表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

第二話 夜の学校には危険がいっぱい

 あれはちょうど去年の夏だった。

 俺がこの興南(こうなん)高校に入学して、半年程経った日の出来事だった。


「拓海ー。お前部活とか入んないの?」

「健吾だって入ってないじゃないか」

「俺は忙しいんだよ。放課後はいろいろとな」

「本当か? いつも気付いた時にはいないよな。いつもどこに行ってるんだ?」

「ふふーん。それは……秘密だ!」

「あっそ。それならそれでいいや」

「ちょ、ちょっと待てよ拓海! いくら何でもそれはひどくないか!?」

「だってそこまでして気になる事でもないし」

「俺達友達だよね? 友達だったら気になるのが普通だよな?」

「あっ。あそこにいるのって、生徒会長じゃないか?」

「俺の事は無視かよ……。どれどれ……って、あの人は生徒会長の棚町静乃先輩じゃないか!」

「だから、そうだって言っただろ。健吾詳しいのか?」

「詳しいとか以前に、あの人を知らない生徒は、この学校にはいないだろ!」

「そうなのか? 俺はそこまで詳しく知らないけど」

「お前正気か!? 棚町静乃先輩って言ったら、この学校で一、二を争う人気者だぞ?」

「そうなのか? 確かにあの人綺麗だもんな」

「それだけじゃないぞ。何と言っても、あの高校生離れしたプロポーション。神が作ったとしか言いようがない。

 なぜ彼女の胸は、あんなにも大きいのか! きっと夢が詰まっているに違いない!」

「力説してる所悪いが、女子が引いているぞ」

「へ……?」


 健吾を遠巻きに、女子の刺す様な視線が怖かった。

 健吾は額から汗水垂らし、一目散にその場から逃げる。

 残された俺は、なぜか生徒会長の姿を目で追ってしまっていた。

 一瞬───彼女と目が合った気がした。


 気がしただけだろう。

 自分の勘違いだと捨て置いて、俺も教室に戻るべく踵を返した。


 それが彼女と俺の初めての出会いだった。

 それからわずかの間で、あんな事になるなんて、この時の俺には知る由もなかった。


 ◆


 その日の放課後。

 俺は教室に忘れた、教科書を取りに戻っていた。

 時間は既に夜。


 別段急ぐ用事でもないのだが、困った事に明日の小テストで使う教科書だった。


「俺も馬鹿だな。こんな時間に学校に行かなきゃいけないなんて」


 一応学校には先に連絡をして、不法侵入と勘違いされないように、手は打ってある。


 夜の学校というのは、いくつになっても怖いものだ。

 校門を潜り抜け、事務所の人に挨拶をしてから教室へと向かう。

 教室に向かう途中で、生徒会の部屋に光が灯っているのが見えた。


「こんな時間に、まだ生徒会の人は仕事をしてるのか。真面目なんだな」


 俺は一人ごちると、生徒会室の前を素通りしようとした。

 すると、部屋の中から女子の甘い声が聞こえて来る。


「ん……あっ、んっ、ぁっ」


 俺は驚き、意味もなくきょろきょろと辺りを見回す。

 何かイケない場面に出くわしてしまったみたいだ。


「これは……見て見ぬふりをした方がいいよな?」


 誰にともなく呟いた言葉は虚空に吸い込まれた。

 俺がそのまま素通りしようと、足を前に出したその時。


「拓海君……そ、そこはダメよ。あっ……ん!」


 びくっと体が震えた。

 なぜここで俺の名前が出て来るのか……。


「いや、たまたまだよな? 拓海何てどこにでもいる平凡な名前だ。俺の事じゃない」


 自分で自分に言い聞かせると、俺は無心の境地でやり過ごす。


「志熊拓海君。私は……君の事が……」


 やり過ごそうと思ったら、完全に俺の事だった。

 もう誤魔化せないくらい俺の事だった。


「何で生徒会室から俺の名前が聞こえてくるんだー!」

「誰!?」

「やばっ。早く逃げないと」


 走り去ろうとした俺の目の前で、無情にも扉が勢いよく開けられた。

 扉を開けた人物は───まさかの棚町静乃先輩だった。

 そう、誰あろう生徒会長その人だったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ