世界石座談会
あなたは、道ばたの石に目を留めたことはありますか?
今日は、世界石座談会の日。ストーンヘンジからモアイ像、宝石、アンモナイトにいたるまで、あらゆる石がオンラインで参加します。
でも、「はぁ」とため息をつきながらパソコンを開く石が一つ。どうやら気がすすまないようです。
どんどん事前に選ばれていた石が発表をしていきます。
「私はずっと世界一かたいといわれていたのが、その地位をカルメルタザイトさんにうばわれ、ずっと自信がなかったのです。でも、花嫁さんの笑顔を見て、自分はしあわせの石だと自信がもてました!」
ぱちぱちぱちぱち、われんばかりはくしゅの音。
(ダイヤモンドさんなんて、宝石だというじてんですごいだろ。なにをわざわざ)とさきほどの石は思いました。
ダイヤモンドさんの発表が終わり、次はポルトガルのげんしょう石さんです。
「ぼくは全身まっ黒でちっともきれいだといわれなかったけれど、雨が降った日、はじめてしっとりと光ってうつくしいと言われたんです!それがぼくの良さでした」
ぱちぱちぱち。またわれんばかりのはくしゅ。
(みてくれる人がいないぼくなんか、どうなるんだよ)とやっぱりさきほどの石は思いました。
発表がつづいていき、とうとうその石の番になりました。その石は、道ばたにころがっている石でした。一番多い道ばたの石代表としてくじ引きで発表をまかされていたのです。いつもゴミすて場の前でぼ~っとしていたその石は、なにをいっていいのか分かりませんでした。
「…………」
ずっとだまっていると、司会の墓石さんが「えっと、私のしらべたところによると、道ばたの石さんは、よく子供たちのあそびにつかわれますよね」
道ばたの石はじとーっと墓石をみました。
「たとえば?」
「そっそうですね。ほら、ボールのかわりとか?」
(なんだよそれ、こどもがけがしちゃったらどうするのさ)
他の参加者も墓石に続いて意見をいいます。
「ただけっとばされてるだけだろ」
「あと、川に投げ飛ばされたりもしてるわね」
「あっうちの国で暴動が起こった時、石なげていた人いたかも」
「あとゴリラが木の実をわる時、つかっているよ~w」
(もはや人じゃないじゃないかっ!しかもゴリラ、道ばたになんていないだろっっ!!)
石は、何もいわずパソコンのカメラをオフにして自分のすがたを消しました。それを見て、みんな言いすぎたことに気づきました。
「心配ない!」
しぶい声がして、いっしゅんでその場がひきしまりました。
「さざれ石さん!」
「さざれ石さんだわ!」
「あの日本の国歌の君が代にうたわれているさざれ石さん?」
道ばたの石は、思わず耳をそばだてました。
「石の寿命はとても長い。わしなんか数千年生きておる。きみがそんざいする理由も必ずある!わしだって元々は小さな石だった、それが水酸化鉄や炭酸カルシウムなどで固まって、ほかの石とくっついてできたんじゃ」
「ええ~っ!!」
「そうだったのか~!」
みんな驚いています。
「自信を持ちなさい、道ばたの石。君たちも大切な私たちのなかまだ」
ぱちぱちぱちぱちぱちぱち!みんな、はくしゅします。それでも、道ばたの石は自分の存在になっとくがいきません。
(ぼくはほかの石となんかくっつけないよ)
「あの……、わたし、道ばたの石さんの良いところ知っています」
しずかな、でもやさしい声がして、ブレスレットのローズクウォーツさんが手をあげました。
(え?良いところ?)
「私のご主人様は、道ばたの石をひろってそれに猫を描いたりして芸術作品にしています」
「!!!」
「インテリアやペーパーウェートとして人気があるみたいです。手に入れやすくて、身近なところが道ばたの石さんの良いところだと思います」
道ばたの石のむねにじわりとよろこびがうまれてきました。
会場からも
「確かにそうだな」
「うん、うん」
という声が聞こえてきます。
そして、
「今思い出しました!」
と話し始めたのは、お地蔵さんです。
「私は日本で学校からの帰り道に山本有三さんの『路傍の石』という本をお孫さんにプレゼントしていらっしゃるおじいちゃんを見たことがありますよ」
「路傍の石って道ばたの石のことよね?」
「文学作品の題名になっているの?」
「すごい」と、会場がざわざわしています。
「そういえばたしか……日本では『路傍の石文学賞』として、素晴らしい文学作品を讃えておったな」
さざれ石さんが、遠くを見つめて思い出したように言いました。
お地蔵さんは、続けました。
「道ばたの石はちっぽけなそんざいにおもえても、そのそんざいにもちゃんと歴史や思いがあって意味があるということです。この考え方は、とても人をはげますのではないでしょうか。人だって動物だって、僕ら石だって、たくさんあるうちの一つでしかなく、でも唯一の存在なのですから」
「「「おおっ」」」
さざれ石さんが、しみじみ言いました。
「道ばたの石は、まさに哲学的な存在じゃな」
ぱちぱちぱちぱち~!その日いちばんのはくしゅです。
道ばたの石は、そっとカメラをオンにしました。そして、じぶんも心をこめて、上機嫌ではくしゅしたのです。ぱちぱちぱちぱち~。
おわり
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
道ばたの石にも価値を見出せる。
それが作家や工芸家などの芸術家なのかな?と思います。