異世界転生、そして被虐の龍 ②
後輩ボナペントゥーラと異世界へとやってきた主人公、そこで待っていたのは・・・
永遠とも思えるくらいだだっ広い草原。青すぎて、吸い込まれてしまいそうな空に飛ぶドラゴンの影。その空の遠くには、天空に浮かぶ島。そして、さらに遠くにあるのは、中世ヨーロッパのような豪華な城。
陸地の地平線の先には、科学や工業が栄えていそうな土地もある。あきらかに“インダストリアル”な雰囲気をこれでもかと醸し出している。
「異世界だっ。明らかな異世界。イメージ通りすぎるほど異世界だよっ! ほんとに転生してるんだっ!!」
「そうでしょう! そうでしょう! 異世界に憧れるキッズたちの夢を壊さない安心設計の異世界ですよ!!」
ほんの少しのラグで僕のすぐ隣に転生してきたボナペントゥーラが言う。
「って言うかさボナペントゥーラ。これ、転生と言うよりトリップじゃないかな?」
どこかで聞いたことがある。
転生とトリップは似ているが全く異なるモノ。
簡単に言うと、転生とは0から別人として心や感情、知能だけを引き継いで生まれ変わることで、トリップは今の状態のように、心も体も本人のまま、異世界へとワープすること……らしい。
「はぁ。部長。定義論は荒れるのでやめて下さい……それと、確かにこの状態は一見トリップですが、まごうことなき転生です」
「そうなの?」
「ええ。話すと長くなるので、また再びこの設定が使われる時に話しますね」
メタ発言をするボナペントゥーラ。
「では、まずは、あそこに見える天空の島“アルッソ共和国”へと向かいましょうか」
ボナペントゥーラの指をさす先を見る。
その宙に浮く巨大な島の中央には、クリスタルでできているのだろうか? なんかやたらとファイ○ルファン○ジーっぽい城が圧倒的な存在感を放っている。
「でも、どうやってあそこに?」
僕は一応聞いてみる。まぁ、きっとドラゴンだろう。さっき上空にいたし。
「……部長の予想通りドラゴンですよ。すみませんね。明智か小早川かボナペンかというほど私は人の予想や期待を裏切ることに定評があるというのに」
そう言うと、ボナペントゥーラはリュックから海岸にいくらでも転がっているような貝殻のようなモノを取り出した。
「それ、貝殻の笛でしょ? それで呼び出すの?」
僕の言葉に対し、こちらをチラリと見ただけで特に返答はせずにボナペントゥーラは大きな声で言った。
「出でよ! ソルロニアの古代龍! 田中健太!!!」
そうボナペントゥーラが大声で言った瞬間……
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
そんな漫画的な擬音を立てて地面が揺れ始めた。
そして、地面に大きな地割れができた。
そこから、超巨大なドラゴン(長くて蛇っぽいタイプだった)が出てきた。
『我を呼んだか。ボナペントゥーラ』
ドラゴンは僕たちに語りかけてきた。
ふつうに口がパクパクと動いているから、脳内に直接語りかけてきているわけではないらしい。ちょっと残念だ。
「ええ。田中健太。呼んだですよ」
「ちょっと待って。ソルロニアの古代龍さん、田中健太って言う名前なの?」
「部長。聞いていれば流れでわかるでしょう?」
「……いやまぁ、流れ的には明らかだったけどね。うん。ある意味ちゃんと期待裏切ってくれたよ。ボナペントゥーラは」
名前が日本男児っぽいこともだが、地面から出てきたこと、ふつうに喋ること、あと、結局貝の笛使わなかったこと、そのあたりもある意味期待というか予想を裏切っている。
『ふん。ボナペントゥーラ。アルロニア最古の龍にして最強の龍である我を呼び出し使役する唯一の人間よ。願を聞こうか』
田中健太さんは言う。
「彼女はあるモノと引き換えに願いを叶えてくれるんですよ」
「あ、そうなんだ。というかそれより、田中健太さん、女の子なんだ……」
「見れば分かるでしょう? ピッチピチの17歳ですよ? いわゆるJKです」
「最古の龍と聞いていたけれど……」
「だってこの世界で龍が生まれたの、17年前ですし……」
そこもまた予想外だった。
「最古というのは事実なんだろうけど……古代龍とまで言うのはさすがに誇大と言わざるを得ないよね」
さあボナペントゥーラ。僕の最高にオサレな駄洒落が通じるか!?
『ふん。少年、上手く言ったつもりか。正直すべってるぞ』
田中健太ちゃんに言ったつもりはなかったのだが、彼女には手厳しいジャッジを下されてしまった。
「……ん? すべってる? 今の駄洒落だったんですか?」
ボナペントゥーラはきょとんとして言う。
『ああ。我の古代龍という二つ名と、誇大という言葉をかけているのだ』
「な~るほど! まぁまぁ面白いと思いますよ」
駄洒落の解説をするドラゴンを初めて見た。
「つまらない駄洒落は置いといてですね! 田中健太、この貝殻と引き換えに、私と部長を天空の島“アルッソ共和国”まで連れて行ってくださいな!」
『良いだろう。我はこの“かいがら”とやらに目がない。普段は絶対に人間の命など受けぬが、“かいがら”をくれるボナペントゥーラだけは別だ』
そう言って、田中健太はボナペントゥーラがぽーんと空に投げた貝殻を口でキャッチし、ボリボリと食べた。
『それ食べるんだ』とか、『水族館のイルカショーみたいだな』とか思ったが、僕はあえてそれを口にすることはなかった。
「田中健太。領収書くださいね。交通費としてアルッソ王女に請求しますので」
『わかっておる。ほら』
そう言って田中健太は自身の身をブルルと震わせた。すると、彼女の鱗が一枚ボナペントゥーラの足元に落ちた。
「ふーん。鱗が領収書になるんだ。よくできてるね」
僕は関心してそう呟いた。
『では、行くぞ』
田中健太はそう言うと、蛇のようにとぐろを巻いていた自身の体をまっすぐに伸ばした。
まっすぐになると、ほんとただのデカい蛇……じゃなくて、かなり大きい。キロメートルの単位ではないだろうか。
そしてまっずぐになった田中健太ちゃんは、自身の顔を僕たちの足元に置き、尾っぽの部分をアルッソ共和国の島の先端部分にくっつけた。
図で説明すると……
(アルッソ島)尻尾
胴体
胴体
胴体
胴体
胴体
顔 (ボナペン、僕)
上記の状態となった。
『見たか。これが我が秘儀。“古代龍の大橋”だっ!!!』
田中健太ちゃんはびっくりするほどのドヤ顔で言う。
「さすが。いつ見ても惚れ惚れする橋っぷりですね。明石大橋も尻尾巻いて逃げかえるですよ」
ボナペントゥーラが少し棒読み気味でお世辞を言う。
『ふっ。我は尻尾を巻くことはないからな。安心してアルッソまで渡るが良い』
上手いこと言って、さらにドヤる田中健太ちゃん。
「さて、つまらない駄洒落は置いといてっと。部長。アルッソ共和国まで“古代龍の大橋”の上を徒歩です。ドラゴンに乗ったらビューンと飛んで連れて行ってくれるほどアルロニアは甘くないですよ」
「う、うん。じゃあ、田中健太ちゃん、ちょっと頭の方、失礼しますね~」
僕は、ドラゴンとは言え他者の上に土足で乗るのだからと、礼儀正しくそろりと田中健太ちゃんに足を乗せようとした。
「あ、部長。そんなソロ~っとではなく、グイッと踏みつけてやってください。田中健太、踏まれるの好きなんで。ほらっ! こんなふうにっ! えいっ!」
『あっ! おほぉっ!!』
なんか頬を赤らめてる田中健太ちゃん。
僕はさすがにドン引きしたが、郷に入っては郷に従え……だ。
「そ、そうなんだ。わかった。じゃあ……ほら、トカゲめ。格下だと思ってた自分よりずっと小さい人間風情に踏まれて、都合のいい交通手段に成り下がった気持ちはどうだ? ほら! これが欲しかったんだろ? ほら! ほら!」
僕がグイグイっと踏むたびに、田中健太ちゃんは喘ぎ声をあげる。
『んほぉぉぉっ!! イイのぉ!!!』
喘ぐ変態龍。
そして、良い罵倒をした僕に触発されてか、ボナペントゥーラは自分も負けじと田中健太ちゃんを踏みつけながらアルッソ共和国を目指す。
「ふしだらで下品なメストカゲめ。土足で自分の体を踏みにじられる気分はどうですか?それも、さっきまで授業中に騒いだ罰としてトイレ掃除させられていた靴のままで」
『ばぶばぶぅ!! おぎゃぁぁぁぁああ!!! ママっ!! ママーーーっ!!!』
バブみをこじらせている変態ドラゴンであった。
そのオギャり声があまりに大きいのでボナペントゥーラは注意する。
「うるさいですよ田中健太! にしても、先輩の罵倒、悪くなかったですよ」
「え、そう? 照れるな。でも、ボナペントゥーラの罵倒こそ良かったよ」
「お互いナイス罵倒! ですねっ!」
「……ああ」
『クッ……我の上で我を蚊帳の外にして人間どもが青春してる……悔しいっ! でも感じちゃうっっ!!』
てな具合で、アルッソ共和国に到着した。
次回更新は明日(10月5日の木曜日)となっております。
また読んでくださると幸いですー!




