sonta crouse:2030-忖度と能力
所謂脚本です。
A:少子高齢社会だと騒がれる昨今、赤い服をまとったヒーローがカップル相手にプレゼントを配っていた。その男には心の声が聞こえるのだ。今日もその男はキャンプ場に出没している。
朝倉:今日は絶好のバーベキュー日和だな。久し振りの休みだから楽しむべよ。
城崎:そうだね。勇太君、いつも忙しいからね。今日は私頑張るよ。だから無理しないでね。
朝倉:無理なんかしねぇよ。バーベキューは楽しいからな。それに由香といるとリラックス出来るから疲れも感じねぇんだよ。
城崎:冗談言わないでよ。疲れる時は疲れるでしょう。
朝倉:ふふ。あぁそうだな。さて、どうする?早速準備するか?
城崎:うん。早く食べたいな。もうお腹が空いたし。
朝倉:よし、早速バックから買って来たものを取り出すか。まずはキャベツと人参と、椎茸と玉ねぎ、うん?肉が無い。あれ?おかしいなぁ。
城崎:勇太君どうしたの?
朝倉:由香、肉買ったよな?確かに。
城崎:うん。買ったはずだけど。
朝倉:家の冷蔵庫に置いてきちまったか。肉の無いバーベキューなんて桜の散ってしまった花見会と同じようなものじゃねぇか。
城崎:まぁ、大丈夫だよ。何とかなるからさ。
朝倉:俺、もう一回車の中見てくるよ。車の中にあるかもしれないから。
城崎:じゃあ私、野菜の準備しておくから。
朝倉:了解。じゃあ行ってくる。
孫目:もしよろしければなんですけど、この肉は如何ですか?イベリコ豚のロース肉、ローズポークのロース肉、黒毛和牛のロース肉どれがいいですかね?
城崎:え!本当に下さるんですか。おいくらですかね。
孫目:僕、困って居る人を助ける事が使命なので、お金は要りませんよ。
大黒:そんなお節介やく必要は無いだろうよ。お前さん。バーベキューは肉が無くても楽しめるべよ。
孫目:そりゃ、そうかもしれないですが、でもよく言うじゃないですか、一人で食い尽くすより分け与える方が満足すると。
大黒:あのなぁ。今頃そんなキリスト教のような慈善思考が通用するほど甘く無いんだよ。隣人には興味がない人達が増えてきたこの世の中で信じられるのは身内だけ。その身内でも夫婦は紙切れ一枚、血縁関係のある親子でさえ、殺し合いが起こることもある。だから関係を広げることはむしろ危ない目にあう可能性を増大させるかもしれないぜ。
孫目:それでも、困っている人に手を差し伸べるそんな温かい心掛けが世界を変えると思いますよ。融和や友好的な態度からしか真の平和は生まれないので。
大黒:生ぬるいな。情に縛られていては出世するところも出世しない。自分第一で何が悪い!そんなだから働きすぎで死んじまうんだ。この野郎は自分がどれだけ世間知らずか分からねえようだな。おい俺と勝負しろ!
孫目:テメエ。今まで優しく振舞ってきたがこの俺を怒らせたな。上等だ。相手になってやる。さぁ勝負をつけようじゃないか。忖度ロースの力見せてやる!
大黒:粋がっているのも今のうちだぜ。お前には記憶がないからそんなことが言えんだよ。もしもし、八角の兄貴ですか?俺です。山椒龍です。高乃爪を見つけました。今から勝負をします。俺達の引退相撲の仕切りお願いします。
孫目:今電話したってことは誰かがここに来るってことだな。そして、何か勝負事を始めると。高乃爪?山椒龍?何の話だ。
大黒:覚えてないか。お前は運の強い男だ。じゃんけん相撲でそれなりの優勝を誇った。高乃爪はなぁ、お前の四股名や。だがあの横綱戦でお前は他人の運命を狂わしたんだよ。だからかわいがりを受け、気付いたら記憶がないんだよ。
孫目:俺は一体何をしていたんだ。でも怪我なんて全くしていない。だが記憶だけが抜けかけている。自分の名前の記憶はあるのにここ2、3年の記憶がなかったんだ。
大黒:悪く思うな。ペナルティってやつだ。その部分の記憶だけ完全に消去したのさ。高乃爪、すまんことしたわ。運命を狂わせる能力なんて最初から存在しなかったんだよ。でもなぁ、世の中にはお前の大好きな忖度で消えてもらわなきゃいけねぇ奴がいるんだよ。それがお前だっただけや。
孫目:他人の忖度で被害を被るなんておかしいじゃねぇか!覚悟しろよ山椒龍!お前を倒してやるからな。3年分の恨みを込めてな。
大黒:そんなもので良いのか。もっと本気で戦おうぜ。今回の戦いは俺のプロ界の引退相撲でもある。
孫目:あんた一体何のために俺を引退相撲の相手に選ぶんだ?こんな記憶喪失の俺を。
大黒:何故お前をこの引退相撲の相手に選んだかというとな、お前を引退させてやりたかったんや。俺はお前の敵じゃない。心残りだった。記憶を抹消して一般人として戻すということがな。
孫目:つまりお互いこの場で決着をつけるということだな。俺はじゃんけん相撲界を強制的に引退させられた身で温情的な引退相撲であり、あんたは本当の引退相撲であると。
大黒:そうや。だがこの模様は誰も知らんよ。見てる人も大しておらん。決して華やかじゃない引退興行だがこれで良いんや。こう見えてもあんたには随分と負い目を感じてる。
山岡:待たせたな。俺がじゃんけん相撲協会三代目会長の八角師匠である。現役時代は特鰭と名乗っていた。孫目君。いや、高乃爪よ。君には大変申し訳ないことをした。このペナルティを申し渡したのはこの俺だったんだ。
孫目:横綱戦って一体なんだったんですか?さっきから全然分からなくて。どんなことをして記憶を無くさなければいけなかったのか。それを教えて下さい。
山岡:そうか。あの一戦を知らなかったか。お前はかわいそうだったよ。このじゃんけん相撲界では横綱のライフは6個ある。6回負けて土俵から外れるんだ。そして大関、関脇、小結、前頭と一個ずつ減っていくのだ。その時戦った相手が、生姜馬という男で横綱、高乃爪は小結であった。ライフには3つの差があり、高乃爪は負けるはずであった。しかし、ライフを1残したまま勝利してしまった。
孫目:何もイカサマはしていないと思うのですが、それなら何故そのようなことが起こったのですか?
山岡:酷い話やで。生姜馬に勝ったということに二代目会長だった夏目師匠は腹立てて、強制的に全ての記憶の抹消及びじゃんけん相撲界からの追放を命じたんだ。お前を精神崩壊に導くために。
孫目:その夏目って奴は今どうしているんだ?この目であって見てみたい。
山岡:残念だが、気性が荒かった夏目師匠はその一件の後に会長職を解任されたんだ。その後、関係者を山奥にある別荘に呼び集めて二階のベランダで敦盛を舞い、その後に短刀で腹を刺し、その勢いで二階から飛び降りて自殺したんだ。刺さったナイフが酷い方向に曲がっており見るに耐えない凄惨な現場であったよ。
孫目:そうか。自殺したのか。何か取り憑いていたんでしょう。では私の恨む相手はおらんようですな。もう許しましょう。失ったものは取り返せないのですから。さてお互いに決着をつけましょうや。山椒龍よ。
大黒:分かったで。喜んでお相手いたそう。
山岡:では引退じゃんけん相撲のルールについて説明いたそう。これは基本的に手と足を使用する幕内方式で取り組みをおこなう。「八卦良い、のこった」をじゃんけんの合図として、グーは足や手を閉じる。チョキは手や足を縦に開く。パーは足や手を開く。そのような動作をしていただく。なお、手はグー。足はパーなど別々の動きをしても良い。もし同時に土俵を外れることになれば、手や足のみで勝敗をつける。以上だ。高乃爪よ。理解できたか。
孫目:よし。理解出来たぜ。では勝負と行こか。山椒龍よ。
大黒:楽しもうぜ。高乃爪よ。
山岡:今回はライフ5でいかがか!
大黒:多過ぎる。ライフ3で密の濃い試合をさせてもらいましょう。
孫目:ライフ3でお願いします。
山岡:了解した。では始めさせていただきます。東側、じゃんけん相撲のスーパーヒーロー山椒龍!西側最強じゃんけん無双高乃爪!
「八卦よい!残った!」
大黒:貴様には負けた。約束通りバーベキューをしてくれ。俺は負けた。今から帰ることにするよ。本当に世話になった。頑張れよ。忖度ロースよ。
孫目:何言ってるんだよ。山椒龍。お前のお陰で俺の能力が何故身についたかが分かったんだ。この2人と一緒に食べようぜ!勿論八角会長もね。
山岡:いや良いのか。俺も頂いちゃって。
孫目:そりゃ、八角会長がどんな人かっていうのは俺には分かりませんが。この能力、相手が何を考えているのかが分かる能力が身についたのはこのじゃんけん相撲の世界で得た天啓だと思えたんで、感謝するためにも師匠も食べて下さいよ。
山岡:ありがとう。それでお二人さんは良いのかい?
朝倉:勿論ですよ。5人で食べた方が良いですし。それに良いもの見せてもらいました。じゃんけん相撲なんてあるんですね。中々楽しそうです。
山岡:衣相撲なんてのも毎年あるんですよ。体格差なんて無いんですけど男女別にこの相撲はあるんですよね。衣相撲は着ているものを一枚ずつ脱いで行ってパンツ一丁や女性の場合はブラとショーツの状態になるまでじゃんけんを続けるっていうゲームですね。これが中々人気なんですよ。
城崎:じゃんけん相撲って色々なことをしているんですね。とても楽しそうです。参加したいなぁと少し思ったり。
山岡:それは嬉しいなぁ。まぁ、そこまで堅くない競技なので近くに来た時にでも寄って下さい。これが地図です。
城崎:ありがとうございます。ではそろそろバーベキューを始めましょうか。
朝倉:そうだね。3人も一緒に楽しみましょう。では、かんぱーい。