れた場所にある。

見渡す限りの広大な領地を持つ公爵家は、そのお邸の規模も大きく、邸からしばらく馬車に揺られながらやっと、公道に出る。


「そうだ…アルフレドさんにもお土産を買っていこうっと。今日も…宣告の広場にいるかしら」


窓を少し開くと、冷たい風が吹き込んでくる。…もうすぐ、冬になる。


**


「複数の遺体…」

「そう…、また身元不明だけど…結構日にちが経過しているせいか損傷が激しくて」

「ちょっと待って…下水って、私達が普段使っている水道…ですよね」

「いや…遺体があったのは、旧下水の方。今はほとんど使われていない区域だ」


ふと、思う。

どうしてこのヘルソンは、当然のように最高機密をべらべらとしゃべっているのだろう?と。


(勿論、興味がないわけではないしても…)


「あのー…どうして、私にその話を」

「いや、…君は洞察力があるし、俺たちがない魔法の知識もある。それに、この話を聞いて誰かに喋るようにも見えないし」

「つまり、利用できるならしておこう、と?」

「そ、そうは言っていない!参考までに、参考として聞いているんだ!」

「……これで見事犯人を捕まえて出世したら、私に感謝してくださいませ、ヘルソン」

「む、無論だ」


(ならば、こちらも利用させてもらうとしようか)


次に何か事件に巻き込まれたら、またこいつを使わせていただこう、そう心に決めた。


「見つかったのは、左手が二つと右手が一つ…そのほか、片腕のない下着姿の遺体と、腐乱した首のない遺体だった。ただ、どれも切り口が雑で、今までのような大きな刃物で一刀両断したような断面ではなかったらしい」

「…なら、それはいわゆる試し切り、というものでは?」

「本番に備えて、ということか?」

「失敗、したくないのでしょう。今までの女性たちは皆さん綺麗な状態で宣告の広場を向いていたとか…ならば、それは特別なもので、適当にできる作業ではないのでは?」


確実に、しっかりと。奴はそれを儀式のように実行して遺体を飾り立てるのだろう。


「それは…誰かも言っていたな。完璧主義で、整理された殺人、だと」

「新聞を拝見させていただきました。今までの被害者は、皆さん元貴族の娼婦やいわゆる春を売るお姉さまだとか。…ちなみに箱に入った髪は?」

「それが…どれも今まで公にされてきた女性ではない、全くの別人の髪だったらしい。それに、金色じゃなくて、茶色とか赤毛とか…だったらしい」

「へえ…でも箱に入れてあったということは…大事な物なんでしょうか」

「それはわからない…けど、あの…お嬢様」

「何か?」

「その…降霊術、みたいなことも、できるのか?」

「は?」


警部だろ?お前。

その言葉を飲み込み、じっとヘルソンを見た。


「都合のいい時だけ、それを信じるとは…」

「そ、そうじゃなくて…一応できるのかなって。たまにいるんだ、自分は降霊術で被害者と話をした、みたいなタレコミが」

「…まあ、私の()()()()()で言うなら、不可能ではありません」

「そ、そうなのか?」

「けれど…それが事件解決のきっかけになるとは思えません」

「なぜ?」

「彼らだって元は人間…突然訳も分からず殺されて、正気でいられるとお思いですか?…被害者の女性は皆、自身のおかれた立場も状態も理解できずにその場に留まり続けることでしょう。とても、話せる状況ではないかと」

「そうか…」


今まで見てきた亡霊たちも、何年たってもその時間は止まったままだった。

彼らはそれ()を認識するまで相当な時間を要する。気づかぬうちに時間だけは過ぎ、やがて忘れ去られる。…そうやって、天に還れず地をさ迷う者はたくさんいる。

だからこそ、魔女や賢者と言った者達がこの地上にいるわけなのだが。


「参考になった…ありがとうお嬢様。今日はこれで失礼するよ」

「あ、でも…」

「うん?」

「現場に行けば…彼女たちの最期に見たものを追体験できるかも」

「!!」


ぐるん、とヘルソンの顔がこちらを向く。


「そ、そそれは本当か?!」

「まあ…でも、あまりお勧めはできな」

「どうやるんだ?!」


うーん、言わなければよかったかもしれん。

いや、すっとぼけたほうがマシかも。このまま素知らぬ顔をしようとしたのだが。


「もしかして…あの子か?!」

「え」

「ドロレス嬢ちゃん…あの子は、彼らと話す力があるんだろう?」

「…そ、それは でも!」


しまった、こいつやはり侮れない。


「追体験は…あの子にも同じ思いを体験させるということ…!!それはあまりに酷です!まさか年端もいかない少女に、殺された女性たちの想いを体験させろというのですか!」

「う…それは」

「お嬢様、失礼します」

「あ、うん、なに?今は来客中だけど…」


すると、タイミングよくドアをノックする音が聞こえる。…この声は、レナ?扉を開けるように促すと、どこか焦ったような表情のレナと目があった。


「…??どうかし」

「お嬢様…そろそろ、準備しませんと」

「準備って…何?」

「ああ、やはりお忘れですね…」

「え?」


するとレナの後ろにいた、母上と目が合う。

ゆったりとしたマタニティドレスをまとっているが、顔色は悪くない。それを見てほっとしたのもつかの間…まさかの宣告をされた。


「そろそろご準備なさい」

「…準備?一体何の」


すると‥母上がさっと出したのは、赤い封筒。…王家の紋章の蝋が押された招待状だった。

それを見て…ぎし、と表情が固まる。


「!!!!」

(わ、忘れていた―――!!!)

「思い出したわね…全く。さ、あとはお願いね。レナ、シンシア」

「はーーい!」

「え あちょ ら、来客が」

「申し訳ありません、紳士殿」

「え?!!!は、はい!!」


背後で母の怒気をわずかに含んだ声が響く。

ああ、すまん、ヘルソン。続きはまたの機会で!



「お嬢様。失礼いたします」

「ひ、ひぁい!?」

「本日は、王妃様の茶会の日でございます!!もう本ッとうに用意しませんと!」

「え、もうこんな時間?!ど どうしよ」

「どうしよーも、こーしよーもありません!!メイド全員出動!!です!!!」





「まあ!アリス…あら?」

「…ごきげんよう、ニカ…」

「ど、どうされたの?!顔色はよくありませんわ」

「いや…こういう格好は久々すぎて」


そう、王妃の茶会となれば、とメイド達は張り切ってくれた。結果…いつもは身に着けないコルセットでウェストはギシギシ、もう冬なんだからもっと厚着でいいのに、と苦言を申し立てても黙殺され、肌は辛うじて隠れる薄さで足元はスカスカ、断行して持ってきたアニマルファーの肩掛けのみ、それが今現在わらわに許された装備である。


「あ―ら、随分と可愛らしいファーです事!」


やってきたのは…ご存じリヴィエルトの婚約者候補の一人、ゴルトマン令嬢だ。彼女もファーのベストを着用しているのだが、なぜだろう?暑苦しい肌と太めの身体のせいか、その姿はまさに狩人のようで…また肥えた、か?まあ冬は皮下脂肪を蓄えないと寒いしな…


「はあ、ゴルトマン令嬢は…全身内側から外側まで、暖かそうで…羨ましいですわ」

「ほーっほっほほ!!それほどでもなくってよ!」


本当、この女性がリヴィエルトの妻になったとしたら、奴が大変そうだ。どこか憐れみを含んだ瞳で見てしまうが、その意味さえ気づかずゴルトマン令嬢は鼻息荒く、その場を去っていった。


「相変わらずですわね、ゴルトマン令嬢」

「…いや、あそこまでわかりやすいと、逆に愛着がわいてくるよ」

「愛着、ねえ」


ニカレアは冷めた目でため息をつく。


「それより…ニカは大丈夫?」

「私は大丈夫よアリス。…先日はどこか夢みたいで、ちょっと楽しかったし、それに…」

「それに?」

「家から出て、誰の庇護もない場所に行って…なんだか、色々と勉強できた気がする」

「勉強?」

「ええ。…実はね、私、西部地区に学校を建てたいと思っているの」

「へえ!いいな、ソレ。でも…大変そうだ」

「うん。…お父様に話しても、難しいだろうってそういうけれど、きっとやり遂げて見せるわ」


ぐっと握りこぶしを前に突き出し、ニカレアはからりと笑って見せた。


「仲がいいな、二人とも」

「!リヴィエルト様」


やってきたのは…相変わらずのオーラを放つ若き国王陛下…リヴィエルトその人である。

そう言えば、今日の茶会は王妃様の主催と聞く。ならば、その息子である彼が登場するのも不思議な話ではないのだろう。


(そう言えば…この間以来、だな。リヴィエルトと会うのも)

「!そのネックレス」

「え?…ああ」


そう言えば、今日はドレスの色に会うから、と例のアミュレットのペンダントを身に着けてきたのだ。すると、なんともない仕草で、彼はそれを手に取り、口づけた。


「?!」

「……!」

「嬉しいよ、身に着けてくれているなんて」


こいつは…本当に、無意識なのか、わざとなのか?なぜかわらわよりもニカの方が赤面している…

照れくさいようななんだか複雑な気分でどう反応していい物か迷っていると、背後から強烈な視線を感じた。


「じゃあ、またあとで」

「え…あ」


さっとマントを翻し去っていくリヴィエルト…こ奴、逃げたな?

だって向こうからどすどすと力強い足取りで、やってきたのはタレ目令嬢メドソンだった。


「あ~らあ、ご機嫌麗しゅう、アンノーブル・レディロイセント!!」

「……」


うわあ、久しぶりに聞いたな、そのフレーズ…。

わらわはこっそりため息をついた。


少し、間が開いてしまいました…精進します、読んでいただいてありがとうございました。

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