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15 『不器用』の見本


「おめでとう!!」

「おめでとうございます!!」


大きなリボンのドレスを着た少女たちが花びらをまき散らしていく。華やかなフラワーシャワーが空を舞い、たくさんの友人が見守っている。

若くして伯爵家を継いだルジェーロ・フォン・クライスは、仕事に追われいつの間にか適齢期を逃してしまったが、この度、ある女性と婚姻をすることとなった。


「お父様!はい!」


長い黒髪を揺らしながら、にこにこと無邪気な笑顔で少女が駆け寄った。手には大きなフラワークラウン。結婚をする新郎と新婦に送られるブートニアに次ぐ、重要アイテムだ。


「はは、ありがとう、メロウ」

「うん!ほら、かがんで!」

「どれどれ…どうかな?アルティーナ」

「まあ、お似合いですわ、ルジェーロ」

「ああ、私は幸せだ。…こんな美しい妻と娘を同時に迎えいれることができるなんて」


メロウとアルティーナをぎゅっと抱きしめるルジェーロ。


「ええ…私も幸せよ、ね?お母さま!」

「本当に。まるで夢を見ているみたい」


そんな仲睦まじい様子を見て、友人がやってきた。


「こらこら、仲がいいのは知っているが、参列者を放っておくとは何事か?」

「リカルド!…今日はありがとう、忙しいのに来てもらって。奥さんも一緒かい?」

「いやあ…先日息子が生れたばかりで。今日は家でその子の世話をしているよ。娘は…ちょっと、怒らせてしまって」

「なんだか難しそうだな…今度、娘との付き合い方を教えてほしい」

「娘?…ああ、そうか、この子が」


リカルドは、ルジェーロの後ろに隠れている黒髪の少女を見た。

おずおずと顔を出した少女は、ニッコリと笑って見せる。


「こんにちは、メロウです」

「へえ、…んー、うちの娘と同じくらいか…少し下か?いくつだい?」

「今年10歳になったばかりなの!」


パッと両手を掲げて10作る。


「ねえ、おじさんの娘さんは?」

「うちの娘は…アリセレスと言って、今年12歳になったばかりだよ」

「へえ…アリセレスっていうの…会ってみたいな」

「そうだなぁ。うちの娘は同年代の子供とあまり遊びたがらないから‥いい機会かもな」

「ほんと?ねえ、いいよね、お母様」

「…勿論。仲良くできるといいわね」

「うん!…会うの、とぉっても、楽しみだわ!」



**



「はあ…」

「あら、何かお悩み?アリス」

「お母さま…いいなあ、セイレムは健やかに遊んで、寝るのが仕事なのね」


食事を終え、すやすやと幸せそうに眠っている弟の頬をつん、とつつく。…ううむ、柔らかい。つつけば穴が開きそうな。


「アリスだって、まだ12歳よ?急いで大人にならなくていいの」

「子供のままじゃ、できないことの方が多いわ」

「…そういうところ、どうしてこんなに年寄じみているのかしら。夢と希望にあふれる年頃でしょうに」


そりゃ…元が元だし。なんて言えない。


「…母になるってすごいことね」

「うん?…どうしたの突然」

「ううん、だって、新しい命を造って育てるなんて、信じられない」

「アリスも大人になったらわかるわ…そんなこと言うなんて。好きな人でもいるの?」

「王子様の婚約者候補とか言われているのに?」

「…そうね」


あ、しまった。

少し意地の悪い言い方になった。母君も政略結婚でここに来たわけで…いい気分はしないかもしれない。


「アリス。…お父さんは違うこと言うかもしれないけど、私はあなたの味方をすることにするわ」

「…私の味方?」

「好きなことをなさい。…これからの世の中はどんどん変わっていく…きっと、お家同士の結婚なんて昔話みたいに言われる時代がきっと来るからね」

「うん、そうだね。…さしあたって、メガホンを使って商売を始めようと思うが、どうかな?」

「…もっと、子供らしいことを言って頂戴…」

「やっぱり早く大人になりたいな―――」


(早く、大人に。か)


あの日見たケンは、随分と大人びていた。

リヴィエルトと年齢も同じはずなのに、背も高くて髪も伸びて…、大人の男性って感じだった。それは、もしかしたら…母親、リリィとの別れがあったからだろうか?


「あいつ…無事かな」


本当はすぐにでも探したいけれど、わらわが動くのはあまり良くない気がする。

こういう時、本当に12歳とか中途半端な年齢で嫌になるな。


「ベルメリオ殿下も…」

「?!え?」

「色々大変だろうけど、力になってあげるのよ、アリス」

「…できる範囲で、だな」

「やっぱり、気になってるのね」

「…フン、だ。そう言えば、おとう様、帰ってこないね」

「うーん、友人の結婚式みたいだし。…そう言えば、あなたと似た年齢の連れ子がいるって聞いたわ、仲良くしてみたら?」


わらわと似た年齢の子供?

…なんだか、嫌な予感がする。


「…女の子?」

「そうみたい。ええと、名前は…」


たっぷりと間をおいて…わらわはその名前を久しぶりに聞いた。


「メロウさん、だったかしら?」

「…それなら、多分気が合わないと思う」

「そう??あってみないと」

「会わなくてもわかる」


そう、会わなくたって分かる。

結局、またアリセレスの前に現れるのか、メロウとその母親は。それが、運命という奴なんだろうな。


(12歳と言えば、過去ではメロウが足を怪我した年齢…)


だが、あの一連の原因だった銀色の花のネックレスは、いまは母君の胸に光っている。うん、やっぱり持ち主の元にあるほうが綺麗だ。


「何見てるの?アリス」

「…そのお花のネックレス、綺麗だなって思って」

「ああ、これはね。…実は、初めてリカルドに貰ったプレゼントなのよ」

「?!お父様が??…初めてって」

「婚約が決まったとき。…互いに政略結婚だったけど、今でも覚えてるわ。顔合わせの時にお近づきの徴にって。今思えば、もっと言いようがあったでしょうに…不器用な人なのねえ」

「お近づき…」


商談でもするつもりだったのか、父君よ。

そんな話をしていると、にわかに玄関先が騒がしくなってきた。窓を見ると、大きな馬車が停まっているのが見える。

あれはうちの馬車じゃない…となると。


「お父様、帰ってきた。ちょっと行ってくる」

「あ、アリス」


母君と一緒に座っていた長椅子から立ち上がると、小走り気味で父の元に向かう。実を言うと、おとといの一件から、父は何かを察したらしく、わらわを極端に避けていた。

…つまりは、後ろめたいことがあるということだ。


「あ、お嬢様!」

「ああ!いけません…!」


大きな階段を下りていくと、数人のメイドがわらわを発見し、青い顔してブロックしてくる。それをかき分けていくと、最後に当たったのは…執事のゼルメル。

ゼルメルは元々大柄で、小さいアリセレスにとっては壁級の邪魔者だ。


「どいて、ゼルメル!お父様!今日こそ私と…」

「お嬢様…今は」

「…ん?!」


ひょい、と身体を持ち上げられてしまった。


「ちょ、ちょっと?!なんでそんな…」

「あーーーアリス!」

「……は?」


なんだ今の、気の抜けた阿呆な声は。

思わずゼルメルを見ると、静かに首を振り、ため息をついた。


「旦那様は…実は」

「いいこにしてましたかぁ??ほら、こっちおーいで!」

「え?え?ええ?!わ!!」


そのまま、ゼルメルからわらわを強奪し、ネコナデ声?でほおずりしてくるこの人物は…


「お、おおお父様」

「さびしかったでちゅかーあ?かえってきましたよーう…ふふふ!」


ふふふじゃねえ!

ついそう叫びたくなるほど…この体たらくは、一体。思わず救いを求めるようにゼルメルを見ると、曖昧に笑った。


「アルコールにとてつもなく弱いのです…ああ、申し訳ありません。旦那様の名誉を守ることはできませんでした…」

「め、めいよ。あ…アルコールう?」

「ごめんよう、ありす~父さんはな、おまえにはしあわせになってもらいたいんだよぅ」


あ、そうか。結婚式となれば…そうなるような。

いや、それにしても…顔はだらしなく緩み、耳まで真っ赤。いつもの厳格な表情からは想像できないほどにこにこしているこの…言ってしまえば、上品そうなおっさんが。すりすりほおずりしてくるこの酒臭いおっさんが!!父君だと?!

なるほど、これが、ゼルメルが必死にブロックしていた理由か!


「お、お父様ーーはーなーして!」

「だれよりもしあわせで、おうこくいち!のだんなさんにぃ」


王国一の旦那さんって…まさか。もしかして、悪気はなかった、のか?


「…普段はここまで飲まないのにねえ」


すると、頭上からのんびりした母君の声が聞こえた。


「お母さま!!このひと、どーにかして!!」

「だから止めようと思ったのに…アリスったらさっさと行ってしまうんですもの。ほらほら、あなた、もう二児の父親なんだから、みっともないわ」

「うう…エマ…」

「エマ!?」

「こら、し!リカルド、しっ!」


エスメラルダの愛称…エマだったのか。

うわあ…5年前のあの冷え切った二人からは想像できない。単純に、素直になれなかった者同士のスレチガイが、過去の状況を作り出したのか?そう思うと感慨深いなあ。


(なんだか、馬鹿臭くなってきた…)


重圧やら何やらでがんじがらめになっていたのに、酒ではっちゃければマシでも、この様子じゃあ人前では飲めない。過去で見事公爵夫人の後妻の地位を射止めたあの()()は、そこをうまく利用した、ということなんだろう。

全く、不器用な父君らしい。


「お父様!」

「!」


抱っこ状態のわらわは、父君の両頬をパン!と叩いた。

本当は、個人情報を売り渡した父に対して文句の一つでも言って、脅迫してやろうと思ったのだが。


「はあ、もうこれで許す…」

「あ、ああ?」

「あと…どうせなら次は妹がいいです、私」

「えっ?!!」


面食らった隙を見て、父君の腕から逃げ出すと、そのままゼルメルの後ろに隠れた。


「母様、お父様の面倒、見てあげてね」

「はいはい」

「それでは、おやすみなさい、皆さま」


あ、父君は面白いほどぽかん、と口を開けてる。

まあ、幸せなのはいいことだ。


(素直になれなかった者同士…)


話すべきことを話さず、本音を隠して向き合うと、互いに心のずれが生じるもの。

…過去のリカルドと、エスメラルダのように、すれ違いすぎて気が付いた時にはもうどうしようもなくて。その隙を、突かれる。

そして、二人は離れ離れになってしまった。…なんだか、ケンのことを考えてしまう。


「二度と、会えなくなるのは嫌だな」


次、会えたら…もっと話そう。そう決めた。

すると、パタリという音がして…ケンからもらったブレスレットがちぎれてしまった。


「…え?なんで、嘘…」


…予感がする、もうじき、奴と会えると。

だが、それがいいものなのか、そうじゃないのか…わからなかった。


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