016「閑話:まったくー! クライブはまったくー!! ―エマ視点―」
「へ? 領都へ引っ越す? 誰が?」
「俺が」
「はぁ~っ?!」
卒業式当日、一緒に学校へ向かう途中に突然クライブから意味のわからないことを告げられた。
「あんた何言ってんの? 領都へ引っ越す? あそこは貴族以上じゃないと入れない場所なのよ!」
「ああ。だから、その…………俺たち家族、下級貴族になって領都に引っ越すんだよ」
「え…………えええええええええっ!!!! 下級貴族ぅぅぅ~~!! ど、どういうことよ!?」
「え~と……だから、その……いろいろあって、そういうことになったん……」
「その『いろいろ』を教えなさいよっ!!」
私は今日、本当はクライブと離れ離れになるからって、それで、最後に一緒に学校に行こうと思ってたのに…………て、あれ? 下級貴族になって領都に引っ越す? そ、それじゃあ、
「ちょ、ちょっとクライブっ!! あ、あんた、もしかして…………王都の高等学院へは……」
「ああ、進学できるようになった」
「何ですって~~~!! そ、そういうことは、ちゃんと事前に教えなさいよ!!」
「ああ。だから、今、話してる」
「?! ぐ……ぐぬぬぬぬ……」
「エ、エマ……?」
何だろう?
すごく腹立たしい!
私が学校を卒業した後、クライブと離れ離れになることに悶々としてたってのに……何で、こいつは…………清々しい顔してんのよっ!!
でも、
「そ、それじゃあ、卒業した後も……また高等学院へ一緒に……?」
「ああ、そうだよ、エマ!」
すると、クライブが満面の笑みで私に返事を返す。
な、ななな、何よっ?! 何なのよっ!!
また、一緒に高等学院へ行けるって何よ!
そ、そんな、大事なこと、もっと早くに言っても……良かったじゃない!
あれ?
ていうか、いつからなんだろう……クライブが下級貴族になるって話になったのって?
それに高等学校に通うって……お金は……?
「ク、クライブ……あ、あなた……その進学の……お金は?」
「あ、ああ。お金は…………領主のアレイスターさんから援助を受けることになったんだ」
「えっ?! そ、それって…………『推薦枠』ってこと?」
「ああ」
「ああ……じゃないわよ!? ど、どうして? どうして『推薦枠』で……クライブだって知ってるでしょ?『推薦枠』はその後、その援助の人の元でずっと飼い殺される……」
「ううん。それは違うんだ」
「え? どういうこと?」
「実は……俺はアレイスターさんから『推薦枠』を受けるが条件は将来のパートナーとしてってことで話がついている」
「パ、パートナー? な、何のよ?!」
「え~と……将来、俺が成人した後にアレイスターさんの仕事を一緒にやっていく……て感じかな?」
「……」
な、ななななななな、何言ってんの、この子?
「ど、奴隷みたいなことってこと?」
「ううん、そうじゃなくて……その……仕事の仲間……みたいな感じ」
「りょ、りょ、りょ、領主様の仕事仲間ぁぁぁ~~~っ?!」
意味が! まったく! わからない!!!!
その後、クライブがゆっくりと事の経緯を話してくれたけど、私はずっとクライブの言葉すべてがとても現実とは思えないものだったので開いた口が塞がらなかった。
しかし、その後、卒業式でクライブの言っていたことがすべて『現実』だったことを理解する。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「諸君! 卒業おめでとう! 領主のアレイスター・Mt・クロムウェルだ! そして、突然だが私から一つ皆に報告がある!」
校長先生の話も終わり、卒業式が終わりに差し掛かった頃、突然、領主様が舞台に現れた。
皆……恐らく先生方も含めて領主様の登場は予定外だったのだろう。先生たちが呆気に取られながら舞台にいる領主様を見ていた。
そして、その領主様の口から最初に告げられたのは『ザボンとその親である村長がクライブを殺そうとした』というトンデモ話だった。
しかし、そんな『トンデモ話』はそれだけでなく、その事件の被害者のクライブが機転を利かしてザボンとその父親の『企み』を報告したおかげでその犯罪を未然に防ぎ、かつ、これまで疑惑の多かった村長や付き合いのある悪い連中も一緒に捕まえることができたとのことだった。
そして、そのクライブの功績を領主様はとても感謝し、そのお礼としてクライブの望むものを与えると言ったらしい。そして、クライブは『自分たち家族を貴族にしてほしい』と望み、それともう一つ、『推薦枠ではない高等学院への進学援助』を望んだそうだ。そして、そのクライブの二つの願いを領主様は迷うことなく即答で了承したとのことだった。
「な、何が、なんだか……」
そう、まさに『何がなんだか状態』である。
ちなみに、その後、ウチの父が新村長になるという話もあり、それには身内のこともあったのでクライブ以上に驚いたのは言うまでもない。
それにしても前からそんな話があったのだろうか……と、観覧席にいる父のほうを見ると父は領主様を『鬼のような形相』で睨んでいた。
どうやら『突然の発表』だったようだ。
でも、いくら突然の話だからって領主様にあんな怖い顔で睨んで大丈夫なのだろうか?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ク、クライブ……あんたの話、本当だったのね……」
「いや、だから本当だって言ったろ? 信じてなかったのかよ」
「あ、当たり前でしょ! あんな前代未聞の身分昇格なんて初めて聞いたわよ。そ、そんなのすぐに信じられるわけないじゃない?!」
学校からの帰り道、私とクライブは南の森の少し奥に入ったところにある湖に行き、そこにある頃合いの岩に腰かけ話をしていた。ここは小さい頃、クライブとよく一緒に遊びに来ていた二人だけの『秘密の場所』だ。
「で、でも、そ、その……結果的にクライブが……高等学院に進学出来て………………よ、よかったわ」
「エマ……」
「フ、フン! いろいろあり過ぎてまだ混乱してるけど!……お……おめでとう!…………て言ってあげるわっ!!」
う、うううう……恥ずかしい!
「あ、ありがとう、エマ……うれしいよ。エマにそう言ってもらえるなんて……」
「え?」
え?
え?
え?
わ、私に『おめでとう』て言ってもらえて……クライブ……うれしかったの?
え? そ、それじゃあ、クライブって、もしかして……あ、あたしのこと……、
「わ、私に、そ、その……『おめでとう』って言われて……そ、そんなにうれしかったの?」
「ああ、もちろん!」
ドキ!
ど、どうしよう……聞いちゃう? 私、聞いちゃう? 今……聞いちゃうぅぅぅ~~~!!!
「……な、なんで?」
「え?」
「な、なんで、そんなにうれしかったの? も、もしかして、クライブ……私のこと……」
「エマは俺の大事な親友だからな!」
ピキッ!
「……親……友……?」
「ああ! 俺たちは小さい頃からの大事な親友同士だろっ!」
「……」
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、あっぶねぇ~~~~~!!!!
もう少しで、生き恥晒すところだったぁ~~~~!!!
し、親友…………そう、私たちは親友同士じゃない!
別にそれ以上の関係なんて、別に、望んで……なんか……望んで……なん……か…………何だか、また、腹立ってきたわねー。
何で、いつも私ばかりクライブに『変な期待』しちゃってんのよ!
ああ、もう!
「そうね! 私たちは……『親友』だもんねっ!!! フン!」
「あ、あの……エマさん? ど、どうして、そんな、怒ってるんですか?」
「うっさいわねー! 親友なら少しは私の気持ち察しなさいよね! フン!」
「え、ええええ~~~!!! い、意味が……わからん!」
「フン! 私だって意味わかんないわよ!」
「よ、より、意味わかんねーよ……」
「うっさい! まったくー! クライブはまったくー!!」
「だから、何怒ってんだよ、エマーーーー」
「うるさい、うるさい! あんたみたいな『無神経男』にはわからないわよ! 高等学院に行ったらまたビシバシ鍛えてやるんだから覚悟しときなさい!」
「え? ビシバシ? 何だかわからないけど…………お断りします」
「何だとーーーーーっ!! 待ちなさい、クライブーーーー!!!」
「う、うわぁ!? お、おま!? い、石、投げんなよ!」
「うるさい、うるさい! このっ! このっ!」
「や、やめろ、エマ! マジ、危ないってーーー!!」
「やめてなんて……あげるもんかっ!!」
悔しいけど、ま、いっか!
今は……『親友』のままで。
こうして、私とクライブ、二人だけの村の初等学院での卒業式が終わった。
次回から「第二章 異世界カースト成り上がり ー高等学院編ー」が始まります。
でも、ちょっと更新は遅くなるかもです。 m(__)m