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猫と彼の意外な関係


「殿方に好かれる方法を教えてほしい――ですって?」


 友人・シャーリーズのお茶会に突撃訪問をして尋ねると、彼女とその友人A・Bはどっと笑った。


「急にどうしたの? 好きな人でもできた?」


 アデルファは一瞬ためらった。彼女たちに話すと、噂がものすごく遠くまで広まるのだ。


 でも、人に教えを乞う立場で、中途半端な隠しごとはあまりよくない。


「……実は、婚約中の方が、あんまりわたくしに乗り気ではないようで……」


 かくかくしかじか、「恋人にお願いしなよ」と言われたことから、「恋をされたい」と思ったことまで、恥をしのんで丁寧に説明すると、彼女たちは前のめりの姿勢で聞いてくれた。


「いいわねー楽しそうねー!」

「ちょうど暇だったのよね」


 友人A・Bの間であれこれと、『メイクがちょっと』『ヘアカラーもいまいち』『服装が……』『でもやっぱりロリ顔が……』と、容赦のない意見が飛び交い始める。


 ……若干のオモチャ扱いは否めない。


 アデルファは震え始めた。相談する相手を間違ったかもしれない。


 ふるふると、なす術もなく震えて座談会の結論を待っていたら、シャーリーズがパンパンと手を叩いた。


「もー、あんまりイジメないようにね」

「はぁい」

「シャリ姐さんやっさしー」

「この子、めっちゃ偉いさんの娘なの。アデルファなの。あんまり失礼なことばっかり言ってると追い出すよ」

「こっわ、何? 今日のシャリちゃんガチじゃん」

「分かったって」

「ごめんねえ、私たち退屈だったもんだからさ」

「つい盛り上がっちゃった」


 口々にお詫びしてくれるシャーリーズの友人A・Bに、アデルファはほっと胸を撫で下ろした。


 シャーリーズが流れを変えるように、しみじみした口調で言う。


「分かるなー。エルフが相手だとやっぱり大変だよねえ」

「何シャリちゃん、マジトーンで。付き合ったことあるの?」

「んー、一瞬だけね」


 シャーリーズは過去を思い出すように、ふっと遠くの方を見る。


「スっごいかっこよかったから、めちゃくちゃがんばってアピールして付き合ってもらったんだけど、これがものすごい反応薄くてさー」


 アデルファは、おお、となった。


 こんなに美人ではきはきしていて頭のよさそうなシャーリーズでも、エルフ相手には苦戦したのかと思うと、なんだか勇気がわいてくる。


 尊敬の目で見つめるアデルファの目の前で、シャーリーズ・人生の大先輩・セクシー美女がトークをお続けになる。


「デートに誘っても基本全部断られるのよね。しかもその理由がくだらない」

「どんな?」

「『今日は森で野鳥を観察したい』とか、『人ごみは疲れる』とか? 『近所の猫と会う約束してる』とかもあったかな」

「それもう猫じゃん」

「野鳥が好きで孤独を愛する猫ちゃんじゃん」

「本当にそれ。美形であんまり表情変わらないところも猫。『人間は愚か』って、高みから見下ろしてるところも全部猫」

「そっかー猫かー……」

「猫と付き合うのは確かに大変かもね……」


 アデルファは今の話に普段のヘレグを重ねてみて、改めて驚いた。


 ――確かに、ヘレグ様も猫っぽいかも。


 頭の中でヘレグのすまし顔にネコミミやヒゲを生やして遊んでいたら、シャーリーズが話をまとめ始めた。


「まあ、正攻法では無理だと思うんだわ。見た目は人間に似てるけど、ほぼほぼ別の生き物だよ、あれ」

「え、じゃあどうすんの?」

「諦めたらそこで試合終了じゃん」


 シャーリーズは腕組みをした。


「猫には猫なりの飼いならし方ってあるでしょ? エルフにも多少対策はあることはあるよ」

「どっ、どのような方法ですか!?」


 希望を見出したアデルファが身を乗り出すと、シャーリーズは焦らすように唸った。


「それがねえ……真面目なアデルファ様には向いてないかもしれないんだよねぇ」

「でも、私にはそれしか道がないんです」

「分かるよ。つらいよね。でも、場合によってはそっちの方が辛いかもしれないから、まあ、話半分程度に聞いてね」


 シャーリーズは言いにくそうに、ちょっと声のトーンを落とした。


「エルフはほぼ感情がないけど、知的な好奇心は高いから、『見てるだけ』っていうのが意外と好きだったりするんだよね」

「見てるだけ……?」

「そう。自分がするのは好きじゃなくても、人がしてるのを見るのは好きなの」


 ひそひそと、あたりを憚るようにして小声で言うシャーリーズ。


 アデルファは『してる』の目的語を考えた。


 ――要するに、いちゃいちゃしてるところを、ってことよね。


「手っ取り早く、人間の恋人を作る方向で考えたら? で、人間の恋人と三人で仲良くする。それが一番エルフ族には向いてるみたい」


 アデルファは勢いよく頭を振る。手振りでも断固拒否のポーズだ。


「絶対に嫌です」


 シャーリーズは、あは、と、冗談だと言わんばかりに笑う。


「やっぱりダメだよね」

「そりゃキツいよ、シャリちゃん」

「絶対喧嘩になるやつじゃん」

「それが意外とならないらしいんだよね。嫉妬の感情が薄いから仲良くやれるみたい。あとは種族が違うから? 感覚的にはペットをつがいで飼う感じらしいよ」

「うわ……逆にエルフって何だったら執着すんの?」

「そんなに生きる意欲薄くて、今までよく生き残ってこれたね」

「頭は人間なんかと比べ物にならないくらいイイからねえ。なんか色々してるみたいだよ。ま、それはいいんだけどさ」


 シャーリーズはアデルファの目を見て、励ますようににこりとしてくれた。


「じゃあ、アデルファ様ががんばるしかないね。エルフは人を楽しませるのは苦手だけど、あれで楽しいことは好きだったりするんだよ。正確には、楽しい雰囲気を出してくれる人間、かな」

「楽しそうにしてる人を見てるのは好き、みたいな」

「お酒では酔えないけど、雰囲気で酔える系?」

「そんな感じ。アデルファ様が楽しそうに恋をしていたら、カレも結構楽しんでくれると思うよ」

「それよさそう」

「恋する女の子はかわいいもんね」

「アデルファ様がヘレグ様のことを好きって気持ちを大切にして、がんばってね」

「応援してる」

「きっといいことあるよ」


 口々に励ましてもらって、アデルファはやる気が出てきた。


 丁寧にお礼を述べて、別れを告げる。


「ううん、いいよ、またいつでも来て。あ、今度パーティやるから、カレも連れておいでよ。きっと楽しいよ」

「はい、絶対行きます!」


 アデルファは来たときよりもずっといい気分で家路についた。


 ――わたくしが楽しそうに恋をすればいいのよね。


 ――がんばらなきゃ!


***


 シャーリーズに教わったことをもとに、アデルファはさっそく作戦を考えた。


 ――観賞するのがお好きなら、オペラはどうかしら?


 幸い、評判のいい恋の演目がいくつか上映中だ。


 アデルファも好きな作品を一緒に見て、楽しんでもらおう。


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