6番目のイリアス
後ろにはリーダーも控えていた。そしてその後ろに、とりまきの連中と続く。
いちいち話を聞くのについてくるというのも、世話焼きな連中だ。
連れ立ってこられて、聞かれて困るふうでもなく、アヤテが切り出す。
「ティアラには感謝している。出合った時から今日まで、一緒に戦ってくれたこと。だから貯めた点数はティアラの為に使いたいし、いつか俺が違う人間になって生きる未来より、ティアラと一緒にいられる時間を大切にしたい。」
ティアラが、こくんと頷いた。
それ以外、特に誰が口を挟むこともない。
目の前で放たれた言葉が綺麗すぎて、映画でも見て入るかのような錯覚がする。
「それで俺はイリアスになるって決めた。周りがいい顔をするとかしないとか、どうでもいいし。俺にできることがあるなら、それをしたい。盟約を結んで欲しい。」
慎重に言葉を選んでいたのか、フッと短く息を吐いて、アヤテが言葉を切った。
宮門が勢いよく席を立ち、アヤテの小さい背中を叩く。
「アヤテさん、そんな恥ずかしい台詞よお言わはった!」
「なにぃ!?」
「確かにな。」
今まで黙って見ていたリーダーが、ふいに前に出る。
「だがギルドとしてもティアラ本人としても、武器が増えるのはいいことだ。盟約を。」
ティアラがさらに頷く。
そして、珍しく喋った。
「アヤテ、こっちに来て。」
盟約を結ぶ時は喋っていいのだと、宮門が耳打ちしてくれた。
「そうなのか。なんで?」
「そもそもティーさんが喋られんのは、声に魔力があるからです。イリアスを使用する時、盟約を結ぶ時は、その魔力が必要ですから、魔力を放っていても大丈夫なんです。」
通常ティアラの声に含まれる魔力は、周りに強い影響を与えるらしい。なので普段は魔力を解放すること、すなわち『話す』ことが禁じられている。
表現の自由とは、ミハヤの街が唯一熱心に推している人権だったはずだが、この組織は非合法か。
俺の難しい顔に気がついて、「外聞悪いけど、組織の処理に納得してはるのはティーさん本人です。」
と宮門が言った。
「こっちで話そう、アヤテ。」
「盟約は?」
窓際によって二人の世界に入ってしまうアヤテとティアラの、その会話の中身を聞き取ろうと、俺も身を乗り出す。
すると後ろから魔女のローブを引かれ、引き戻された。
「なんだよ?」
振り返ると女が立っていた。肩にカラスが一羽とまっている。黒のドレスに銀の首飾り。
口紅が濃い。(つまり、俺の苦手なタイプの女。)
「アヤテがイリアスになるんだろ? 俺も見たい。」
「ここの店主がお知り合いだとか。」
「そうだけど。」
すっかり忘れていた。
「でしたら、少し顔を見せてくるといいでしょう。お友達なら、積もる話もあるでしょうし。」
「後でいい。」
「いいから、お前は行って来い。」
とリーダーにまで邪険にされる、ヒラヒラ手を振って追い出されるので、一旦席を離れた。
あぁ、そうか。気がついた。俺のようないわゆる余所者に、大事な儀式は見せられないのか。
お呼びじゃないってワケですね。
「ウゥゥ、見えないー!」
後ろからコッソリ盗み見てやろうと思ったのだが、とにかくこの魔女ちゃんは背が低いので、前に人が立ってしまうと先が見えない。
「クソ! ケチ! 誰かどけよ!」
叫んでも誰も振り向かない。
「ハイハイ、魔女さんはこっちー。」
とかやってるうちに、今度は宮門にローブを引っ張られる。
「友人の人、紹介して欲しいナア。」
皆してローブ引っ張るの止めてください。
「俺もアヤテがイリアスになるところが見たい。」
と正直に言うと、
「なぁんもオモロイことないですよ。」
と返ってくる。
ふむ。宮門は見たことがあるのか。
お偉い様方の人集りができてしまった窓際の席を離れて、俺と宮門はカウンター席へ移動する。
照明は薄暗く、カウンターの奥はよく見えない。酒の瓶のようなものが、びっしりと並んでいるようだった。
「宮門か。なんにする?」
たが見えなくても昔の仲間の声をウッカリ聞き間違えたりはしない。このお調子者の声は。
(エレッカ…。)
宮門とはすでに知り合いらしい。注文をとられ、宮門は普通にウイスキーなど頼んでいる。
集会所にいる間は勤務中じゃないのか?
「はい、決まりな。お連れさんは?」
注文を受けたエレッカが、俺の方へ向いて言う。もうツッコむのも疲れるが、彼には魔女の仮装に映るからだ。
「ソフトドリンクにしとく? 失礼、勘違いだったらごめんな。若く見えるんだ。」
「ブフッ」
と宮門が吹き出す。
そして笑い顔を見られないようにか、俺の方から顔をそむけた。
「………。」
沈黙する俺の横で、「笑ってない、笑ってない、笑ってない。」と何か唱える。
あぁ、納得がいかない。
カウンターの中から、注文をとりに来た従業員の名を、俺はよく知っている。
エレッカ・アルフェイス。
いやぁ、古い付き合いです。金髪に片耳ピアスというチャラい格好の見た目どおりで、性格も全くのお調子もの。
その上、行動力と管理能力は優秀というスペックで、裏の世界を生き抜いてきたと聞いている。
「薬と銃の密売はもう廃業したのか、エレッカ?」
細い足を組み、イスの上でふんぞり返って聞いてやると、エレッカは目を丸くした。
「え?」
「あ、彼が知り合いやった!」
さらに笑う宮門を無視して、エレッカは台の上に手をつき身を乗り出してくる。
「なんで宮門のツレが俺のこと知ってるんだ!?」
「だからツレじゃない。」
負けじと俺もカウンターへ乗りだす。
「お前、俺のことを忘れたとは言わせないぞ? ボッタクリのお前の店に辛抱強く通ってやったのは誰だ? 思いだせ!」
「その口調…。」
エレッカが眉間に皺を寄せる。それから俺のことを思い出したのか、その表情は驚きに変わった。
それから、再会の喜びに変わり、死別の悲しみへと、表情は転がるように変わった。
「そうか、お前か。…そんな格好でここにいるってことは…。」
「言うまでもないな。」
死んで魂だけになってしまった俺。
生前の罪を償うことができていない俺は、『ティアドロップ』に魂を回収された。今はこの組織の仕事の補助に従事している。
すなわち、ティアラのお手伝いさんだ。
「ナルホド…。」
エレッカは珍しく顔を伏せた。彼らしくない姿だ。
「昔の仲間とこんな形で再会して、気分のいいものじゃないな。」
死後の再会。俺も奇妙な感覚だ。
すぐ目の前にいる古い友人がすでに死んでいるのだと知っていながら話しかけているエレッカは、今どんな気持ちでいるのか想像もつかない。
「聞いちゃいけないのがここのルールだが、一体何があったんだ?」
「さぁな。ちょっと、俺がいつ死んだのかもわからないよ。」
「珍しいこととちゃいますよ。」
笑い終わったらしい宮門が、そう口を挟んでくる。
「おっと。」
宮門の存在を思い出し、エレッカが酒を作ってよこす。俺にもアルコールを出しかけて、
「あぁ、いやダメだ! 正体はわかったけど、体の方には毒だ。」
とオレンジジュースに入れ変えた。
「珍しくないってどういうことだ?」
ストローでオレンジジュースをちゅうちゅうしながら、隣に座る宮門に話を振る。
「突然事故に巻き込まれ、自分の体がどうなったのかもわからないまま死ぬ人間は多い。あとはそうやね、死ぬ事自体が理解できてへんケースもあります。子供や、中毒者の場合やけど。」
思い残しや思い入れが強すぎて、死んでもその場を離れないでいると、自分が生きていると錯覚するケースもあるという。
だから自殺者には、こういった俺のような地縛霊が多いらしい。
ところで話は変わるが、オレンジジュースなんて久しぶりに飲んだが、結構うまい。
「魔女さんの場合、死因が何やったのかまでは、わかりかねますねぇ。」
「そっか。」
返事をしてグラスに向き直ると、もう果汁100パーセントの液体が、半分くらいに減っている。
「こういうの、久々に飲むとすごく嬉しいよ。」
「ストロー噛んだらダメですよ。それにしても魔女さんは、ホンマにええ体にを見つけて貰った思います! 普通は死んだら、オレンジジュースなんて永遠にサヨナラですよ。」
「あっ!」
気がついて思わず声をにあげる。
永遠にサヨナラなんて浮いた言葉が、こんなに悲しかったことはない。
死んでしまった魂は、物か動物にしか入れてはいけないと聞いている。実際、アヤテは黒猫だ。
オレンジジュースなんて、逆立ちしたって飲めない。
「言われてみれば、そうか。」
それを言われると急にアヤテが不憫になる。そして他の霊達も同様だ。
「そう、だから…。『ティアドロップ』の連中は酒や食事を飲み食いするが、そいつらに連れられている霊魂たちは、飲み食いすることも眠ることもないのさ。」
エレッカの説明にフムフムと聞き入る。
エレッカはすでに、内部事情に詳しいようだ。
「毎日相手にしてるとな。だんだんと聞こえてくるんだよ。情報がいくらでも入ってくるからな。」
「というかお前、いつからこんな訳のわからない組織に店を貸した?」
もちろん昼には通常営業しているようだが、夜はこうして集会所になっている。
俺の質問にエレッカは、一言「ずっと前からこうだよ。」と答えた。
「誰にも言わなかったし、お前も気が付かなかっただけだ。」
全く気が付かなかった俺としては、ちっとも面白くない。
「俺はこの店を先代から継いだ。あまり褒められた生き方をしていなかった俺に、唯一正面から向き合ってくれた先代だ。俺はありったけの感謝を込めて、この店の裏の役目も継いだのさ。先代もそのまた先代から店を継ぎ、そのまた先代も同じように継いできた。死後世話になるんだから、これくらいは訳ないんだと。」
つまり、この店は随分昔から『ティアドロップ』の所有物ということだ。
「そんな昔からあるのか?」
この質問は宮門に向けてみた。
「はるか昔、神が人間をこの地に作りました。人間は火を使う技術や機械を使う技術を持って、次第に数を増やし、豊かな生活を手に入れた。それだけでは飽きたらず、森や海へ侵略していった。食べる以外の理由で動植物を殺していく人間を見て、神は怒り、人間の中の魂を無造作に回収し始めた。…こんな神話聞いたことありません?」
突然語り出した上で突然話を振られ、俺は固まった。
「え…なん…?」
「オルトエイシスの神話です。…神に魂を回収され始めた人間たちは、神に対抗する為に魂の自警団を作った。その名も『エスターヴァ』。冥界の言葉で、『魂を護る者』ゆう意味です。『エスターヴァ』は神話の中に出てくる名前と団体にすぎひんと思てる人も多いですが、ホンマは今のこの時代まで、活動を休止することなく生き続けてます。」
「それがまさか、『ティアドロップ』か?」
宮門がニコリと笑った。
「ここはミハヤ支部ですやん。」
宮門の喋りは独特にやにイントネーションを持ち、物腰が柔らかい。だから重要な話をされても、そうは聞こえなかった。
まるで昨日の夕飯にについて語っているような口調だ。
だがそのおかげでバカほど規模のデカイ話なのに、すんなりと頭に入ってきた。
「神話レベルに古くからある組織の、ここはミハヤ支部…。」
「そう。そうですねぇ。」
そこまで大きい組織であるのに、俺はもちろん、街の人たちも、生きている間にその存在を知ることはない。
何故ならこの組織は『死後』を取り扱っているからだ。そう思うと、鳥肌がたつ。
「アヤテの奴。そんなトコまで全然説明してくれてないんだけど。」
ストローを口の端にくわえたまま文句を言うと、
「あとで説明するつもりやったんちゃいます?」
と宮門がフォローをくれた。
アヤテの名前が出たので、エレッカが話題を変えてくる。
「そういえば、騒がしくしてたんでここまで聞こえてきたが、アヤテが6番目のイリアスになるらしいな。」
「あぁ、らしいな。」
ティアラが喜んでた、と付け足そうとしてやめた。代わりに、
「そのことで宮門に聞きたかったんだが…」
と切り出す。
「ええですよ。なんです?」
「イリアスが使えるのは、今はティアラだけって言っていたよな?」
今は、というところに力を入れる。
この組織の中でも、ティアラのように武器を召喚して戦うことは、誰でもできることではないらしい。
ただ宮門は、ティアラしかできないとは言っていないのだ。
条件さえ揃えば誰でもできるというような意味かと思ったが。
「ティーさんみたいにイリアスを使うには、資格が必要なんです。その資格は魔女を倒すことで手にできる。」
魔女とは、魂に集る凶悪顔のコウモリを、使役している主犯格だと聞いた気がする。
その魔女をティアラが倒した経験があるのなら、やはりティアラは組織の中でも腕がたつ方だとみえる。
「ティアラはそれでも二階の取り巻き連中に加わらないのか。」
「まぁ、今はイリアスを使えへん事情があるというだけで、魔女を倒した経験があるのはティーさんだけやない。上には上がいるっちゅうわけです。」
つまりリーダーも、魔女を倒した経験はあるということか。イリアスに任意でなれるという話がある以上、逆にイリアスをつとめてくれる人材がないと、使えないのかもしれない。
それならば納得はいく。
ティアラは更生を担った犯罪者から支持を受ける、つまりカリスマ性のようなものに関しては強いからだ。
アヤテでイリアスも6体目になるのだそうだし。
「ミハヤ支部であるここは、大きな中央都市と比べたら人数も少ないし、アンダンテも少ない。せやけどメンバー個々の戦闘能力や仕事量は優秀な方です。量より質の高いとこゆうことですね。」
宮門はそこで言葉をきった。
話つかれたのか、そこでようやく自分のグラスに手をつけた。
俺はとっくに空になっているグラスとストローを手の中で持て余す。ローブの袖が邪魔くさい。
「今さっき宮門が言っていた、アンダンテってなんだ?」
今度はエレッカに話を振る。
「アンダンテとは俺のことさ。というより、俺達のことだな。こうして集会所として使える場所を提供したり、裏の人間の生死の情報を掴んできたり、戦闘で破壊しちまった公共物を人知れず直したり…。まぁ、そういう組織メンバーで以外で組織に貢献している人間のことだ。」
大きい街ほどアンダンテは多い。協力者が多ければ、それだけ仕事もはかどりやすくなる。魂を管理するということは、大変であると同時にミスも許されない。
それ故に確実な情報の提供源がいるのだ。
その慎重な足運びは、俺も生前の職に通ずるところがある。
聞き取ったことをまとめようと、脳内でペンと印刷紙をフル活用する。
「他になんやアヤテさんに聞いてへんことありますか?」
「魔女のことだけど…。魔女を倒すとか聞いたんだけど、魔女って何人もいるものなのか? 倒すものなのか? 仲間じゃなくて?」
魔女の仮装の俺としては、居心地の悪い話だ。
「魔女は世界中に何人もいます。もちろん、一般には知られていません。むこうも隠してるんやと思います。罪のある魂に集るディリアスなど、魂に悪い影響を与えるものを操っているのが魔女です。魔女は神話の中では人間の魂を回収しようとしていた神の使徒を起源としてるんです。魔女を全て倒すことがエスターヴァの悲願であり、神と人間の戦争の終結です。」
宮門のその言葉に、俺は曖昧な返事をした。へぇ、とか、ふぅん、みたいな感じの返事を。
話についていけなかったので。
エスターヴァの悲願? 神と人間の戦争の終結? 一体、どこまで話が膨らむのだろう。
このまま宇宙大戦争までいくつもりなのか。
「全然わかってないと思う。こいつ、昔からそういう歴史の授業みたいな話は…。」
苦手なんだ、と説明しかけて、エレッカが言葉を止めた。そのまま彼の視線が客席の方へ向くので、俺と宮門もそろって同じ方向へ目を向ける。
ティアラが歩いてきた。黒猫を抱えている。
エレッカや宮門と話し込んでいる間に、儀式を終えたらしい。ティアラの腕の中で、アヤテは難しい顔をしている。
まだ緊張しているのか、不具合でもあるのか。
まわりのテーブルは相変わらず話し声や、食器の触れ合う音で騒がしい。
しかしその雰囲気は落ち着いていて、窓際に集まっていた沢山の人々も、いつの間にかいなくなっていた。
ティアラが儀式を終えたことで、組織全体が一段落したという様子だ。
「おつかれさんですぅ。イリアスデビューの感想、どないですか?」
さっそく宮門が茶化しにかかる。
アヤテはしばらく答えなかった。代わりに俺が「特に変わりないようだけど」と付け足す。
「イリアスになっても、容姿が変わるわけじゃないんだろ。ただ、ティアラの中に収納可能になるのと、ディリアスを倒す力が付属されるだけで。 」
エレッカがカウンターに肘をついたまま喋る。
「そうなのか。アヤテ、どんな感じだ?」
「変な感じ。」
アヤテが短く言う。
「尻尾がムズムズするんだ。」
俺はアヤテの尻尾を掴んで引き寄せた。固くてパサパサした毛に包まれている。
「なんともないぞ。」
と言った途端、アヤテの尻尾の先から大振りの鎌の刃がつきだした。
「うお!?」
あわてて尻尾から顔をはなす。宮門もエレッカも、俺のすっとんきょうな声に一瞬身を引いた。
「あ、悪い。」
ティアラに抱かれたままのアヤテが、そう言った。
鎌の刃の大きさは、俺の顔よりデカイ幅があり、かなりの刃渡りがある。
「それ、自由に動かせるのか?」
「ん……。」
アヤテが自分の尻尾をジッと見つめる。(たぶん、意識的に集中している。)
すると、尻尾がブンと振れて、鎌のような刃がカウンターテーブルに刺さった。
「見事やなぁ。」
と宮門が感心して声をもらし、
「ちょ、何してくれてんだよ!」
とエレッカが悲鳴を上げる。
「新しい、いりあす。」
ティアラがドヤドヤしながら、アヤテをテーブルへ下ろす。
アヤテはまだ尻尾の具合を確かめるように、鎌の刃を揺らしていた。
「カッコいいな」とか、「強そうだな」とか、ティアラにかけてやりたい言葉がいくつかでてきたが、アヤテの前でアヤテをホメるのは嫌なので、言わないでおく。
代わりに宮門が、アヤテを褒めた。
「アヤテさんは単独で動ける珍しいイリアスですし、この様子やと十分、戦力にもなる。新しいイリアスは、これ、大きいと思いますよ。」
それについては、俺も同意した。ティアラも、ニコリと微笑んだ。
「何かあったら、いつでも喚んでくれティアラ。すぐに助けに行くからな。」
そう言うと、他のイリアスと同じように、アヤテも砂のように細かい光の粒になって、空気の中に溶けた。
音もないし、風もない。
本物のイリアスみたいでカッコイイな、と思ったけれど、アヤテのドヤ顔を想像すると、ちょっと素直にはホメたくない。
「アヤテさん、消えてしまいましたね。」
宮門がポツリと口にした。
「魔女さん、エエんですか?」
「何が?」
「ティーさんの翻訳…」
あ…。
ああぁあ…。
「ティアラ、その、なんというか…。今すぐアヤテが必要になったから、もっかい呼んでくれないか。」
ティアラは目をしぱしぱさせて、首をちょっと傾ける。
ティアラの声には魔力が含まれているらしく、普段は喋ってはいけないという説明は聞いた。
アヤテは何故かしら、ティアラが一言も声を出さなくても、何を言おうとしているのかわかるようだが、俺にはそんな芸当は無理だ。
「不便だなぁ。」
エレッカが横から口を出してくる。
「お前も早く、なんでもわかってやれるパートナーになれよ。」
わかっているさ。
今、痛いほど感じているのは、そのことだ。
ティアラはアヤテの召喚を行いかけ、……何を思ったのか、途中でその手を止めた。それから俺の方へ向き直り、困ったような笑い顔になる。
「お、これは俺わかりますよ。」
宮門が俺の隣で、嬉しそうに声をあげた。
「アヤテがいなくても頑張って、ってことやないですか。」
「そうなのか?」
聞き返すと、ティアラは照れくさそうに頷く。
うぅ、そういう顔をされると、頑張るしかないか。
「わかったよ。俺も頑張る。アヤテに負けないくらいの、ベストパートナーになる。…オッケー?」
ティアラが、今日一番大きく頷いた。
子供なんて大嫌いだったが、ティアラは別か。素直にされると悪くない。
「今日、この後はどうするんだ?」
もうオヤスミの時間なのかい? 俺の問いかけに、ティアラはまた軽く頷くいた。そして小さい手で優しく俺の手をとると、微笑んだ。
これは俺にもわかったぞ。
『おうちに帰ろう』ってことか。




