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バードクエスト

バードクエスト(連載)

作者: oga

前回のあらすじ


主人公 大谷鳥之(35)は人生に楽しみを見いだせず、つまらない日々を送っていた

しかしある日、メールボックスから写真コンクールの告知メールを目にする

同期の山根からも何か趣味を始めてみろよとアドバイスを受け、写真コンクールの作品を見る

そこで、カワセミの写真に感化され、自分もカワセミの写真を撮ろうと思い立つ

鳥の撮影に苦戦していたところ、鳥マニアこと高野望と出会う

そして彼女と撮影に出かけたのであった・・・


高野はリュックから一眼レフを取り出した それを首にかけると、まず川のほうに向かった

「あそこにカイツブリがいるでしょ?」

「あれ、カモですよね?黒い」

「あなた、カワセミ以外全然知らないのかしら あれはカイツブリって言うの 体は全体的に黒くて、特徴的な黄色い目をしてるでしょ 日本では一年中見かける留鳥よ ちゃんとカモとは区別されてるから間違えないでね」

鳥のことを話始めたら止まらないタイプとみた

「で、早速撮影するけど、まずただ撮るだけじゃコンテストには入賞できないわよ ちゃんと一枚の作品を撮るつもりでとってね カメラの営業なら今更扱いに関してのレクチャーはいらないと思うけど。」

「絞りとか、シャッタースピードなら分かりますけど、オートじゃダメなんですか?」

「最初はそれでもいいけどね 覚えておいて欲しいのは鳥は早いからシャッタースピードはできるだけ早くしておくのが基本 じゃないとブレた写真しか撮れなくなるわ オートで撮影してうまくいかないときはマニュアルに頼るしかないから 絞りはシャッタースピードが速くなる分暗くなるから開放のほうがいいわね」


補足だが、カメラの絞りは絞るほど周りと被写体とのボカしが強くなっていく そのため被写体をより浮き立たせたい場合などに使える 絞りが浅ければ、全体的に鮮明な絵が撮れる また、絞り込めば絵は光を捉えにくくなる分暗くなり、浅ければ、明るくなる

シャッタースピードは、早ければ動きの一瞬が捉えられる 遅いとブレた絵になるが、あえてそういった動きを表現するために使うこともできる こちらも光を捉える関係で、早いと暗く、遅いと明るくなる

カメラのこの機能を組み合わせて、露出 つまり被写体をどう移すかが決まる


高野は悠遊と泳ぐカイツブリにファインダーを向けた

パシャパシャと連続で何枚も撮る

次に姿勢を低くして少しずつ接近し、また連射で撮る

カイツブリは何を思うか、高野の前を行ったり来たりしながら、水面に波を立ててスイスイと泳ぐ

こうやってじっくり見ると、何考えてるか分からない感じがするけど、そこがかわいいかもな、と思った

・・・もちろんカイツブリのことだ

20枚くらい撮り終えると、撮った中から選別を始めた

「これなんかなかなか、体もいい感じの大きさで撮れてるし、水面の光とこの表情が、なんともたそがれてる感じを醸し出してるわね」

この前撮ったカモとはずいぶん違うな

さっそく私もカメラを向けて何枚か撮ってみた


次に木が茂った林のほうに向かった

高野は耳を傾けて、双眼鏡をもってつぶさに木の上を観察している

「鳥の姿が見えなくても、鳴き声が聞こえればこちらのものよ まだ遠くだけど、じっくり観察していけば見つかるわ」

15分ほど散策し、ようやくその姿を双眼鏡で捉えた

「いたわ、シジュウカラね」

「ど、どこすか?」

「あの木の枝よ、双眼鏡で見てみて。」

そこにはスズメのような白と黒の小型の鳥がいた

「あ、いました。スズメみたいなのが」

「シジュウカラって言って、これも留鳥 日本ではどこにでもいるポピュラーな鳥だわ 鳩とかほどではないけどね ツーペツーペってかわいい鳴き声してるでしょ 形を見たら分かるけどスズメの仲間ね」

高野は一瞬でカメラを構え、ピントを合わせて、警戒されないよう遠目からシャッターを切った

私も後に続いてカメラを構えたが、なかなかピントが合わない

そのうち気づかれて飛び立ってしまった

「あー、気づかれちゃった あんまり撮れなかったわね やっぱりベストポジションで待ったほうが写真としてはいいものが撮れるわよね」

写真はやや遠目で、枝が邪魔をしていたが、一枚だけ枝をかわしてシジュウカラの姿をばっちり捉えたものがあった

くっ・・・やるな

そうやって1日が終わった

私も、コサギ、カイツブリの写真が撮れ、写真のレクチャーも受けることができ、満足していた

「次はもっとレベルアップしてから会いましょう、コンクールまでにはカワセミの写真が撮れるようにがんばって」

この時、高野からある宿題を出されていた


鳥之は先週の日曜のことを営業先に向かう電車の中で考えていた

高野望、その正体、そしてカワセミ

結局あの日はカワセミの写真は撮れなかった 正確には撮らせてもらえなかったというべきか

私にはまだ早い、ということなのだろう

高野はこういった

「写真撮影の技術が上がったら教えてあげるわ。その証拠として、自分の自信作を一枚撮ってきなさい

それで私が納得したらいいわ」

多少腹がたったが、撮影の技術を教わる身としては悪くは言えなかった


営業先は新宿にある大手家電量販店である

この店は新宿の家電量販店の顔ともいえる大型店舗を持っていて、うちの得意先の中でもかなり有力な候補である

昨日徹夜して作った資料とカタログをもって、担当と打ち合わせをする段取りだ

店舗に到着し、エスカレーターで地下のカメラコーナーに向かう 1階はスマホや充電機器のコーナーで、B1階がカメラ売り場だ

バックヤードに入って、店員に声をかける

「おはようございます ○○の大谷と申しますが、丸井店長はいらっしゃいます?」

すぐ案内してもらい、店長の部屋に入った

「大谷さん、待ってました、資料できました?」

私は早速作った資料を机に並べて説明を始めた

「先日説明した通り、うちが今押しているカメラです スマホカメラの性能の向上で、通常のカメラの需要が少なくなることをみこして、開発に力を入れてるのが、こういった特殊性の高いカメラです」

カタログにはスタイル1という新商品のカメラの説明がのっている

「ざっと機能はこちらに書いてありますが、特徴の光学ズーム機能は10倍、これはスマホにはできませんし、このサイズなら一眼のレンズを持ち運ぶよりもずっと楽です。」

(鳥の撮影にうってつけですね)

「さらに、スマホからの遠隔機能も付いてます。いちいちカメラを構えてなくても、スマホを除くだけで、撮りたい瞬間が撮れます」

(狙ったポジションで楽に鳥を撮影できますね)

「形が少し売れ筋のものとは違うけど、望遠機能付きでこれだけ小さいのは他のメーカーにもないですねえ、お宅がこれを目玉に置いてほしいというなら、少し検討してみます うちの客層と合うかも考えなきゃいけませんし、ところで、これはどんな写真を撮るのに一番適してます?」

「もちろん鳥・・・ではなく、一番というものはないですが、あえて決めるなら子供の運動会で少し離れた場所からでもきれいに撮れます わが子の運動会、頑張ってる表情までくっきり撮影 なんてキャッチコピーどうでしょう?」

「運動会ねえ、子供の行事ごとにってことですか。いいかもしれませんね!」

どうやら商談はまとまりそうだ

売れ行きが良ければ置く台数を増やしてもいいとのことだ


会社に戻り、今日の報告書をまとめていると、山根から声をかけられた

「お前、今日飲みにいかないか?」

「いいね、新宿の焼き鳥?」

「オッケー、じゃお前それ早く片付けとけよ。」

「もう終わる、1時間後店に集合な」

こいつとはよく飲みに行く 1週間に2回も3回もはちょっと多い気がするが、今日は話のタネがある

鳥を撮ってるなんて言ったらどんな顔するか見ものだ

高野のことはできるだけしゃべらないよう努力せねば めちゃくちゃ話たいが・・・


自分の趣味を見つけ、それを話す相手もいる

鳥之は久しぶりに楽しいと思える日を送っていた

そして、課題の写真一枚

コンクールに向けてのカワセミ

今週、絶対高野を納得させる一枚を撮ろうと決意を固めた






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