001「久しぶりの再会と半年前のお話」
「ここが……センティエレメスト王立高等学院…………広っ!」
入学式初日――校門の前でそんな第一声を吐いたのは、
「もうっ! 校門の前でそんな恥ずかしい『田舎者全開』な感想吐いてんじゃないわよ! クライブはまったくー!!」
「!? エ、エマ!」
目をキョロキョロと挙動不審者ぶりを発揮し、幼なじみのエマにツッコまれるクライブ・W・フォートライト。
クライブとエマの二人がいるのは、センティエレメスト王国の王都センティスにある『センティエレメスト王立高等学院』の正門だった。
――『センティエレメスト王立高等学院』……主に王族と貴族、そして一部の平民が通う教育機関。そこでは『騎士』や『魔導士』、その他『研究士』や『治癒士』といった国の防衛や魔法研究などの専門職へ進むための知識や技術を教えている。
高等学院は十歳から十五歳までの五年間を寮で過ごし、卒業後は学院中に携わっていた専門機関へ就職となるのが一般的だが、身分によっては入学時点ですでに将来が決まっている王族や貴族が存在する……が、それは『ほんの一部』の権力者のみである。
「久しぶりだな、エマ!」
「フン! 何が『久しぶり』よ! あんた、領都に引っ越してから一度も村に来て顔見せたことないじゃない!」
「え? あ……」
「『あ……』じゃないわよ!」
「エ、エマだって!…………りょ、領都に来てくれなかったじゃないか」
「あんたアホなのっ?! 平民が領都に入るときにはいろんな手続きが多くて大変なのよ! そう簡単に行けるわけないじゃない!」
「え? そうなの?」
「…………あ・ん・た・ね~」
「う、うぎっ!?」
エマが両手で俺の頬をギュ~と思いっきりツネると、そこから説教タイムが始まった。
「どうしてあんたはいっつもいっつもあたしに心配ばかりかけるのよ!……たまにはこっちの気も使いなさいよっ! あんたは身分が『下級貴族』になったのよ! そんな、あんたに『平民』であるあたしなんかが簡単に会いに行けるわけないじゃない!」
「あ、ああ……しょ、しょうらな……」
「で? 領都行って? 半年間もあたしに一回も連絡入れないで? 一体…………何やってたのよっ!!」
ぐぐぐぐ……俺の頬をつねるエマの指にさらに力が加わっていく。
「は、はなひゅ……はなひゅから……指……はなひぃて……」
「んぎぎぎぎ…………あ~ん、もうっ!」
エマは納得いかない顔をしていたが、俺からの説明を聞きたがっていたおかげで何とかツネる指を離してくれた。
「で? 何やってたのよ?!」
「そ、それは、アレイスターさんの家で…………勉強していたんだよ」
「勉強?」
「あ、ああ。『推薦枠』で行くわけだから少しでも優秀な成績を収めてほしい、てことで学校が始まる前に家庭教師に朝から晩までみっちり勉強させられてんだよ……」
「あ、朝から晩まで……?!」
「ああ。だから、この半年間はアレイスターさんの家にほとんど缶詰状態だったんだよ」
「そ、そうだったの……大変ね、『推薦枠』て」
「ま、まあな……」
確かにアレイスターの家には高等学院で必要な勉強をしに通っていたが『高等学院で学ぶ知識や技術・体術』以外に……『蒼炎の悪魔持ち』である自分が高等学院へ行くにあたり必要な『立ち回り』についてのことも教えられていた。
いや、むしろそれがメインだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――半年前。『アレイスター邸』
「いいか、クライブ。現在、お前は以前と違って『全属性持ち』である『Transcendence』となっているがそれは学院では隠して生活しないといけない。理由はわかるか?」
「は、はい。『蒼炎の悪魔持ち』を疑われるから……」
「そうだ。実際、俺は今でも敵対する王族や貴族、ヴィセビア教から『蒼炎の悪魔持ち』である疑いをかけられ続けている」
「いっ!? 今でも……ですか?」
「そうだ。だが、俺もこの年齢まで来てそれなりに権力や後ろ盾も手に入れたから相手もそう簡単に俺に疑いをかけるようなことはしなくなったがな。しかし……お前は違う。わかるな?」
「は、はい」
「その為にはお前のやることはまずお前のミドルネームはこれまでどおり『風属性』である『Wind(W)』である必要がある」
「で、でも……属性が変わったらミドルネームは自然に自動的に変わるんじゃ……」
そう。
仕組みは不明だが、この世界では『属性水晶』で『魔力測定』を行い、その判定が出ると自動的にミドルネームが付与される。
同時に余り無い事だが『以前の属性が変化した場合』は、自動的にミドルネームは新しい属性のミドルネームへと更新される。
そして、これが意味するところは……、
「ああ。今のままだと学院に入るときの『魔力測定』で『全属性(Ts)』であることがバレてしまう。そこで、だ……」
「?」
スッ。
アレイスターが俺の胸……心臓あたりに手をかざした。そして、
「お前の属性を俺が魔法で隠す…………ミスティベール!」
すると、俺の胸にかざすアレイスターの右手から黒い靄のようなものが現れ、そして、それが俺の胸の中へと吸い込まれていく。痛みはない。
「よし、これで『属性水晶』でお前の属性は今と同じ『Wind(W)』のままだ」
「あ、ありがとうございます」
とりあえず確認として『属性水晶』で手をかざすと『全属性』のときのような七色ではなく、風属性を示す『藍色』だけが水晶の中をゆったりと動き回っていた。
「あれ? 確かに属性は風属性の『藍色』だけとなりましたけど、以前のような縦横無尽に勢いよく動いていないですよ?」
「うむ。それでいい。この『属性水晶』で示されるのは『色』が『属性種類』で、『色の動き』が『魔力レベル』となる。つまり、『色の動き』に勢いがあればあるほど『高魔力』ということだ」
「ということは、今の自分は前よりも『魔力が低くなっている』ということですか?」
「そうだ。理由は簡単。お前の普段のレベルの『高魔力』がバレるといろいろと学院で面倒臭いことになるからだ」
「面倒臭いこと?」
「まあ、色々とあるが一番面倒なのは『蒼炎の悪魔持ちを疑われる』ということだ」
「え? 魔力レベルでもですか?!」
「そうだ。この世界では『平民で魔力が高い者』は『蒼炎の悪魔持ち』を疑われる。その為、仕方がないことなのだ」
「な、なるほど……」
「俺がそうだが……今の俺は『領主』という立場まで来たので疑われても、表舞台ではそうそう問われることは無くなったが、今の段階のお前は『徹底的に属性と魔力レベル』は隠す必要があるのさ」
「は、はい」
「ちなみに、俺がお前の属性を隠した『属性隠蔽魔法ミスティベール』はあくまで『表面的に隠しているだけ』だ。その為、実際は『高魔力の全属性持ち』には変わりないお前次第では、今後、他の生徒や教師にバレる可能性もある。だから、お前にはここで学院の勉強以外に『学院での立ち回り』を学んでもらう……ていうか、むしろ、これがメインだ」
「わ、わかりました」
そんなわけで、俺は高等学院入学までの半年間、アレイスターやアレイスターの秘書であるサラ先生にみっちりしごかれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「いや~、本当大変だったよ……マジで」
「そ、そうなんだ……」
そんな、大変だった半年前のことを思い出し遠い目をしながらボソッと愚痴をこぼす俺に、エマは同情するような表情でソッと話を聞いてくれていた。
こうやって、さっきまでガミガミと感情むき出しで怒っていたエマが、今は一変して柔らかな表情を向けて話を聞いてくれているのを見ると、改めて『良い親友を持ったな』と感慨深くなる。
「だからごめんな、エマ。全然、会いに行けなくて……」
「!? そ、そそそそ、そんなこと! も、もういいわよ! あ、あんたも大変だったみたいだし……」
そんなエマに俺は素直に謝る。すると、エマは少し顔を赤らめながら許してくれた。さすが『親友』だ。
「と、とりあえず、こんな目立つ正門のところで立ち話なんてしたら他の生徒に迷惑でしょ! さっ、式典会場の体育館へ行くわよ! ま、まったくー!」
エマはいつもの調子でそう言うと、俺の手を強引に掴み、体育館へとグイグイエスコートしていった。
いよいよ、高等学院での生活がはじまる。
すみません。
こちらの都合で申し訳ありませんが、この物語はここで一度連載をストップ(完結済)とさせていただきます。
m(__)m




