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6番目の死霊  作者: 近衛モモ 
エピローグ
10/10

ミハヤ

 目が覚めたら状況整理。

 日頃からの習慣だ。


 えーっと、昨日は一日で色々とありすぎた。

 食べたり、寝たり、痛みを感じたり、やっていることは生きている時と変わらないのに、俺はどうやら死んで霊魂となっていたらしい。

 ティアラやアヤテに出会って、自分が何をしなくちゃいけないのかは、わかってきた。

 だけど実際に自分に何が出来るか、実戦に出てみないことには、わからない。

 俺が目を覚ましたのは、見慣れた住処ではなく、ティアラの住む小さな部屋だった。

 小部屋なのである。ここは二階で、一階には雑貨屋がある。木造の質素な造りで、家具は少ないが植物は多い。

「なんだっけな、このツルのある葉っぱ。ポトス?」

 ベッドに座った俺の正面に立って、ティアラがこくりと首を縦に振る。

「好きなのか?」

 もう一つ、こくん、がくる。

 朝日の中で、ティアラの髪がキラキラと輝く。ティアラの好きな葉っぱも、ベッドの上や机の上や、窓辺や、棚の上だとかで、元気よく光合成している。

 狭い部屋に住人は二人。俺が来る前はアヤテがいたけど、それでも二人と一匹。

 植物とか置いていないと寂しいのかもしれない。

 部屋の内装も、このポトスたちを抜いて考えると、殺風景なものだし。

「俺も好きだよ。」

 と言ってみれば、ティアラがニコッと笑う。やっぱり喋らない。

 理由はわかっている。ティアラの声には魔力があるから。

 周囲に影響を出さないために、あえて声をひめているのだ。

(…納得いかねぇなぁ。俺だけか、こういう考え方するの。)

 いや、アヤテもだろ。と一人ツッコミ。

 ノックの音が二回して、部屋の外から声がかかる。

「ティアラちゃーん! そろそろお仕事の時間なんじゃない? 遅れるとお給料減っちゃうわよ。」

 一階の雑貨屋のオーナーで、この部屋をティアラに貸している主だ。毎朝、こうしてモーニングノックしてくれるらしい。

 猫を甘やかすような声で喋るところ、誰を相手にしても全く怖じない性格が出ている。

 ティアラのジェスチャー曰く、ここらじゃこの人が最強らしい。

 壁にかかった時計を見る。短い針と長い針が、仲悪そうにてんでの方向をさしている。

「時間みたいだな。……そろそろ行くか?」

 ティアラがぴしっと手のひらを向ける。「ちょっと待って」だ。

 そして左手は軽く上に向けて、俺に何か差し出す仕草。

「ちょっと待って。渡したいものがある。…だな。」

 俺の通訳に、ティアラは100点を出してくれた。そして、少し錆び付いた小さい鍵を取り出してきて、俺が出した手のひらの上に落とす。

「家の鍵?」

 俺の質問。返答はYES。

「合鍵?」

 これもYES。

「持ってていいのか?」

 これには、腰に手を当てて頷く。

『その方が便利』という意味だろうか。

 そうか。それなら、そうしよう。

 合鍵を貰って、それをポケットにつっこむ。この服はとにかくポケットが多い。

 可愛らしくレースをあしらったポケットが、スカートに二つも三つもついているのだ。死んだばかりで着替えがない、そう言った俺に雑貨屋のオーナーが貸してくれたのは、かなり抵抗のあるドレスファッションだった。

 ヒラヒラした装飾がムダに多く、色調は黒地に白のレースのモノクロトーン。

「ゴスロリ系よぉ。似合うじゃない?」

 と言われたが、似合うのは俺じゃなくて、この体の魔女ちゃんだ。

 今日はもう魔女の仮装ではないけれど。



 家の外へ出ると、呆れるほどの快晴だった。

 ミハヤの天気は気分屋さんで、延々雨が降り続いたかと思えば、何事もなかったかのような顔で、晴れ続いたりする。

 青い空の下、家の前はカボチャが並んでいた。近所の子供たちも、仮装の準備を楽しんでいるようだ。

 ハロウィンのお祭りは、昨日もしてたし、その前もしてたでしょ、とツッコミたくなるが、この街がずっとこんな調子の理由も知っているから、仕方がない。

 10月31日。

 俺の死んだ日。

 その日から街の流れは、俺の中でずっと止まってしまっている。

 ティアラの家もとい、雑貨屋「ファイン・レンシア」が建つのは商業区の外れ、一番街の中ほどだ。

 3番街、『ティアドロップ』の集会所へ行くのに、広場の横を二人で歩く。

 この晴れた天気の下、ゴスロリ服はかなりキツイ。

 こんなものを着て自分が街を歩いていると思うと嫌だが、ティアラと雑貨屋オーナーに、「似合う!」と絶賛されたので、しぶしぶ押し切られた。

 道沿いにパッションカラーのワンピースをディスプレイしたショーウィンドウ。その前に立つと、そこに俺の姿は映らず、ゴスロリ服の女が映る。

(確かに、似合うけど。)

 金の髪、黒のドレス、白のレース。

 俺としては、黒色にしか縁のないファッションで生きてきたので、落ち着かない。

 その俺の横を、白くて新しいシャツと、丈の長い上着を着たティアラがテクテクと歩く。

「宮門に会ったら、絶対笑われると思う。」

 ティアラに向けて言った。口元に手を当て、ティアラは柔らかく笑った。そうかもね、と。

 それからギルドまでの道のりを、早朝散歩のような気分で二人で歩いた。会話がないのは言うまでもないが、不思議とその沈黙も心地いい。

 死んだなんて、嘘みたいだな。

 死というものの定義にもよるのか。

 会話の代わりに街に目を向けたが、ミハヤの街は常に代わり映えしない。煉瓦の色も街の空気も。

 騒がしいかと思えば、こんなにおとなしいミハヤの街。

 今日も街のシンボルのディティアス大聖堂が、朝陽の中で黒光りしている。


 

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