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私の変わらない思い


 いきなり部屋に侵入し、突進してくるアデルファに、ヘレグはびっくり仰天した。


 アデルファは机に置きっぱなしの薬を取り上げ、さっとコルクでふたをする。


「飲んじゃだめ! です!!」


 後ろ手に薬を隠しながら、アデルファはぶんぶん首を振った。


「私はそのままのヘレグ様が好きなんです!! 早まらないでくださいませ!!」


 ヘレグはようやく何が起きたのか分かったようだ。


「飲もうとしたわけじゃないよ」


 反論するヘレグは、あくまで落ち着いた様子だった。


「でも、今、ふたを」

「よく見て。周りに何が見える?」


 アデルファはすみのベッドに目をやり、サイドチェストを見て、後ろ後ろ、とアデルファの背後にあるテーブルを指し示すヘレグを見た。


 くるりと後ろを振り返ると、そこにはガラス製の不思議な器具がたくさん並んでいて、そばに大きな本が何冊も積まれていた。


「……実験器具、の、山……?」

「そう。実験中だったんだ。新薬の」

「し、新薬……?」

「ちょっと作りたい薬があって」


 ヘレグは束ねた薬草や、不思議な材料の入ったガラス瓶の並ぶ棚を指し示した。


 きっとこれが薬の材料となるのだろう。


 ――そうすると、さっきのビンは……?


 困惑するアデルファに、ヘレグがおかしそうに笑う。


「私が毒を飲もうとしているようにでも見えた?」


 アデルファはおずおずとうなずいた。


「エルフの秘薬、というのがあるとうかがいました」


 ヘレグは急に顔色を変えた。


 そばにいた付き人の少年に部屋から出ていくように命じて、室内を締め切る。


「それをどこで知ったの?」


 問いただすヘレグには、先ほど見せた和やかな笑顔など影も形もない。


 アデルファは緊張しながら答える。


「先日、王妃様が教えてくださって……盗んだのはヘレグ様かもしれないって」

「なんだ。バレてたんだ」


 ヘレグは案外あっさりと罪を認めた。


「それを盗み出したのは確かに私だよ。でも、服用目的じゃない。改良できないかと思って。エルフ用の秘薬はハーフエルフには少しきつすぎるから、薬効を弱めつつ、より副作用の少ない薬が作れたらいいなと思ったんだ」

「さ、さすがはヘレグ様……」


 無知無学なアデルファには思いつきもしなかったような解決策だ。


 尊敬のまなざしで見つめるアデルファに、ヘレグは少し照れたように頬を指でかいた。


「薬学を始めたのはつい最近だから、すぐに結果が出るとは限らないし、純粋なエルフたちが研究しつくしたあとの成果物を、ハーフエルフの私が少しいじったところで改良できるとも思えないんだけど……でも、私は人間側の文献が少しは読めるからね。うまく組み合わせれば、面白い結果につながるかもしれない。それに……」


 ヘレグはなおも研究の展望をすらすらと並べ立て、あっけにとられるアデルファを置いてけぼりにして、何分も喋り通した。


「……っと、ごめん。ちょっと熱く語りすぎちゃった」


 我に返ったヘレグが、これでおしまいだというように、話を結ぶ。


「なんにせよ、アデルを悲しませるようなことはしないつもりだから、安心して」


 アデルファはうるりときた。


「わたくしのために、そこまで……」

「やりすぎだっていうのは私も分かっているよ。でもしょうがないじゃないか、私は君のことがかわいくてたまらないんだ」


 アデルファはあふれ出る思いのままに、ヘレグに突進して、がばっと抱きついた。


「どうしたの? もう恋人ごっこはいいんじゃなかった?」


 アデルファはすがりついて、首を振る。


「わたくしがワガママばかり申し上げたせいで、ヘレグ様を追いつめてしまったのかもしれないと思ったら、苦しくて……」

「それで様子がおかしかったんだね。もう、心配しすぎだよ」


 ヘレグは笑いながらくしゃくしゃとアデルファの髪を撫でまわしてくれた。


「私は半分人間でもあるから、純粋なエルフの母上とは少し感覚が違うと思ってるんだ。だから、母上に何か言われたとしても、気にしなくていいよ」


 アデルファはぎゅっとしがみつきながらヘレグの言葉に聞き入る。優しさに甘えているだけではいけないとつい先日心に誓ったばかりなのに、あっという間に決意を溶かされてしまった。


「感情がないと言われるエルフだけど、私は、感情があると思ってる」


 ヘレグの声が少しだけ小さくなって、震える。


「……君に飽きられたのかもしれないと思うと辛かった」

「飽きるだなんて!!」


 アデルファは首をいっぱいに伸ばしてヘレグを見上げる。


「わたくしはヘレグ様が大大大好き!! なんです!!」


 力いっぱい叫んだアデルファに、ヘレグは泣き笑いのような顔になった。


「君を見て愛しいと思うこの気持ちが、薄いはずない」


 ヘレグにしがみつきながら、アデルファもまた、嬉しくて泣きそうになっていた。


「……ごめん。私のせいで不安にさせたね。やっぱり盗みなんかするもんじゃなかった。ちゃんと事情を話して、母上にも協力してもらうことにするよ」

「それがいいと思います!」


 アデルファはますます強くしがみついた。

 彼女が好きになったヘレグは聡明なのだ。


 きっとこれで問題もすべて解決されるだろう。



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[良い点] ウルウル(涙 へレグの想いと努力に感動 アデルファの行動力と素直さにも感心してしまいます
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