010「同郷」
「お前は……何者だ?」
「!? そ、それは……」
ど、どういう……どういう意味だっ?!
さっきまで俺に『クライブ・W・フォートライト』として接して話をしていたはずなのに……なのに突然……どうしてそんな質問をするんだよっ?! それじゃあ、まるで、まるで俺が…………『本当のクライブ・W・フォートライトではない』ということをすでに知っているみたいじゃないかっ!?
「ど、どういう……意味ですか?」
「どういうも何も……そのままの意味の質問だ」
「うっ!」
アレイスターは一瞬、はぐらかそうとした俺を間髪入れずに止めに入る。
「……」
「……」
俺は本当のことを言おうかどうか迷い、言葉に窮していた。そして、そんな俺が迷っているだろうということもちゃんと把握しているのか、アレイスターは特に俺に返答の催促は求めず、静かに、しかし、はぐらかすのは許さない、とでもいうかのような視線を向け対峙する。
「お、俺は……俺は……」
「地球からの転生者……てか?」
「え……えええええーーーーーっ!! ど、どうして……それをっ?!」
俺が答える前にアレイスターから逆に『地球からの転生者』という言葉が発せられる。
「ハッハッハ! そうだ! そういう顔が見たかったんだよ!」
さっきまで威圧さえ感じるほどの厳しい表情だったアレイスターが一変……実に楽しそうな笑顔で俺の肩を叩く。
「ちょっ! そんなことはいいですから! ど、どうして…………どうして俺が……地球からの転生者ってことを……知って……?」
「フフフン! 何を隠そう、俺も『地球からの転生者』だからだ、エッヘン!」
「え、えええええええええええええーーーーーーーーっ!!!!!」
「なんだ? 聞いてなかったのか? あの『悪魔』に?」
「え? 『悪魔』?」
「夢に出てきただろ? 白い服着て偉そうな態度で話す『長髪男』を……」
「は、はいっ!!」
「その『長髪男』が『蒼炎の悪魔』であり、そいつがかつてこの世界を支配していた魔王ゾルティゼア……らしい」
「ま、魔王っ!?」
あの長髪男が…………『蒼炎の悪魔』。そして、その正体が『魔王ゾルティゼア』。
ふと昨日、チンピラが語っていた『蒼炎の悪魔』『蒼炎の悪魔持ち』の話を思い出す。
「ところで、俺は『地球』で交通事故で死んで気づいたらこの世界のこの『アレイスター』という男に転生したんだが、お前もそうなのか?」
「は、はい! そ、そんな感じです。まあ、俺は地震で亡くなったんですけど……」
「なるほどな~……。あ! ところでお前、転生前の名前は?」
「間宮義人……ていいます」
「間宮……義人……か。あ、俺の転生前の名は『杉村源蔵』だ。まあ、しかし、もう地球の記憶なんて今はだいぶ忘れてしまったがな。なんせ、このアレイスターという男に転生してかれこれ二十年以上経っているからな」
「に、二十年っ!? そ、そんな、前から……この世界に……」
「まあな。いや~それにしても、やっぱお前は俺の予想どおり『地球からの転生者』だったか。まさか、死ぬ前に『同郷』の奴と出会うことになるなんて……へへ、ちょっと感動したよ」
「……源蔵さん」
「お、おいっ!?『源蔵』なんて名前で呼ぶなよ! 今じゃあ、『アレイスター』のほうがしっくりくるんだからよ」
「あ、す、すみませんっ!?」
つい、なじみのある『日本人名』で呼ぶとアレイスターは照れていた。面白いものを見た。
「いや、いい。まあ、何にせよ、だ。これでお前にいろいろと話ができるってもんだ」
「あ! そう言えば、さっき……『長髪男から聞かなかったのか?』みたいなこと言ってましたけど……」
「ん? ああ、そうだ。俺はてっきり長髪男が『俺がいるこの村にあえてお前を転生させたのか』って思っていたんでな。もし、そうなら俺のことを聞いてるかと思ってよ」
「そ、そうだったんですか。いえ、特に何も言ってませんでした。あ! でも……『この世界に俺以外にも地球からの転生者がいる』みたいなニュアンスのことは言ってましたけど……」
「そうか~。ん~~~、まあ、俺もよくわからんし……いっか!」
いいのかよ!
「あ、ところで、その~……」
「ん? なんだ?」
「あ、あの……こ、こんな話を……その……サラ先生の前で話して大丈夫なん……」
「ああ、大丈夫だ!」
「……はい。私は領主様のこの『秘密』を共有している者ですので問題ありませんよ?」
そう言って、サラ先生は俺を見てニコッと微笑む。
「サラは俺の横で秘書として支え、かれこれ十五年にもなる」
「ええっ!? じゅ、十五年……っ!!」
「そうだ。だから、サラは俺のこの『秘密』のことは知っている」
「そ、そうだったんですか?」
「ちなみに、お前からすればサラは『学校の先生』だと思うが、実際は俺の秘書であり、『学校の先生』は仮の姿だからな?」
「え? 仮の姿?」
「そうだ。まあ、今の話もそうだが、とりあえずお前にはいろいろと……そう、いろいろといっぱい話さなきゃいけないことがあるんだ。だが、その前に……」
「その前に……?」
ぐぅぅ~~。
「あ……」
俺の腹の虫が大きな音を立て主張する。
ニコッ!
アレイスターは腹の虫が鳴って赤くなっている俺に『ニッ!』と満面の笑顔で言い放つ。
「夕食を取りながら話すぞ……クライブっ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
現在、俺たちはアレイスターの部屋から大広間へと移動し、サラ先生の作った夕食を食べていた。
「あ、おいしい……」
ここの食事は家で食べた母さんの料理とは違い、しっかりと味がついてておいしかった。
「だろう~? ここの世界の食事は皆、調味料や香辛料を使わない料理ばかりだからな。だから俺はその調味料や香辛料を自分で作ってこの屋敷内で料理に使っているのさ」
「この屋敷内だけで? どうして……」
「まあ、いろいろあるが簡単に言うと……『目立つ』からだ」
「目立つ?」
「ああ、目立つ! そして、下手に目立つといろいろと厄介事が増えるんだ」
「厄介事?…………ああ、なるほど」
そうか。
この世界は自分が感じている印象だと『地球の文明』よりもかなり遅れていると思う。そんなところに『地球時代の文明』の一つでも作ればたちまち『大反響』となるだろう。そうすれば、お金や地位も得られるだろうが同時に…………妬み、恨みを買って『敵も得る』ということになる。アレイスターはそういうことを言ってるのだろう。
「敵を作る……ということか」
「お前、かなり察しが良いな~」
「どうも」
「まあ、察しが良いのはいいことだが、しかし、そういうのはなるべく隠したほうがいいぞ、クライブ。そういうのも『目立つ』からな」
「あ……」
確かに。
実際、それで俺は両親にもエマにも少し勘づかれそうになったからな…………気を付けよう。
――夕食後、サラが持ってきたコーヒーとコーヒー受けであるカステラのような甘味を味わい落ち着いた頃、アレイスターが話を始める。
「まず、何から聞きたい?」
「そうですね……まずは『魔王ゾルティゼア』について教えて欲しいです」
「うむ。そうだな、まずはそこから話すとしよう」
そう言うと、アレイスターはカステラを口に入れ、コーヒーで流し込んだ後、話を始めた。