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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

空の彼方にいる君へ

作者: Alice



 広く広く澄み渡った空に、一筋の飛行機雲が走る。光輝く太陽は校舎や校庭をまばゆいほどの光で照らし、アスファルトはそんな太陽の光でジリジリ熱せられている。


 透明な光は今まさに青春を謳歌している人物を照らしていて、逆に僕見たいな青春なんてもうすでに終わっている人物には影がさしている。それは、どこの学校でも同じだろう。陰キャと呼ばれる人物は暗い影の世界で暮らして、陽キャと呼ばれる人物は明るい世界で暮らす。


 まあ、僕みたいに友達もいない人物が、明るい世界を望むなんておこがましいにも程があるだけか。


 そんな、陰キャの僕とは程遠い存在は、校庭で汗を流しながら一生懸命運動している姿が見え、耳を澄ませば吹奏楽部の演奏が聞こえた。そんな明るい世界にいる人物たちには目にも止まらないであろう僕は、時間が止まったかのようにただ一人、誰もいない屋上の上でたそがれていた。


 今日は、部活をサボってでも、委員会を休んでも、ここにいなければいけない理由があるのだ。それは、今からちょっと前に僕の目の前から居なくなってしまった‘君’に会いに行かなければいけないから。


 柔らかい風が僕の髪を揺らす。少しの憂いと少しの希望を帯びた僕の瞳を眩しく照らす、太陽の光。これを見ているとどうしても、彼女のことを思い出してしまうんだ。太陽みたいに明るい、彼女のことを……


 ここからは、完全な自分語りになってしまうけど聞いてほしい。約束を守ってくれた君と、約束を守れない僕の三つの物語を。


 一つ目の物語の時間は、一年前の春までに遡る。桜の花が舞い散り、辺り一面にピンク色のカーペットが敷かれる季節。周りには新入生がたくさんいて、ちょくちょく中学生の頃に同じ部活だった後輩もいる。まあ、僕はそんな人物もなにもかも無視をして自分の教室が張り出されている紙の方へと向かった。


 正直、誰が同じクラスでも何も変わらなかった。だって僕には一年生の時にも友達はいなかったし、学年が変わるのはただ周りの人物が変わって、ただ授業が少しだけ難しくなるだけというのが僕の考えだ。


 それは、小学生の頃からなにも変わらない。ただ学校にかよって、ただ学校で勉強して、適当に生きて死んでいくだけの僕の人生だと……思ってた。


 君にあったのは自分のクラスを探し、自分の教室で買ったばかりの新品の匂いがする本を読んでいたときだ。教室のなかを見回せば、まばらに人がいる。友達同士で話している人物もいれば、僕みたいに誰とも話さずに席に座っている人物もいる。なかには、新学期で配られた国語の教科書の物語を読み始める猛者まで……。


 僕はそんなクラスを見て、自分と同じような陰キャも、その上位互換もいるし、余計な面倒事にも絡まれる心配はあまりなさそうだ。と思い、再度本に目を落とそうとしたその時……


「ねぇ、君もしかして……その本好きなの⁉」


 知らない序詩生徒が声をかけて来た。彼女が指を指しているのは僕の持っている小説『あの空へ続く道』だ。僕は、目をキラキラさせながらこちらの返答を待っている異性、しかも全く話したことのない、接点のない人物に話しかけられたことに驚きつつも、適当にさらっと流す。


「うん、この作品も好きだし、この人の作品結構読んでるよ」


「すごい‼前のクラスだとこの本を読んでいる人も、知っている人も少なかったのに。君とはいい友達になれそうだ。名前、何て言うの?」


「……ハル。天野ハル」


「そっかぁ、ハルくんだね‼宜しく、私の名前は結月 楓だよ‼因みに、隣の席だからうるさくなるかもしれないけど、宜しくね‼」


「宜しく」


 こちらに笑いかけてくれる結月さん。その笑顔は、僕が人生で見てきたなかで一番美しく……どこか儚かった。結局、その日は始業式が終わったあと、お互いどうしてその小説が好きか、どうして読みはじめたかなど色々語り合いながら一緒に帰った。


 思った以上に家が近く、結構長い時間語り合え、自分の知らないその小説についての話や、自分以外の視点でその小説を読んでどのように感じたか等を知れた。


 別れるときは少し名残惜しかったけど、自分達のメールや携帯番号も交換できたし、なにより自分の趣味が語り合える友達ができて嬉しかった。


 とにかく、この日を境に恋人もいなければ友達もいない、正真正銘のボッチの俺にはじめて自分の趣味を語り合える友達ができたのだ。そして、僕の歯車は、この日を境にどんどん廻り始めることになったのをまだ知らなかった。


 これが、一つ目……僕と彼女が出会ったときの物語である。この日の記憶は『あの空へ続く道』や桜の姿……そして、彼女の笑顔と共に深く、深く自分の記憶の奥底に根付いている。きっと、僕がこの記憶を忘れる日は来ないだろう。


 二つ目の物語の時間は、六月のある梅雨の日の話だ。もう、桜の木には青々とした葉が着いており、ピンク色の花弁の面影はなかった。この頃になると、僕は彼女……楓とかなり仲良くなっており、お昼の時間には一緒にご飯を食べたりもしていた。


 他の友達と一緒に食べなくていいのか?と僕は楓に聞いたことがある。けど、彼女は『ハルと一緒に食べていた方が何倍もご飯が美味しく感じるからハルと一緒に食べたい‼』と言ってくれた。


 僕も、彼女と共にご飯を食べるととても美味しく感じるよ、と答えると彼女は嬉しそうに笑いながら『お揃いだね』、と言ってくれた。その顔は可愛くて、つい僕は顔を真っ赤にして目を背けてしまった。


 ある日、僕は一斉一代のある決断をした。それは、彼女に告白することだ。彼女は、ずっと一緒にいてくれてるけど、いつかは彼女にも友達ができたり、クラスが離ればなれになって一緒にいられなくなることが来ることが来るかも知れない。だから、そんな日が来る前に、彼女に想いを伝えて、一緒にいたい。という気持ちから来たものだった。


 この考えは陰キャのオタク特有の‘勘違い’から来たものという考えや、恋は盲目という先人が作った言葉の通り一時的な感情が爆発しただけという可能性があったが、やらないで後悔するよりやってから後悔した方がいい……ということで悩みに悩んだ末に告白をすることにした。


 その日は丁度、晴れていた。うざったらしい雨はやんでいて、檸檬の花にはうっすらと水がかかっていた。空には、まるで僕の気持ちを応援してくれているような虹が描かれている。


 僕は彼女をこの屋上に呼び出して、全力で愛の言葉を叫んだ。心の音はとてもうるさくて、緊張して目の前が真っ暗になりそうだったけど、はっきと彼女の


『こんな私でよければ、喜んで‼』


 という声は聞こえた。その声が聞こえた瞬間、喜びと安堵が入り交じった気持ちで胸がいっぱいになってへなへなと腰を抜かしてしまった。変なの~といいながら、こちらに手を差しのべてくれた楓。僕は、彼女の手を握って立ち上がった。


 この日、彼女と僕は正式な恋人になった。正直、美人な彼女とただの陰キャの僕が付き合えたことが信じられなかったけど、彼女は僕を選んでくれた。その事実が嬉しくて、僕は家に帰ってからもずっと心臓の音がうるさかったのは今ではいい思い出だ。


 と、これが二つ目の物語の内容である。ここまで見てきたら、ただのリア充ののろけ話。RBS(リア充爆発しろ)と思う気持ちもあるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。まだ話には続きがある。


 先に、ここがきっと僕の人生であとにも先にもない一番幸福な時間だったと言っておこう。ここから先は、今までの気持ちを全て、粉砕するようなそんな展開が待ち受けている。けど、そんなことをこのときの僕は知らなかったんだ。


 三つ目の物語は、僕と彼女の二人で縁日に言ったときの記憶だ。いつもは、学校の制服姿でしか出会えない彼女とはじめて外で会える……はじめてデートらしいデートをした日。


 空は深い青色に染まっていて、いつもの夜にはないワイワイとした雰囲気がそこにはあった。やはり、一年に一回しかない縁日の日だ。みんな浮かれているのだろう。かく言う僕も、そのうちの一人である。前日の夜はあまり眠れなかった。


 時間になると、いつもは着ないであろうちょっとおしゃれな服を着て、時間ぴったりに待ち合わせ場所にいくと、そこには、美しい着物を見にまとった彼女がいた。


 頭には簪をさしていて、きっと世界のどの女性よりも凛とした美しさを持っていた。まるで、かれんな黒いユリのようだ。


 しばらくほぅっと見とれていると、彼女は行こっか!と手を差しのべてくれた。僕は、あわててその手をとって引っ張る。彼女にリードさせていたら男としてカッコ悪い。と思ったのだ。


 とにかく、僕と彼女は色々なところを回った。金魚すくいで着物の袖を濡らしながらも、楽しそうに笑いながら金魚をすくったり(一匹もとれなくて顔をムーってさせているのはかわいかった)、射的で彼女が欲しがっていたぬいぐるみをゲットしてあげたり。チョコバナナやわたあめを一緒に食べたり、ラムネを飲んだり。


 縁日の醍醐味を全て、回りつくしたところで、彼女は『ちょっと疲れたから休憩しよ』といった。僕らは、神社の人目のないベンチに二人で座った。そこからは町を一望できて、綺麗だねぇ何て言いながら、そっと手を繋いだ。


 すると、


「ちょっとだけお話聞いてくれる?」


 と彼女が僕に聞いてきた。僕は勿論良いよ、と言って彼女の言葉に耳を澄ませた。が、その数秒後、僕の耳は信じられない言葉を聞くことになる。


「わたしね、実はもう余命があまり残されていないんだ」


 その言葉を聞いた瞬間に、僕は絶句した。だって、さっきまで一緒に遊んでいた彼女が、元気そうだった彼女が余命が少ない?とても信じられなかった。勿論、何かの冗談だと思い、彼女の顔をちらっと見たが、その顔は真剣そのもの。


「あはは、今まで騙してきたみたいでごめんね。きっと、言える日が今日しかないと思ってたから今言わせてほしいの」


 そういうと、彼女は驚きのあまり固まる僕を見て、申し訳なさそうな顔で語ってくれた。


「元々、体が弱くて病気がちだったんだけど、いつだったかな?絶対になおることがないって言われてる病気にかかったんだ。その病気は、徐々に徐々にゆっくり進行していくタイプの病気なんだ。病気の治療もとても辛くて、正直もう生きることに諦めて死のうとしていたんだ。けどね、」


 そういって、彼女は笑顔で僕の方を見ていった。


「そんななか、君に出会った。最初は、同じ小説を読んでいるだけで、ただの……言い方悪いけどオタク仲間みたいな感じで見てたけど、話していくうちにまっすぐな君に惹かれていった。この人と共に、ずっと生きていたいって思えたんだよ。けど、どんなに生きていたいって思ったって、体の調子は良くならなかった。今も、発作が起きてしまえばすぐに死んでしまうかもしれないんだ」


 君の言葉を聞きながら、僕はなにも言えずに黙っていると彼女はその綺麗な目にいっぱいの涙をためていった。


「私、死にたくない。まだずっと生きていたいよ。君の隣で、いつまでも笑っていたい。死ぬって言うのはね?全て、今まで積み上げてきたものを誰かに取り上げられちゃうってことなんだよ。そんなの……そんなの嫌だよ」


 彼女は、嗚咽を吐きながら僕に胸のうちを語ってくれた。どれだけ覚悟を決めて僕にこの事を伝えたのかはわからないけど、彼女は泣きながらいった。けど、僕はどうしたらいいのかわからなくて、ただ背中をさすって慰めることしかできなかった。


 結局、この日は彼女が一通りなき終わったあとに、家まで送った。彼女は、先程泣いていたのが嘘のような笑顔で笑い、僕にバイバイ、といった。僕は、ただいつものような笑顔でバイバイ、ということしかできなかった。


 悲しき縁日の思い出……と、ここから先の展開を全て捨ててしまい終わらせたい気持ちがあるが、実はまだ続きがある。それは、彼女が死んだ。という話だ。


 なんと、この縁日の三日後に彼女はいきなり発作が起こってしまい、死んでしまった。彼女は、終末治療……ターミナルケアの段階だったらしく、いつ死んでもおかしくなかったとか。今までは、無理して学校にきて、僕と遊んでくれていたらしい。


 僕は、涙が枯れるまでないた。もう、あの笑顔を見ることはできない。あの声で、あの手の温かさで、僕の手を引いてくれない。彼女は……楓はもうこの世界にはいない。僕のいない世界へといってしまったのだ。


 そして、僕は深く後悔をした。あの縁日の日に、なにか一つでも言葉をかけてあげられたら、なにか一つでも笑いかけてあげられたら、気持ちをもっと伝えられたら、きっと彼女に……なにか残してあげられたかもしれない。


 そんな深い失意のなか、僕はずっと後悔していた。それは、彼女のお葬式が終わっても、四十九日が過ぎ去っても同じだった。


 そして今、僕はとある決心をした。あの日と同じように、屋上で。


 楓……君のいない世界をずっと過ごしてきて思ったことがあるんだ。君が一緒にいる時、世界はすごい色鮮やかだった。けど、君がいなくなった瞬間に世界は色を失った。こんな世界、きっと価値なんてないさ。だから、僕は……今から君のところにいくよ。


 君のあとを追って、僕も死んでやる。君は、死んだら今まで積み上げたものを全て取り上げられるっていってただろ?きっと、そっちでさみしい気持ちをしているかもしれない。けど、大丈夫だよ。今からそっちに行ってあげるから。君は一人じゃなくなるんだ。


 だから、待っていて楓。死んでも、ずっと愛しているから。


 あと、そうそう。ここまで僕の話を聞いてくれた君、ありがとうね。最後に、僕の気持ちを聞いてくれてありがとう。せめて、誰かにこの気持ちを知ってもらってから死にたかったんだ。それじゃあ、僕はもういくから、バイバイ。


 そうして、僕は青い空に身を投げた。最後に見た景色は美しい空と、僕の目にたまった水だった。


 桜の葉は、もう枯れ落ちている。冷たい風が吹いて、紅い楓の葉を舞いあげた。もう、季節は秋だ。

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