桜の花弁分解
おや、そこの旅の方。
こんな夕暮れ時にここで何をしているんだい?
そんなに大きな荷物を持って。
あたしは誰かだって?
あたしゃ、ここの山の神主さ。
この服装で見てわからないのかい?
かれこれ六十年くらいつとめている婆さんさ。
あんた、まさか今から山に登る気じゃないだろうね?
何だって!?
この山で野宿したいだって!?
よしとくれよ。なんて罰当たりな。
いいかい?
よくお聞き。
この山の頂上には神社がある。
桜山神社というものさ。
始めに言っとくがこの山には一本も桜の木が無い。
あと桜山神社では別に桜の神様は祭っていない。
じゃあなぜ桜山神社なのかだって?
昔、この山の頂上には貴族のお屋敷があった。
あるときそこのお姫さまが子をなした。
しかし、生まれてきたのは不思議な力をもった御子であった。
その力とは、ありとあらゆるものを桜の花弁に変えてしまうというものさ。
その御子は生まれた瞬間に、母であるお姫さまを桜の花弁に変えてしまった。
それ以来、周りに恐れられてお育ちあそばされ、父君がお亡くなりになると、お屋敷の者達は次々に辞めていった。
遂にその御子が一人となった時に、ある落武者がその屋敷を訪れた。
戦に敗れて帰る場所が無くなった者であった。
御子は落武者を哀れに思い、お屋敷に置いた。
暫く時が流れると、やがてその山を我が領地とせんとする大名が兵を率いてやって来た。
そこで、武者が止めるために説得に向かった。
しかし武者は無惨にも殺されてしもうた。
それを見た御子は悲しみのあまり自害なされた。
すると、力が暴走し、兵と大名もろとも桜の花弁に変えてしもうた。
山は多量の桜の花弁で溢れかえった。
それは、まるで見えない桜の木が一斉に咲き誇った様であったと伝わっておる。
その力は今でも残っているのさ。
山に登っても参拝するだけなら大丈夫。
だけど、山に危害を加える場合は桜の花弁に変えられてしまうんだよ。
ん?
あたしが嘘をついているだって!?
失礼な奴だね、あんた!
わざわざ教えてやっているってのに、嘘つき扱いかい?
あ、ちょっと!
入っちゃ駄目だよ!
痛っ!
突き飛ばすこたぁないだろ!
旅人はもうそこにはいなかった。
ただ、桜の花弁がヒラヒラと舞っている。
ドスンッ
旅人のリュックサックだけが地面に落ちた。
お婆さんはリュックサックのチャックを開き中を見た。
中には太い注射器や小型のチェーンソー。
不気味な色の薬品。恐らく、木を枯らす薬品だろう。
説明文は異国の文字で書かれている。
お婆さんは
「またか。」
と呟いた。
旅人は木を枯らしたりして、難癖をつけて山の太い木を持っていくつもりだったようだ。




