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【完結】名も無き魔女の、誰も不幸にさせない代行復讐〜断罪令嬢の取り替え契約物語〜  作者: いづかあい
第7章 終わりから紡がれた世界

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111 水と油



「昔の記録…あった」


メロウは帰る途中に立ち寄った図書館で、ある記事を探していた。

それは、今から約10年前から12年前に連続で起きた、孤児院連続放火事件の記録である。この時期、立て続けに孤児院ばかりが狙われた。

その犯人と思しき人物は、『ブギー・マン』と呼ばれ、王妃アルミーダが運営する孤児院ばかり狙い、金目の物ばかりでなく、時には子供たちをどこかに連れ去ったとされている。そして最後に火を放ち、証拠となりそうなものを全て炎に呑み込ませた。

しかし、ある日突然それは終わりを迎える。レスカーラのウェストエリアの孤児院『アデナス』の神父に返り討ちに遭い、殺されたとされ、事件は終幕となった。

ただ、この時攫われてしまった子供や、生き延びた子供たちの行方はよくわかっておらず、また探す人間も存在せず、時世の闇に呑まれてしまったという。


「焼け落ちたのはアデナス、ペレニー、スルス…残ったのは、ダンタリアン…」


そのどれも、王妃アルミーダが行っていた慈善事業の一つだった。そしてその中の一つ、ペレニーについてはメロウはよく知っている。

そこは、かつて自分がいた場所であり、母親・アルチーナに拾われた場所でもある。


(ダンタリアン…は、ジークたちがいた場所よね。あとは…)


「あ!!見つけた、メロウ!」

「?!」


突然聞こえた声にぎょっとして振り返ると、そこには見慣れた灰色の綿あめ…もとい、ヴァネッサだった。


「ヴァ、ヴァネッサ‥‥何でここに」

「そんなのメロウちゃんの魔力を辿ったら簡単よ?()()()教えてくれたし」

「みんなって…」


周りを見渡すが、ヴァネッサの言う『みんな』がどれを指しているのかわからなかった。


「ねーねーねーね!!それより聞いて!!!ワタシのね、お兄様が見つかったんだって!!!!」

「‥‥は?」


思いがけない言葉に、きょとんとしてしまう。


「お兄様って…」

「フィアネスちゃんから連絡あったの!!!もうすぐ来るって…ねえ、どうしよう?!キンチョーしちゃって…ねね、一緒についてきて~」

「わ、私はもう帰るし…そんなの一人で行けば」

「なんていえばいいかな…初めまして、かな?!それとも久しぶりかな!」

「だから…」


最後まで言わせないまま、ヴァネッサはメロウの腕を引っ張った。


(付き合わないと、介抱してくれなさそう…)


「久しぶりって…会ったことないんじゃないの?」

「ううん、同じ孤児院にいたんだよって、ジークが教えてくれた!」

「孤児院‥‥て」

「スルス!」


先ほど調べた、焼け落ちた孤児院の名前の一つだった。

(やっぱり…なんか、共通点が多すぎない?)


「ジークは…そういうのに、詳しいのね」

「うん!だって、ジークはアタシ達神様の子供たちのリーダーだもん!」

「神様の…子供たち」

「あ‥‥っ」


突然急ブレーキを踏んだかのように立ち止まると、メロウの背中に隠れてしまった。


「なんなのよ、もう…」

「…ヴァネッサ?君が?」


若い男性の声。パッと顔を見ると、ヴァネッサと同じ緑色の瞳の青年がそこに立っていた。


「誰…って、この子のお兄さん?」

「!妹がそこに?」

「ほら、キルケ、言ったでしょ?私は嘘つかないの」

「あ、ああ…」


やたらとべたべたするフィアネスを冷めた目で見つつ、メロウは後ろに隠れるヴァネッサをつついた。


「ほら、呼んでるよ」

「う、うん……」


恐るおそる顔を出すと、ヴァネッサはみるみるうちに笑顔になった。


「あ…」

「君がヴァネッサ?!」


ふわ、と身体を持ち上げられ、ヴァネッサは思わずワタワタと手をばたつかせてしまう。


「わ、わわっ…」

「すげー!!ホントに同じ目と髪の色だ!!初めまして、ヴァネッサ❕オレはキルケ…お前の兄ちゃんだよ!」

「お…おにいちゃ」


聞きなれているはずの『お兄ちゃん』という単語は、彼の言葉から聞くと、なんて優しい響きなんだろう。ヴァネッサは、そのままぶわっと涙があふれて、泣いてしまった。


「ふうん…キルケ、ね」


周囲が感動的な場面を見て涙ぐんでいるところ、メロウひとり一歩引いた場所でその様子を見ていた。

すると、突然フィアネスが視界に割り込んできた。


「ねえ!」

「何?」

「…あの子はだーめ。私の」

「私のって…」

「可愛いじゃない?…ああいう子、好きだな」


そう言って目を細めて笑うフィアネスを見て、メロウはため息をつく。


(…ご愁傷様ね、キルケ君。やばい女に目を付けられちゃって。でも…)


「ねえ、彼も騎士団に入るの?…神様の子供、なんでしょ」

「うんそうね…だってあの子は私達と同じだもん」

「同じ?」

「そうよ。みんな魔女の子供たちじゃない」


ドクン、と心臓が跳ねる。


「……そうだった、ね」


いそいそとキルケの元に行くフィアネスを見送り、メロウはめまいを覚えた。


(魔女の子供たち…そう、そういうこと…)


メロウは、【魔女】を知っている。

それは、大好きな姉の中に入っているあの存在だったり、母アルティーナのような存在だったり。そして、アルミーダも。

そして、彼女たちは力の代償として生殖機能が失う、とも聞いたことがある。


「全部…アルミーダが関わってる‥‥」


(愛するもの、自信、未来、強い力、祝福された未来‥‥望むがまま、手に入れることができる運命の子供たち…そう言った、あの魔女は)


「魔女と人間の…?そんなの、ありえない。ただの化け物じゃない‥‥でも、それは」


自分も、ということになるだろうか?


「アルミーダ…あの人、一体何をするつもりなの?」


(あのキルケって子…一度、話してみようかしら)


「?」


何となく視線を感じ振り返ると、二人の視線がぶつかった。


「あ…ごめんな、さっきは君を妹と間違ってしまって。オレはキルケ!君は?」


ニカッと歯を見せて笑う笑顔に、見上げるほど大きい身長。

何となくメロウは目をそらしてしまった。


(こういうタイプ、得意じゃない)


「…メロウ」

「へえ、メロウか”よろしく。…なあ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


こそっとわざわざ腰をかがめて尋ねるキルケに、メロウは首を傾げた。


「聞きたいこと?…フィアネスに聞けば?」

「あー…うん、ちょっと聞きにくくて」

「ふうん?でも、なんで私に」

「何となく、君は()()ような気がするから」

「…違う、ね」


(馬鹿かと思ったら、そういうわけでもないみたい)


「いいわ。どんな事?」

「ああ。ねえ…彼らは、()()信仰しているんだ?」

「…え?」


意外だった。

メロウも幾度か聞いた言葉ではあるもの、なぜかそこについて深く考えたことがなかったことに自身で驚く。


「神様の子供っていうくらいだ。…その神様っていうのがちょっと気になって」

「…そうね。確かに…」

「?知らないのか」


悪気はないのかもしれないが、何気ない言葉にメロウは少しむっとした。


「……それより、なんであんたはここにいるの?」

「え…何でって」

「その服だって…身なりもよさそうだし、ココの連中みたいに外的要因を一切受けないで育ったっていうようなタイプじゃないもの」


メロウからすれば、ジークをはじめ、孤児院から来たという彼らとは、まるで水と油のようにどうしても相いれないものがある。

彼ら同士の絆が強いというのは勿論、大きく異なるのは、彼らのように閉鎖的環境で養育された…いわゆる世間に染まり切っていない子供の延長と思えるほど、純粋ではない、というところにある。


「まあ…妹がいるからっていうのもあるけれど。俺は移民だし、この国での貴族の称号が欲しかった」

「へえ。…まっとうな理由ね」

「そうじゃないと、…その、好きな子に近づけないから」

「ふうん」


ちらりとフィアネスを見る。無論好きな子というのは彼女のことではないのだろう。


(あら、速攻で失恋?…ざんねんね)


「確かに、王妃様専属の騎士だもの。…卿の称号はもらえるわね」

「それと…少し気になることもある」

「気になること?」

「うーーん…まあ、とりあえずここまで。かな」

「お兄ちゃん!」


それだけ言うと、キルケはくるりと背を向ける。

ヴァネッサはすっかりとなついたようで、長い身長の腕にまとわりついて、離さず歩いている。


「……情報は小出しで押さえて、腹の中は初回では見せようともしない」


生まれ育った環境の違いだろうか、キルケはメロウが思う以上に慎重で、用心深い。


(場合によっては、協力関係のように手を組んだ方が無難かもしれない)


そして同様に、キルケもまた似たようなことを考えていた。


(…セイフェスを信じるなら、彼らを信用するのはやめておいた方がいい。…もし、何かやばそうなら、ヴァネッサは連れ出さないと)


ニコニコと手を握り、嬉しそうに笑っているヴァネッサを見て、ふとドロレスのことを思い出した。


「同じくらいの年齢かなあ」

「?なあに、お兄ちゃん」

「ううん。…今度、ヴァネッサの友達になりそうな子を紹介するよ」

「お友達?女の子?」

「うん。ちょっと不思議な子だけど、きっと仲良くなるよ」


(恐らく…セイフェスと一緒にいるんだろう。多分、何かの理由があって一緒に行動しているんだろうな。そして、セイフェスが動いている時、それには必ず理由がある)


そこには、長い時間が築いた信頼が大きな根拠としてキルケの中にあるのだった。


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