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6番目の死霊  作者: 近衛モモ 
side.Ilious
3/10

『ティアドロップ』

 集会所は広い。

 それも一つの集団が二階建ての建物を一つ貸し切っているから、人も多く規模もデカイ。

 その中に通されて、アヤテを肩に乗せたティアラと並んで歩いていると、やたらと人に肩を叩かれた。

 「よぉ、犯罪者。」「ちゃんと更生しろよ。」といった類のヤジである。

 声をかけてくるのは、ティアラのような子供もいれば、体格のいいオッサンもいれば、杖をついた老人もいて、さらにナイスバディなお姉さんもいる。

 肌の白い奴も黒い奴も、人種にこだわりのない「寄せ集めた」ような集団、『ティアドロップ』。

 難民受け入れ所か、ここは。

「おかえり、ティアラ。」

 すれ違いざまに、細身で切れ長の目の男が、声をかけて通りすぎた。物腰の柔らかそうな男で、ふいに手を伸ばしたかと思えば、その指先に青い蝶が止まる。

 おそらくは、あれも中身は俺やアヤテと同じ犯罪者だろう。

「おーい、ティアラのお帰りだぞ。」

 喋らないティアラの代わりに、アヤテが声をかけている。

 あぁいう世話焼きなところを見ていると、とてもあれが元犯罪者とは思えない。

 そして注視してみれば、集会所の中には人でないものもたくさんいた。

 たくさんのテーブルや椅子が並び、すでに酒場のように盛り上がっている。酒や料理や武器がテーブルを埋め尽くしていた。

 内装は一階席と二階席にわかれていて、表で声をかけてきたオバケの面の怖い女は、二階の席にいた。

 すでに数人の男に囲まれている。

(ナルホド、アレがチームリーダーとそのとりまきってワケか。)

 などと観察していると、ティアラはすごすごと一階の窓際のテーブルに座った。

 この店内もオレンジの照明に照らされているが、カボチャのランタンやコウモリの姿は見当たらなかった。

 集まっている連中も、仮装の集団ではないようだ。

 俺も長いローブを引きずりながら、ティアラにくっついていく。

「お前も座れよ、魔女さん。」

 ティアラの肩から木造りのテーブルに下りたアヤテが、俺に言ってよこした。

 素直に正面の席をとる。

「どうやら観察眼はあるようだな、魔女さん。」

「裏の仕事の方が向いてたんだ。ここは人が多いけど、安全なのか?」

「集会所には結界がはってある。ディイリアスは中には入れない。」

 ナルホドです。

「それに、集会所にはいつも誰がいるようにしている。だから、ここに帰ってくると…。」

 何か言いかけて、アヤテはティアラへ視線を流す。

「なんだよ。」

「ティアラも落ち着くってことだ。」

 ティアラはテーブルに突っ伏している。

 なんと言うか、ごく普通の少女の「はー、疲れた。」という様子が見て取れた。

 今日は俺を保護してから、帰りの道でディイリアスに襲われたりして、よほど疲れているのだろう。

「それに対して、アヤテはどこにいても元気そうだな。」

「特に何もしてないからな。」

 ホントにこの猫は何もしていない。

「まぁ、それも今日で終わりだ。」

「なんだ自信たっぷりに。」

 黒猫はニヤリと口の端を上げた。何も言わずに。

 その謎の笑みに腹が立ったので頭を掴んでやると、

「仲えぇですね。」

 と後ろから声がかかった。

 とにかく人が多く人口密度も高いので、あっちからも、そっちからも声がかかる。

 今度は金髪のガンマンだった。背中にデカイ銃を背負っている。俺が知る限りずいぶん古い型だ。

 44番、アサルトか。

「いい女つかまえはったんやねぇ、アヤテさん。羨ましいわ。」

 細身で東洋系の顔つきに黒の革ジャン。彼が口にした言葉にひっかかる。

 いい女……。

 ん? 俺か?

「魔女の仮装をした人間の体を借りているだけ。中身は男だぞー、宮門。」

 アヤテのつまらない返事に、ミヤトと呼ばれた男が「うぇ!?」と目をむく。

 さらにアヤテの「しかも犯罪者」という言葉に、スゥッと数歩後退りした。

「うわぁ、アカン。それはナイ。 てゆか、犯罪者の魂を保護する器に人間を使うて、ルール違反やと思いますよ?」

「ちょっとした手違いでな。」

「うおー、どんなテチガイ。」

 国が違うのか、宮門は独特のイントネーションで話した。

 俺の正体に気がついたものの、「ちょっと、混ぜてね。」と言って同じテーブルにつく。

 どうやらティアラとも親しいらしく、どちらにも平等に話をふるが、ティアラが喋らないことも承知済みのようだった。

 代わりに会話もアヤテが代弁している。

「長い付き合いなんだと、ティアラが。」

 とアヤテが言う。急にこっちに話しをふってくるので、

「あ、そう。」

 と答えるのに一拍間が空いた。

「アヤテさんはもう点数貯まるやろ? 後釜にこの魔女さんが入るんやね……ハハ……。」

 最後のは枯れた笑いだった。

「いっそ中身のことは忘れて、外側だけ口説けたらええのに。」

「そこまでして無理すんなよ。」

 と言ってやった。

 自分で言うのもおかしいが。

「犯罪者のわりにはノリの軽いお人やね。」

「そうか?」

 そんなことは初めて言われた。自分が根暗だとは思っていないが、明るい性格だとも思わない。

「コイツ、暗いぞ?」

 とアヤテが余計なコメントをくれるので、尻尾を引っ張ってやる。

「いやいや、エエお人! ここに来る犯罪者の魂は、ふつう最初は喚くか暴れるか沈むかですやん。 なんや仕事帰りに飲みにきたようなテンションやし、軽犯の方? 殺しはしてへんの?」

「平然と聞いてくれるな。」

「そういう業界ですもん、ここ。」

「俺は殺しはやらない。金になるものを盗むために怪我をさせることはあっても、命までは盗まない。」

 宮門がたった今使った言葉に『業界』とあるが、まさに生前の俺の身の周りもそうだった。

 人を殺す奴、リスクを増やすことを嫌う奴、現金を狙う奴、宝石を狙う奴。盗みをするのにも色々な奴がいて、派閥というか、ハッキリ『業界』としてわかれていた。

 俺は万が一にも人を殺さないし、そういう危険性のある仕事はやらない。だから仲間も、俺をそういう仕事には誘わない。

「平和主義みたいでカッコエェなぁ。」

 宮門は笑うとエクボができる。

「これがいわゆるジェントルメンでっせ〜。アヤテさん。」

「うぜぇ!」

「人の生前のポリシーを『うぜぇ!』で片付けたらアカン。」

 疲れた体勢からいつのまにか復活していたティアラが、二人のやりとりをあたたかく見守っている。

 こうしてみると、この三人は本当に仲がいい。

 俺は除外して。

「本当に、付き合い長いんだな。」

「そらそうですよ。ティーさんとは、『バディ』組んでますもん。」

 バディ?

 また知らない単語がでたので、アヤテに視線を送る。

「バディてのは、パートナーみたいなもんで、一緒に行動する奴のことだ。危険も稼ぎも分け分けにする、平等で公平な相方で、組む組まないは個人の自由だが、組んだら一緒に仕事ができるんだ。」

 アヤテのバディについての説明をまとめてみましょう。

 ギルドの中には『バディ専科者』というのが何人か居て、ギルドに入会した時、自分の実力に自信がなかったり、不足や弱点を補いたいと思った奴は、このバディを専門としている協力のプロから好みの奴をチョイスしてバディにできるのだそうだ。

 大抵の場合は入会したての新人はバディを組むのが普通で、4.5年の経験積んで実力に自信がついたら、バディを解約できる。

 解約されたバディはまた新しくバディが必要な人間を探すか、自主トレにはげむか、録りためたビデオを見るか、…という具合らしい。

 ふう。

 やっぱり、長い説明は俺にむいてないな。

 確かに始めのうちは、稼ぎが『ワリカン』になっても協力者がいた方がいい。

 そして実力がついたなら、わざわざ一人で済む用事を多人数でやって稼ぎをわける必要もない。

 だがここ、『ティアドロップ』では、バディの取り外しがきくらしい。好きな時に協力して、用がなければ組まない。

「便利だな。」

 素直な感想を一つ。続けて質問。

「でもアヤテと『ずっと』一緒に仕事してるってコトは、ティアラも『ずっと』ここで働いているワケだろうし、……あの戦いぶりを見ても、ティアラは初心者じゃないだろ?」

 なんせ目からビーム、ではなく火炎放射器が出るのだから。

「まーな。ティアラは強い。」

「じゃバディを外したらいいじゃないか。 というか、今日はいなかったな、アンタ。」

「犯罪者の魂を回収する任務やったからね。」

 和やかな口調から、犯罪者と単語がでるのが似合わない。

 そしてその犯罪者とは、俺のことである。

「犯罪者担当ではないですし、慣れないモンがついて行ったら、ティーさんの足引っ張りますわ。」

 この組織、各種担当があるようだ。

「ティアラのようなおとなしい子供が犯罪者の担当で、ガンマンのアンタはバディ専科だから、そういう仕事は手伝わないっていうのか?」

 適材不適所じゃないですか?

 児童労働者が問題になっている国がある中、ミハヤでは大の大人の中にニートという人種がでてきたりしている昨今なので、時代がそうさせるのかもしれないが。

「見た目てあんまりアテにならんモンですよ。ティーさんはイリアス持たせたら敵なしですもん。戦闘はいくらでも参戦しますけど、まだ器にも入れてない犯罪者の魂を保護しに行くような『技術』のいる仕事は、ようついていきません。」

「はぁ…。」

 するところ宮門は戦闘にだけ長けた、超攻撃型タイプというわけか。

 ティアラはそこから、犯罪者を自分のもとにおいて管理する、『技術』というか、カリスマ性のようなものを持っているわけになる。

 同じテーブルに座っているこの少女がそれだけの力を持っていると思うと、ティアラ存在は相変わらず謎だらけだ。

「ますますもってバディなんて要らなくないか?」

 たまらなくなって本人に話をふる。

 するとティアラは、俺と目があって首を傾げた。それから宮門に視線を送り、二人で目が合い互いに頷き合う。

 何かを確認するように。

「意味わからん。アヤテ、訳してくれ。」

「つまり『え、なんで? 仲良しだから、ずっとバディなんだよねー?』って、ことだろ?」

 ナルホドです。

 実にティアラらしい。

そして、何故わかるんだアヤテ。

「慣れだよ。慣れ。ティアラとずっと一緒にいると、なんとなく喋んなくてもわかるんだよ。」

 こちらの意図を汲んだように、アヤテがいう。

「お前もわかってやれないようだと不便だから、早く慣れろよ。」

「アヤテが、訳せば早いじゃないか。」

「そうだけど、そういうことじゃないだろ。…ったく、これだから単独犯は協調性がねぇな。」

 アヤテは複数犯だったみたいな言い方である。

「アヤテは…、」

 丁度アヤテに質問をしかけた時、

「何言うてますの、アヤテさん。」

 宮門と声がカブった。

「アヤテさんはポイント貯まったんやから、もう任務終了。有効期間が終わる前に、境界へ行かなアカンで? もうアヤテさんが通訳するんは、これが最後や。」

「…………。」

 アヤテの無言のおかげで、三人と一匹がついたテーブルは凍りついた。

 俺はとっさにティアラの顔色を、何故かとっさに、うかがってしまって、そこに表情がないことにますます心臓が縮みあがった。

 沈黙は数秒間、テーブルを支配した。

 周りのテーブルのガヤ騒ぎやヒソヒソ声のすべてが、すぐ耳元に聴こえるくらいに。

「アヤテ、もう仕事終わりなのか?」

 この時、真っ先に口を開いてしまったことを後々に後悔したが遅かった。

「寂しいか? センパイがいなくなって。」

 とアヤテにからかわれたからだ。

「バカ言え。 そうか、その、じゃあアヤテは、罪を…償い終えたのか。」

 思わず言葉を選んでしまった。『天国へ行けるのか』とか、『生まれ変われるのか』とか、どれも俺の口からでるには恥ずかしい言葉だったので。

 いやいや、そんなガラじゃないと、自分自身が待ったをかけた。

「これでやっと、ティーさんに認めてもらえるんやもんね。」

 宮門の言葉に、ティアラも頷く。

 俺が、アヤテの最後の仕事だったのだ。

「よ、良かったじゃないか。おつかれさん。」

 労いの言葉をかけたつもりだった。

 しかし、アヤテはフンと鼻を鳴らした。

「それについてリーダーと話があったんだ。ちょっと呼んでくる。」

 言って、アヤテが視線を上へ。二階席に向けた。

 その先にはオバケの仮面の彼女、『ティアドロップ』のリーダーがいる。

 アヤテの仕事が終わる。

 俺はてっきりこのナマイキな猫も、一緒に働くものだと思っていた。

 だって、そうでなくっちゃあ、ティアラの通訳はどうするのだ。

「アヤテさんにもついに、ミストさんに話しかけに行く時が来たんやねぇ。」

 宮門は目に涙を浮かべている。「一緒に行かれんよ、おっかないもんで。」という内心が、だだ漏れているかのようだ。

「ティアラ、待ってろ。」

 アヤテに言われて、ティアラは素直にコクンと頷いた。

 アヤテはテーブルの上で立ち上がると、すぐ隣のテーブルへ飛び移り、そこからまた別のテーブル、カウンター、階段の手すりなどをわたって、二階席の方へと消えていった。

 新年会をやっている酒場ほど混み合っているので、あっという間に黒猫一匹を見失ってしまう。

 たくさんの人や人じゃないものが、迷惑そうにアヤテを叱りとばす声が聴こえた。

「点数が貯まったってことは、もう一緒に仕事しないってことだろ? ティアラ、大丈夫か?」

 アヤテがいなくなったのでティアラに話をふる。

 すると少女はイエスでもノーでもなく、ただ曖昧に首を傾けた。いつもの通訳がいないので、視線で宮門にたずねる。

 すると彼も戸惑ったふうで、

「うーん、ティーさん的には『期待してる』って感じやないですかね。アヤテさんはいかにも、6番目のイリアスやし。」

 いりあす。

 もう何度目か耳にする単語である。

「イリアスとディイリアスって、似てるけど全然違うんだろ?」

 宮門にたずねてから、慌てて付け足す。

「アヤテにディイリアスの説明は聞いてるけど、ティアラが使う不思議な力については、特に何も聞いてないんだ。」

「あぁ、そうやったんですか?」

 宮門がティアラに視線を送る。その視線をチラリと、アヤテ が走り去った方向に流すティアラ。

 そう、説明し損ねているのはアヤテのほうです。

「イリアス言うんは、冥界の言葉で『救うもの』いう意味です。ティーさんは冥界へ繋がる穴を開いて、このイリアスを召喚することができる。」

 イリアスの力を使うことで魂を救うことができるところから、そう呼ばれているのだと、宮門は続けた。

 ティアラの力、あの鍵などがイリアスで、『救うもの』。

 イリアスは俺の味方で、もっというと、俺はイリアスに救われる立場ということだ。

「逆にディイリアスは『救わざるもの』ゆう意味があります。『ディ』ってゆぅのが、冥界の言葉で逆の意味を表すんです。」

 ふむふむ。

 イリアスは救うもの。

 その逆でディイリアスは救わないもの。

 後者は俺の敵であり、ティアラの敵である。区別をつけておかないと、いざという時にティアラの足を引っ張りかねない。

「……で、そのイリアスが、アヤテとどう関係があるんだ。」

「イリアスになれるんです。」

 なんでもないふうに宮門が言う。

 ほんの一瞬、返答に迷った。

「ナルホド……いや。なんだって?」

 イリアスに『なれる』と宮門は言った気がした。俺は耳は悪い方じゃない。

「イリアスになれるんです。アヤテさんに限らず、きちんと働いて点数を稼いでいる魂やったら、誰でも。」

「誰でも。」

「えぇ。……ただ、イリアスになるためには点数と換算になるので、転生はできんようなります。それでもティーさんがこれまで担当してきた魂は、5体イリアスになってます。アヤテさんがイリアスになってくれたら、6番目のイリアスっちゅうわけです。」

 アヤテがイリアスになるかどうかは、ここにいる誰にもわからない。

 だだ、ティアラに執心気味のアヤテなら、自分が生まれ変わることよりも、ティアラと戦うことを選ぶ気がする。

 ティアラも今、それを信じて待っているのだ。

 全部で五体。

 それが、転生よりもティアラと戦うことを選んだ魂の数。

 素直に「すごいな」というのは気が引けたので、話題を変えることにする。

「イリアスを扱えるのは、ティアラだけなのか?」

「そうですよ。せやし、俺や他の組織のメンバーは、それぞれ武器を持ったり、聖水や聖なる油なんかで、ディイリアスと戦うんです。俺の銃も、弾には聖水入ってますし。」

「そんな特別な力を持っていても、ティアラは二階席の連中のとりまきには入れないのか。」

「特別ゆぅても、『今は』ティーさんしか使えへん言うだけですしね。」

 それらの会話に口を挟むように。

「戻ったぞ。」

 アヤテが再びテーブルの上に飛び乗ってきた。

「ティアラに、大事な話がある。」



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